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SXSW

テックの祭典「SXSW」(サウスバイ、サウスウェスト)からの情報共有です。

世界はどんどん進化しています。
フォローしながらそれらを超えてゆく発想と取組が必要です。

キーワードの意味を認識しておきましょう。

五つの最新キーワード:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC264ET0W4A320C2000000/

**キーワード:**

1. マーケティングファネルの死
2. 五感マーケティング
3. グランドフルエンサー
4. 拡張視聴者
5. ゼロUI

【日経新聞より引用】
ブランド価値は購入後に生まれる
(1)「マーケティングファネルの死」
「認知」「興味・関心」と段階を踏んで最終的に「購入」に至る三角形の図は、マーケターの仕事を紹介する教科書の中でも、基本のフレームワーク(骨組み、分かりやすく図示したもの)として登場する。
しかし、その誰もが知るマーケティングファネルは、もう死んでいる――。ちょっとしたショックを誘発するようなタイトルのセッションがあった。
米PR会社エデルマンが23年5月に実施した14カ国、約1万4000人を対象に実施した消費者調査によると、「初めての製品を購入した後、ブランドにロイヤルティーを感じるようになる」と回答した人は78%、商品を買うだけなく「ブログやSNS(交流サイト)を読む、イベントに参加するなどブランドと関わりを持つ」という回答は79%となった。
消費者がブランドとつながりたい主な理由として「製品だけでなくブランドの価値も評価したい」「値引きキャンペーンを利用したい」「ブランドの情報を知識として知りたい」があると言う。「従来のマーケティングファネルはブランドがどんな特徴を持ち、その価値による影響を考慮に入れていない」とエデルマン執行副社長のコートニー・ミラー氏は説明する。
もちろん以前から、BtoB(企業間取引)やサブスクリプション(定額課金)ビジネスを中心にマーケティングファネルは「時代遅れ」になっているという議論はあり、その先にある顧客とのつながりが重要といわれてきた。改めて、BtoBやサブスクのみならず、日用品や飲食料品など買い切りの商品を含め、あらゆる手段を通じて意識の転換が必要になってきた、というわけだ。
講演後半に登場したメール配信ツールを運営する米メールチンプのマーク・ディクリスティーナ副社長は「良い顧客データを持つことが大事。メルマガであれば、消費者から2段階の登録確認を経てから配信するダブルオプトインも有効だ。より熱心な読者を集めることができる」と言う。
さらにメルマガを配信する際には「毎日配信するにしても、週1回配信するにしても、コンスタントに一定のペースを保つことがエンゲージメントにつながる」(ディクリスティーナ氏)とアドバイスする。
(2)「五感マーケティング」
セッション開始の時間が来ると、突然部屋の照明が落ちた。「あなたが初めて食べたアイスクリームを思い出して下さい……何歳で、その場所は。どんな匂いと味でしたか」。ステージ横に置かれた噴霧器からは、甘いバニラの香りが漂ってくる。
精神の統一をする瞑想(めいそう)やマインドフルネスのサロンのような演出で説明を始めたのは、米ミズーリ州などで展開するアイスクリーム店を運営する米クレメンタインズノッティー&ナイスアイスクリームの「フレーバー誘惑者」でありCEOのタマラ・キーフ氏だ。
キーフ氏は大手消費財メーカーのマーケティングやブランディングの担当者として25年間経験を積み、幼い頃に食べた手作りアイスクリームを夢に抱いて14年に起業する。現在はミズーリ州やイリノイ州に8店舗を構え、行列が途切れることのないほどの人気店となっている。

クレメンタインズノッティー&ナイスアイスクリームのウェブページ。アルコール入りの大人向けアイスも扱っている
ファンからの支持を集めるための秘訣は「五感」に訴えること。まず視覚。フランス料理のビストロをイメージした内装で、壁を彩るアート作品やアイスクリームを描いた専用の壁紙、手書きのメニューなどが並ぶ。あたかもディズニーランドの入り口をくぐったときのような、ちょっとした非日常の世界に飛び込む感覚が味わえる、と言うわけだ。
嗅覚については、甘いミルクとワッフルを焼く香りを店内はもちろん、店外にまで漂わせる。「煙で食わせる」という日本のうなぎ屋と同じだ。聴覚では、音楽のテンポにこだわっている。テンポが遅い音楽は、食事時間を長くして顧客満足度を向上させ、逆にアップテンポの音楽は回転率を高める効果があると言われる。そこで昼から夕方まではソフトテンポでゆったりと過ごせる音楽を、夜7時以降のピークタイムには、速いテンポの音楽を流している。
触覚については、店内に置かれたオリジナルTシャツなどグッズ、あるいは冷蔵庫を開けて持ち帰りや配送用のアイスクリームを手に取って見ることができるようにした。
当然、味覚にもこだわっている。人工的な香料、着色料、乳化剤は使用していない。一般的なアイスクリームは総量の50%相当の空気を含んでいるが、クレメンタインズでは30%に抑えて濃厚な味わいとしている。アルコールを含む大人向け、乳製品を含まないビーガン(完全菜食主義者)向けアイスクリームもある。
五感に訴える有機的な体験によって「アイスクリーム店の来店回数は全国平均で2〜4回であるのに対し、私たちの顧客は年間15〜17回来店する」(キーフ氏)という成果を出している。現在、生産拠点では50店舗分をまかなえる体制が整っており、今後は店舗の全米展開を目指していく。
Z世代に人気、70代や80代のインフルエンサー
(3)「グランドフルエンサー」
TikTok(ティックトック)やInstagram(インスタグラム)のReels(リール)などの動画プラットフォームは、1990年代半ば以降に生まれたZ世代など若者にとって身近な娯楽であり、流行を知る情報発信のメディアとしても浸透している。それら若者向けのサービス内で、ある世代の配信者がひそかな人気を呼んでいる。70代や80代などの高齢者による「グランドフルエンサー」と呼ばれる人々だ。
室内、プール、街中、リゾートのビーチ、ビルの屋上のヘリポート。スマホ画面の中でおじいさんやおばあさんが最新の流行曲に合わせ、ぎこちないながらもダンスを披露する。21年開始のTikTokのチャンネル「リタイアメントハウス」は若者を中心に560万ものフォロワーを獲得している。
なぜ高齢者の動画が若者を引き付けるのか。「ソーシャルメディアは本物志向の時代になっている。我々の動画はユニークであり、両親や祖父母と一緒にいることの大切さを訴えようとしている。それが共感を呼んでいる」と、リタイアメントハウスの共同設立者で、米ロサンゼルスのクリエイティブスタジオに所属するブランドン・チェイス氏は話す。
リタイアメントハウスに登場するグランドフルエンサーの1人、ゲイリン・ベイカー氏も講演に参加した。「当初はTikTokやインフルエンサーが何であるのか知らなかった。人生は喜びと驚きに満ちている」と笑顔でコメントした。リタイアメントハウスの動画やイベントなどの参加を通して、「若い人たちにインスピレーションを与え、私たちの年齢層の人たちとの間に橋を架けることができる」ことが喜びになっていると語った。

「リタイアメントハウス」のTikTokチャンネル
最近では企業やブランドが、TikTokなどのインフルエンサーと連携して商品やサービスをプロモーションする案件も増えている。ただ、97歳の祖母と動画を作成して投稿しているコンテンツクリエイターのロス・スミス氏は、理想とする動画を追究するため、現在はブランドと大量の案件を抱えることは控えている。
ブランドと組む場合、「こうした形で撮影して欲しい」という意に沿わない要望が来るケースもあるためだ。「お金よりも、まずは本物であることが大切。見ている人たちの心に響く、もっと知りたいと思うものでなければならない」とスミス氏は説明する。
この点にはチェイス氏も同意する。ブランドと連携する際には「君たちはクリエイターだ。やるべきことをやってくれ。そのうえで、私たちの製品をうまく取り込んでもらえたらいい。それが理想だ」と話した。
ARでZ世代とも深くつながる
(4)「拡張視聴者(AA)」
現実世界と3次元(3D)のデジタルコンテンツを融合する拡張現実(AR)のサービスが広がりつつある。このARを企業やブランドが、プロモーション手法として活用した際、その対象ユーザーは、拡張視聴者(AA)と呼ばれることがある。
AAについて講演をしたのは、画像共有アプリ「Snapchat(スナップチャット)」を運営する米スナップ内でAR関連サービスを開発する組織「アルカディア」のレッシュ・シドゥ氏だ。
Snapchat内では、カメラの映像に映る顔や体にキャラクターを重ね合わせる、風景の中に存在しない物体を浮かび上がらせるといったARアプリを配信している。こうしたARの機能をSnapchat内で使う人の数は「日次で3億人に達している」とシドゥ氏は説明する。SnapchatのDAU(1日当たりの利用者数)は約4億人とされているため、7割を超える計算になる。

米ライブネーション・エンターテインメントと展開したライブイベント会場のARサービス
ARを活用することで「新製品を発表する、ブランドストーリーを伝えるなど、ユニークな方法で視聴者を魅了できている。ARには、感情的なレベルでZ世代などとつながる力がある」(シドゥ氏)として複数の事例を紹介した。チケット販売やイベント興行を手掛ける米ライブネーション・エンターテインメントとの取り組みでは屋外の音楽フェス会場でARの会場地図や案内を表示できるようにした。
他にも、米コカ・コーラの自動販売機にSnapのAR機能を取り込み、大きなディスプレーを取り付けることで、体の動きで商品を選択できたり、購入者の体に真っ赤なジャケットを重ね合わせたりする例も紹介した。

米コカ・コーラとAR機能を搭載した自動販売機を開発した
今後は生成AIや米アップルのVision Pro(ビジョンプロ)のようなヘッドセットとも組み合わせて、さらなる進化を目指していくと言う。
UIすらAIで自動生成する時代に
(5)「ゼロUI」
ChatGPTが登場し、テキストで命令文(プロンプト)を書くことで、瞬時にAIからの多彩な分野についての回答を得られるようになった。最近では、音声での入力や、画像での出力など多様なファイル形式に対応するマルチモーダル化が進み、それらの生成AI機能を組み込んだサービスやアプリが登場している。
今後の生成AI関連サービスの進化の方向性として「ゼロUI(ユーザーインタフェース)」を紹介したのは、SXSWに毎年登壇している人気スピーカーの1人で、デザインやAIの専門家として活躍するジョン・マエダ氏である。
これまでアプリやサービスを提供する場合には、運営する事業者が操作のためのボタンや情報表示の場所を指定するなど、UIを作り込むことが当たり前だった。今後は、それらUIを生成する役割も、AIが担っていく。そうした考え方が「ゼロUI」となる。
例えば新聞のようなニュースを表示するサービスがあったとする。「利用者が写真を好む人であれば『写真を見せて』と入力することで、写真のみを並べた雑誌のような画面をつくってくれる。同様に、時間のないときには短いサマリーのみを並べてくれるし、じっくり読みたいときには長い文章をピックアップしてくれる」(マエダ氏)
固定された既存のUIは存在せず、ゼロの状態になっている。その都度、ユーザーがテキストや音声などで要望を投げかけることで、AIがUIを生成するのだ。これまでアプリやサービスの提供事業者は、UIの良しあしも差異化ポイントの1つと位置付けてきた。もしかしたら将来はその考え方が一変し、コンテンツの中身のみ、あるいはその他情報と組み合わせの妙などで勝負する時代になっていくのかもしれない。
ゼロUIの技術はクラウドサービスの米バーセルが開発しており、ソフトウエア開発キット(SDK)を公開している。外部の様々な機能を呼び出す機能を備えており、テキストや画像を扱うだけではなく、多彩な用途のサービスに応用できるとマエダ氏は説明する。
(日経BPシリコンバレー支局長 松元英樹)

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