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"I'm sorry. I'm a Japanese."

シンガポール駐在夫人の和子さんに、Singapore Telecom(通信会社)から電話がかかってきました。ところがシンガポール訛りが強すぎて、何を言われたのかさっぱり分かりません。

和子さんは、いきなり、"I'm sorry. I'm a Japanese." と言って、電話を切ってしまいました。

異国の地で、いきなりペラペラと話しかけられた和子さんの気持ちは分からないではないですが、この対応には、相手もびっくりしたことでしょう。"No. No. Don't worry about it." と思わず返ってきそうです。彼女の意図もわからずに。

グローバル時代なのに、全国にはびこった "I'm sorry English"

話された英語だけをそのまま聞くと、聞き取れなかったのは自分の責任で、原因は自分が日本人だからです、となります。これは事件です。なんと国内の日本人ならまだしも、誰もがバラバラな英語を話しているシンガポールの和子さんをしても、I'm sorry.なんですから。グローバル時代なのに英語学習者にはびこってしまった、典型的な I'm sorry English と命名しましょう。もしかして....みなさんも....言ったことがある? 苦し紛れに。

I'm a Japanese. を誇るんじゃなくて、日本人ですみません、とはなんだこりゃ?  I'm sorry I'm an American.  I'm so sorry I'm a Chinese....絶対聞いたことありませんよね? 

ありがとう

つまり「Japaneseはみんな英語が話せないんです。だから許して」という英語教育の中で刷り込まれた金縛りの完璧な申し子がここにもいました。初回の導入コラム「ジャパニーズ・イングリッシュが異文化を超える」で書いた「英語の英米血統主義」は相当深部まで巣くっているようです。

本当は、ヒアリングができない原因は和子さんの国籍ではないですよね。現地の発音にまだ不慣れなだけですよね。というより、シンテルの社員の訛りは仕方ないとしても、コミュニケーション能力が悪い! 顧客にガチャンされたんですから。あの Singlishも、隣のマレーシアの Manglishも、世界最強インドの Inglish も、外国人であれを完全に聴きとれる人は普通はいませんから。私もまだ発音練習中です!

海外では対等、おあいこさまという価値観が主流なのですから、聞き取れなかった場合でも、和子さんだけの責任ではありません。シンガポール英語が世界標準でもなんでもありません。ついでにアメリカ英語も、イギリス英語もみんなローカルイングリッシュととらえて、彼らを啓蒙しましょう。「あなたね、そんなフレーズ使ったって、この国じゃ誰もわかりませんよ。もっとわかり易い英語を使って下さい」と!

さて、こんど電話がかかってきて、聞き取れなかったら、どう言いましょうか? 例えばこんなふうに言ってみてはどうでしょうか。

"Excuse me, I’m new to Singapore. You need to slow down."                   すみません。シンガポールに来たばかりです。ゆっくり話してください。

丁寧には、Can you slow down please?  なんでしょうが、客の聴解力なんかお構いなしの相手には、こちらも、つっけんどんに、You need to ... ちょっともっとゆっくり言ってもらわいと、わからないでしょ!と返すのがちょうどいい。そして、その後です。その後に、われらが伝家の宝刀をかましてやりましょう。"I'm a JAPANESE!!" と! 

英語からSORRYを取ると面の皮が厚くなる

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英語からSORRYを取るとだんだん面の皮が厚くなってきます(thick skin)。それが国際標準だからじゃなく、相手とのコミュニケーション効果を瞬時に峻別して最も効果的な方法で切り返すための、技術として身に着けておこう、ということです。これが私のコラムの一貫した哲学です。

本来、コミュニケーションは双方の理解が目的です。私の定義は exchange of meanings。相手がまくし立てたことも、和子さんが現地なまりに不慣れなだけなのに「日本人ですみません」と逃げたことも、相互理解が成立しなかった原因を双方が作った点で対等です。英語は生きていくために他者にメッセージを伝えて、わが身を守る生活言語として、各国で奔放に使われている時代なのです。和子さんもそういった、もうちょっとタフな(というよりそれが普通なんですが)生活感覚を身に着けたら、きっとシンガポール暮らしが何倍も楽しめるでしょうね。

*シンガポール日本人会のカフェで隣のテーブルから聞こえてきた話でした。和子さんのお友達は「そうなのよね。わかる、わかる!」と盛り上がっていました(笑)。わかる? それじゃ~、みんな言ってそうだな~ 

I'm sorry. I'm a Japanese. :(

これが、、

I'm proud to be a Japanese! ^^

に変わるとき、国際人が生まれるのです。

〇初出「侍イングリッシュ」河谷隆司・産経新聞を加筆修正

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