玄奘西へ行く18

「だから余が言ったのだ!」
悟空は如意棒で屋根を打ち抜くと玄奘を抱き抱え如意棒で空高く登った。
悟浄も慌てて如意棒をよじ登る。
「あの住職、頭をかち割ってやろう。」
いやいや、いくらなんでもそれはいけません!
まだ貸賃もらってな…
棒の上で一晩を明かした一行は次の日の朝燃え尽きた屋敷に降り立った。
袈裟と共にご満悦で過ごした住職のもとに若い僧侶たちが駆け込んだ。
「和尚様!」
「どうした?天竺御一行は成仏されたかえ?」
それが!!
住職が若い僧侶に抱えられ黒焦げの屋敷に向かうとなんと三人は焼け跡で朝飯を食べているではないか!
我ら一行天竺への道中急ぎます故袈裟をお返し頂きたい。
動揺を必死で隠しながら住職は袈裟を取りに自分の部屋に戻るとさっきまで共にしていた袈裟が無い。
なんと!慌てた住職は部屋中あちこち調べたが袈裟は見つからない。
そうこうしてるうちに三人が部屋に入ってきた。
ご就職まさか!?
「無くしたとは言わせぬぞ!どこぞに隠したな!言え!隠し場所を言え!頭かち割るぞ!」
悟空が如意棒を構えた。
「いや!隠してなどおらぬ!確かにさっきまでここにあったのだ!確かに…あーだこーだ…ぶつぶつ…」
住職は床を弄り回しながら話した。
もはや住職の顔面は息子に裏切られた乱の仲代達也さんの様な蒼白である。寝間着は乱れ、老体が覗く。
あの袈裟が無いとこの先難儀だな。爺様を拷問して在処を吐かせよう。あーだこーだ言ってると突然顔面蒼白一文字秀虎と化した住職が机の角に頭突きを始めた。
止める間もなく齢二百七十歳の老僧は額から血と脳漿を垂れ流して死んでしまった。
悟浄は両目玉の飛び出た住職の死体を抱き起こし尚も尋問したが当然無駄だ。ボタボタと脳漿が床に落ちた。
住職の死を目撃した周りの僧たち一同ざわつく。
「おい!お前たち!観世音菩薩より授かった袈裟の行方を教えろ!さもなくば釈迦牟尼より恐ろしい天罰がお前たちにくだるぞ!」
「ひとりひとり順番にこのジジイの様に脳天かち割ってやろう!」
悟空は猿の姿に戻り叫んだ。
怯えた一同から声。
「先ほど副住職様が慌てて山門を抜けるのを見ました。」
昨晩の巨体か!
確かに観世音菩薩の袈裟を着ていた、と。
どっちへ行った?
西へ!
その頃、西への道には朝日を背に観世音菩薩の袈裟を着た巨大な黒熊の走る姿があった。


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