いろは 問題群を作るにあたって

先日、「いろは」という大会を主催しました。問題は全て自作だったので、ここでは問題群全体を作るにあたって意識したことなどを書こうと思います。問題のネタバレを含みますので注意。

そもそも作問者なんて出しゃばらない方がよく、出された問題は好きに楽しんでほしいというのが私のスタンスではあるのですが、技術的なことは残しておこう、という意図で書いています。解釈不一致が嫌な方は読まないことを推奨します。

大きく「難易度」「ジャンル」「時事」について書きますね。

・難易度

今回の難易度は「易しめ」に設定したつもりです。私が1番好きな難易度帯ですね。前提として、今回は「クイズ界での難易度」ではなく、ある程度「一般社会(知識レベルはある程度高い人)から見た難易度」を意識しています。ベタだからといって易問認定はしないってことですね。

問題集のコラムに書きましたが、私が「易問」と呼ぶものは

1. ある程度の教養人なら一般常識の範囲内に捉えるもの
2. 多くの人(教養人以外も含む)が知っている事実を1段掘ったもの

の2つです。今回は問題群として、易問以外にも

3. 多くの人(教養人以外も含む)に問題の面白さがわかりやすい難問

を入れるようにしました。観光名所とかです。「2」「3」はいわば「クイズ王の知っていそうなもの」とでも言いましょうか。せっかくクイズをしているのに、ただの常識力テストに終始してもしょうがない、クイズ的な(いわば無駄な、知性主義に則れば覚える必要のない)観点からの出題もすべきだろう、というのが私のスタンスです。しかしそれでは際限がないので、「一般人にも面白さは伝わる」というラインを引いているわけです。

ここで、問題文の構成についても触れておくと、今回は

A. その答えにとって最も知られているだろう事実からストレートに問う
B. 捻った問い方をする、周辺的な情報から問う

の2種類をバランスよく入れたい(Aの方が多め)と考えていました。これは易問の分類と対応しており、易問の1と3はA、2はBの構文と相性がいいと考えます。

実際に出した問題の例としては

(1・A)『ユディト』『ベートーヴェン・フリーズ』『接吻』など金箔を効果的に使った作品が有名な、オーストリアの画家は誰?
A. グスタフ・クリムト

(3・A)スキー場のリフトに稲穂を乗せるというユニークな天日干し方法から名付けられた、新潟県のブランド米は何?
A. 天空米

(2・B)「まがつびよふたたびここに来るなかれ平和をいのる人のみぞここは」という歌が広島の平和の像「若葉」に刻まれている科学者は誰?
A. 湯川秀樹

などですね。まあクリムトと湯川秀樹の違いとかは微妙なラインですが。また、これら以外に

Q. 硬いトゲのある柔らかい皮膚が、次世代の撥水素材開発のヒントになった、体を膨らませて身を守る姿が印象的なフグの仲間は何?
A. ハリセンボン

など、AとBの複合系の問題もあります。また、今回、若干の反省点として、前提知識を高く置きすぎた問題がいくつかあって、

Q. 薬の実験では、投薬しない群の被験者に、わざわざビタミン剤などを飲ませます。これは、何という効果によるバイアスを統制するため?
A. プラシーボ効果

とかは問題群の中ではちょっと微妙かなと思います。まあ良い問題だと思ったので採用してしまったんですが。「自分がどこの視点から難易度を判定するのか=前提知識をどこに置くのか」は問題群の統一性において極めて重要だと考えています。

Q. 紙でできた仮設住宅や避難所の仕切りを考案し、被災者を支援してきた功績から、建築界のノーベル賞ことプリツカー賞を受賞した日本の建築家は誰?
A. 坂茂

この辺は露骨に前提知識をどこに置いてるのかわかりますね。「プリツカー賞」は今回の問題群では前提にしないよ、ということです。

また、前提知識と関連した話として

Q. たこ焼きチェーン・銀だこでは、外をパリッと仕上げるため油をかけて焼いています。この調理法の参考になった中華料理は何?
A. 北京ダック

のように、「前提知識にできないものは最初に提示する」という細かめなテクニックもあります。
現代クイズだと1文で前フリ+後フリの構文が多いのでそれに拘泥しがちですが、「いや、その前提を知らんねん」という情報を前提にする場合(その情報が前提となっているか常に意識的である必要性を含意します)、文を区切るという構文は機能しやすいように思います。
これはQuizKnockの記事を書いているとき、「AなのはBだから」という文に「Aを前提知識にするのは厳しい」というツッコミを受けてから意識するようになりました。自分がそう書かれても「ふーん、Aってのがあるんだ」とスルーするタイプなので、他人の指摘で初めて構文の問題点に気づきましたね。


・ジャンル

ジャンル表の話というより、各ジャンルの話。

多めにしたジャンル:グルメ、ファッション、観光、生物種、言葉
少なめにしたジャンル:大学レベルの学問、大学受験レベルの歴史

多めにしたジャンルは基本的に「面白さが分かりやすい」という観点からです。ファッション、生物種が多めなのは、今までが少なすぎるという思想によるものです。

少なめにしたジャンルのうち、「大学レベルの学問」は、逆に「面白さが伝わりづらい」としてあまり入れていません。また、最近のクイズ界では歴史問題の高難易度化が進んでいますが、正直あまり好きな流れではありません。時代の流れも何もわからないまま大学受験の単語帳開くより、有名な歴史上の人物の雑学を小学生用の教材から得る方が面白いクイズになりやすいと思うんですよね。

ただ、少なめのジャンルは駆逐すればいいかというとそうではなく、「ある程度は必ず入れる。そしてゴリゴリの学問っぽくする」ことを心がけました。参加者には学問に面白さを感じる人もいっぱいいるわけで、テレビクイズでもないのに学問ジャンルを全て小学生レベルにするのはしょうもないですしね。

Q. チェレーンが造語し、ハウスホーファーやマッキンダーによって体系化された、地理的な要素が国家戦略に与える影響を分析する学問分野は何?
A. 地政学

Q. ヒステリシス曲線では傾きに相当する、すなわち磁束密度と磁場の強さの比を表す物理量は何?
A. 透磁率

Q.  甥の伊周(これちか)・隆家兄弟を失脚させ一条天皇の左大臣に登りつめた、息子・頼通とともに摂関政治の最盛期を築いた平安時代の人物は誰?
A. 藤原道長

こんな感じです。

理系問題では、「同値なことを言い換える」ことで早押し的面白さが生まれる場合がありますが、従来の「Aな、Bは何?」という構文だと、「A=B」が成り立つことが分かる人にとっては「当たり前だろ」感が出る場合があります。そういう場合は「すなわち」という言葉を挟むことで、同値であると分かっていることを示す問題文にすると親切かなと思います。また、今回理系問題は難易度上限を高めにしてます。
追記:アドバイスくださった方と議論した結果、「すなわち」はできるだけ使いたくないという結論になりました。設計思想は良いが実装がうまくいっていないという感じ。文章としてちょい違和感はあるし、そもそも同値であることがうまく伝わらないという理由です。上の例なら「ヒステリシス曲線では傾きとして現れる」みたいにするといいのでは、という指摘に納得しました(これnote公開してすぐだったのですが修正忘れてて1年以上たった)。

「藤原道長」は、小学生用の教材にも載っているレベルですが、前フリを中学校・高校の古典・日本史レベルにしてあります。徒らに難しい単語を答えにせずとも、きっちり「勉強した人が答えられる問題」を作ることは可能だと思うので、歴史問題を作るときは意識的になってみてはどうでしょうか。

ちなみに、私が良いなと思う歴史問題はこんな感じ。

Q. 現存する日本最古のゼンマイ時計、現存する日本最古の鉛筆の持ち主と考えられている、有名な戦国大名は誰?
A. 徳川家康

Q. 日本で応仁の乱が起きていた頃にイギリスで続いていた、王位継承を巡るランカスター家とヨーク家の争いを、ある花の名前を使って「何戦争」という?
A. 薔薇戦争

歴史ジャンルは、エピソードで勝負する問題がもう少し増えたらいいかな、というのがあります。「薔薇戦争」は時代感覚を問う問題ですね。歴史問題以外にも、今回は「その分野に詳しい人がなんとなく持っている知識・感覚」みたいなものを問えないかと試みた問題が結構あります。


・時事

時事は多めにしよう、というのは決めていました。個人的に時事はクイズっっぽいと思っています。一過性の話題でしかないものを答えるためにわざわざ覚えておくってのがロックンロールでいいですよね。クイズ王は時事を答えられなければ。

という思想のもと時事を多めにしました。また、「隠れ時事」は意識的に多めにしようと思いました。「話題になった映画の題材になったものを出す」とかね。暇ならぜひ探してみてください。

ちなみに

Q. 「頼むから仕事をさせてくれ」が最期の言葉になったという、『ブラック・ジャック』や『鉄腕アトム』などで知られる「漫画の神様」といえば誰?
A. 手塚治虫

は当日が手塚先生の命日なので作った問題でした。こういうのは気付ける人だけ気付けばいいと思っています。本当はここで言うのも野暮ですよね。

隠れ時事が好きなのは、「普通に聞いても面白いし、分かっている人が聞けばおっとなる要素が入っている」という点も大きいですね。早押しクイズの問題文だけで「多くの人に伝わる」と「詳しい人に刺さる」が両立しにくいときは、詳しい人には表現などで「匂わす」程度にした方がうまくまとまる場合が多いと思っています。


ここまで読んでくださりありがとうございます。問題群全体のバランスとしてはこんなことを考えていました。問題一問一問についてはまた何問か抜粋して書こうと思います。

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