見出し画像

玄奘西へ行く20

「連れていた子豚はどうした?」
悟空が悟能に尋ねると、
「嫁を皆食ってしまった詫びに村人にくれてやった。」
「あほか?それでは皆人間に食われてしまうぞ?」
「全ての命は譲り合いだ。人間が豚を食うのは道理。アーミートーファー。」
悟能はそう言うと豪快に笑った。
ひええ、呆れ果てた奴だ。自分の子を食用に人間に差し出すとは。こいつはどうあがいても成仏出来まい!やはり熊を舎弟にすべきだった。しかし、熊はポーサが連れ帰ってしまったし…
「お前には五戒で効かない。三つ足して八戒をこれより先守って旅をせよ!」悟浄が言った。
悟能は話を聞いていない。ワシは本当に人間になれるだろうか?人間になれば嫁から容姿のことで恐れられることもない。人間の子も産まれよう!大はしゃぎで悟空に語りかける。
悟浄も玄奘も天竺でこの豚の願いが聞き遂げられるとは思えなかったがとにかく旅のお供には心強い。道中心を入れ替える隙もあろう、とにかく先を急いだ。
八戒も人前では人間の姿に変化する。妖怪を引き連れた仏僧などまともに人間世界で旅ができるわけがない。四人法衣をまとい笠を被り悟浄は降妖杖と言う月型の刃先のついた杖、悟空は如意金箍棒、八戒は馬鍬、玄奘はポーサより貰った錫杖を手に西へと向かう。
どうやら中国人は本名で呼ばれる事を嫌うと言うかあだ名で呼ぶのが好きなようである。猪八戒で有名なこの豚も本名は猪悟能である。あだ名が八戒。悟空も西遊記ではいろいろあだ名で呼ばれる、行者、弼馬温(ピーマウェン)これは悟空が天界で馬の世話をさせられていた時の呼び名、主に神々からは大聖(ダーシェ)など。悟浄は大体和尚。
玄奘は師匠、もしくは師父など。
妖怪退治にもその妖怪の本名を突き止めるというのが初歩らしく本名を呼ばれ返事をすると吸い込まれる瓢箪などの説話もある。
千と千尋の神隠しでも本名を奪われ奴隷にされてしまうというエピソードがあり、名前というのは面白い。日本の侍も元服すると幼名から変化するのもそこら辺と何か関係があるのだろうか?
この猪悟能、八戒と名付けられた後もへっちゃらで道中大喰らいで大のナマグサ好き、酒も般若湯と称して瓢箪一杯に入れて持ち歩く、女を見れば見境なく話しかけるとその名の通りのナマグサ坊主で先が思いやられる。
しかし不思議と人間たちには喜ばれ玄奘の旅はこの八戒のおかげで華やいだ。


ここから先は

1,025字
この記事のみ ¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?