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【C103御礼】『右翼』製作記

令和4年12月31日に行われた「コミックマーケット2023冬(C103)」へお越しいただきありがとうございました。また新刊『右翼―入門編―』を多くの方に手に取って頂き、重ねて御礼申し上げます。
紙面に入りきらない話などがあるため、ここに記録を残すことにしました。
(2023/1/18 通販の決着を含め完成しました)

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冒頭から宣伝ですが、今回の題材である『右翼―入門編―』はBOOTHにて取り扱っています。ご希望の方は下記URLよりお進みください。


『右翼 刊行準備号』以前

「右翼本」作成の構想はもう十年ほど前からだったろうか。20年来の知己と折に触れて「右翼の同人誌を作らないか」との話が挙がっていた。
『新宗教検定』の初版が2015年、このときの手ごたえを経てニッチなジャンル「こそ」本気で取り組めばブルーオーシャンが開けるとの確信を得た。
その後宗教ジャンルはやや供給過多の傾向にあり、今やコミケでも複数の新宗教系の同人誌が見られるようになった。
とはいえ当時の構想は街宣車を載せたり右翼の集会レポだったりといったものしか思いつかず、また街宣車の使用については各団体の許可を取らなければ刊行は難しいとの判断を下していた。この考えは今も変わらず、街宣車や抗議活動の写真を諸手で提供してくれる団体もあれば、第三者が勝手に使うことに良い顔をしない団体もあると想定している。また、一部団体を取り上げた際に「あそこを挙げてなぜうちがないんだ」といったことも想定できたため、団体との直接交渉は極力せずに済む紙面づくりを考えていた。

C101『右翼 刊行準備号』

そうこうしているうちに大納會も結成15年を迎えた。10周年は特に祝うこともなく『宗教都市』を作り天理・大本・金光を取り上げた。
15年の節目に右翼本を、と思い、少しずつ準備にかかり始めた。
またその年は記念すべきコミケ100回記念ということで夏にも出展していた。その際に作ったのが『岡山 聖地巡礼紀』再訪した金光教をはじめ黒住教、ほんぶしんなどを取り上げた。
その年の前半は岡山本に時間を取られ、C100後に新刊に取り掛かろうと思った矢先に流行り病に臥せってしまった。日常生活を取り戻す間に期日は刻一刻と迫っていた。

知識の偏りを知る

さて刊行に向けて整理を始める。目指した着地点は「いま活動している右翼と、右翼の源流とされる『玄洋社・黒龍会など』に連続性はあるか否か」というものだった。現代右翼から遡る調査と、源流から歴史を追う調査を並行して行っていく・・・はずだった。
ところが現代右翼についての信頼できる資料が少ないことにすぐ気が付いた。また、自身の知識も玄洋社、大東塾、愛国党、日本青年社、日本皇民党、野村秋介、一水会、同血社などを断片的に知るのみであり、経綸学盟、大日本生産党、金鶏学院、柴山塾、日本同盟などは全く知識がなかった。また、中途半端に知っていた防共挺身隊や救国グループなどを名前だけ取り上げるわけにもいかず、思っていた以上に執筆は難航した。

系譜図作成

いきなり文章は書けないと思い、まずは系譜図の作成に取り掛かった。参考にしたのは『右翼の潮流』と『右翼辞典』であった。これらを掛け合わせつつ、ときに鈴木邦男の書籍などを参考にしながらどの団体を取り上げるべきかの指針を作った。
右翼は離合集散の多い組織である。例えば頭山満だけを追っても玄洋社の結成に始まり、大日本国粋会、建国会、開墾社、大日本生産党など至るところに名を連ねている。
系譜図には当初、誰がどこへ行き、どの団体はどことつながりがあるかを書き入れようと思っていたが、あまりにも線が入り乱れすぎるために断念した。まずは結成年と団体名、そして関わった人物をExcelに列挙していった。


作成中の系譜図、この時は同じ時期区分に色をつけていた

系譜図の完成 → 落としどころの模索へ

開始から一か月ほど経ち、ようやく系譜図作成に一定のめどがたった。この時点で確か11月を迎え、入稿締切まで残り一か月ほどしかなかったと記憶している。もはや新刊を落とし、系譜図のペーパーだけで乗り切ろうかという考えが頭をよぎった。
とはいえまだ時間はある。できる限りのことをしようと思い、第一章の主要右翼団体・協議体の作成に取り掛かった。
系譜図を作る上でかなり右翼史が整理され、各団体の紹介ならばさほど時間をかけずに作れるだろうとの算段からであった。
いま振り返ってみても系譜図を初めに作ったのは正解だった。

C101出展

2022年12月、大納會15周年となるC101は『右翼 刊行準備号』を提げての出展となった。本編刊行時にはほとんどの方が再度手に取ると思い、頒価は印刷代+出展料のみに抑えることにし、印刷部数も観測気球的な意味合いから非常に絞ったものとした。
いつも通りの告知を行い、想定程度の頒布数にて会を終えた。正直なところここ数回の頒布数は決して良いものではなく、原因を以下のものと捉えていた。

①コロナ以降の同人活動全体の停滞
②弊會の頒布物の魅力低下
③SNS等による宣伝活動の少なさ

①については即売会の規模など合致するところもあったが、その中でも好調なサークルは多数あった。とりわけ2022年頃からはコロナ禍の反動とも言えるほど頒布数を伸ばすサークルも横目で見ていた。

②についてはまさに需要と供給を見誤っていた点もある。自分がよかれと思っていても、文章+白黒写真だけの同人誌を今の時代に売ることは極めて難しい。特に評論島においては雑誌並みの構成・デザインの本が多く、どうにも文章一本では負けてしまう面もあった。

③については私のSNSの活用下手な面があり、登録年数はあれども内容のないアカウントになっていた。

これらの現状を変えるべく、また、刊行準備号作成にあたり完成させるまでの目安の時間も見えたこともあり、2023年は①~③の改善に努める年と位置付けた。

POO松本氏との出会い

「同人誌のレビューをしてくれる企画がある」
遡ること2019年、Xのタイムライン上に怒涛の勢いで同人誌のレビューをするアカウントが流れてきた。アカウント主はPOO松本氏。フリーランスのエディトリアルデザイナー(雑誌や書籍のレイアウトを担う職)であった。氏の同人誌は以前手にしていたこともあり、こんなことも手掛けているのかと興味を持った。その年の暮れに『即身仏信仰』を手渡し邂逅を遂げた。

以後レビュー企画には新刊の度に参加させてもらっている。時に褒められ時に喝が飛んでくる環境は学びが多く、できるところから他者の真似をするよう心掛けている。

2022年の暮れに氏が出した『同人は宣伝が9割』は上記に挙げた弊會の頒布数低下の原因③「SNS等による宣伝活動の少なさ」にピンポイントで突き刺さる内容であった。2023年はこれを信じて活動することを決めた。

「100日後に祭られる右翼」

C102夏コミの一般参加を終えて靖国参拝も終えた頃、新刊告知の宣伝として「100日後に祭られる右翼」という構想を得た。自分の思考の整理になり、進捗報告も兼ねられるだろうという点と、今日から始めれば100日後には新刊告知とぴったり重なるという安易なところからスタートした。

途中軍歌ゾーンに入って15回ほど楽をしたり同じ項目を2回紹介したりといったミスはありつつも100日休むことなくやり切れた。
5日目くらいで習慣化し、何度かやる気とやめたい気持ちの波がありつつも定期的につくイイネやリツイート(当時)が後押しになったのは間違いない。ほんの僅かでも反応があれば創作は続けられる。
100日を達成することでフォロワーが増えたことも収穫だった。日々情報発信をすることで少しずつ知名度が上がっていくことを感じた。といっても今もなおアカウントのフォロワー数は弱小そのものであり少しでも興味を持ってもらえるならフォローしてほしい。
100の投稿のうち反応が大きかったのが司政会議など任侠にルーツを持つ団体を取り上げたときだった。宅建太郎の動画などでも右翼とヤクザでは動画の再生回数が桁違いであることは知っていたが、こんな場末でも右翼との差が出るのかと驚いたものだ。端的に言うと「山口組」で日々検索する人が何人もいるという現象が見られた。
その他群青忌に合わせた投稿など時勢に合わせたものが伸びる傾向にあった。

執筆の本格化

秋口に入ると100日右翼と執筆を並行するようになった。一日の進捗を挙げるようにしていたが、最終的に進捗画像は45枚を数えた。『刊行準備号』からの通し番号ではあるが、賞味45日を執筆に費やしたことになる。序盤はまだ2~3時間/日の作業であったが、終盤は6~8時間くらいは書いていたはずだ。ここでも日々の進捗に合わせて反応があったのが嬉しかった。そしてまた微々たる動きではあるがフォロワーも順調に増えていた。

C103開催間際

100日右翼が完結したのが11月26日。おおよそ狙った通りに三島由紀夫の命日の翌日に100項目が完了した。本来であればここで新刊告知と行く予定だったがまだ終わるめどが立っていなかった。
やむなく既刊の告知のみを行い、急ぎ執筆を仕上げる。
最終的に印刷所へ入稿できたのが12月14日。締め切りまであと少しのところまで書き続けた。
入稿が済んだら即座に宣伝活動に移った。これも前掲『同人は宣伝が9割』の受け売りであるがコミケwebカタログの情報を毎日更新し続けた。これにより確かにカタログの「お気に入り登録数」が伸びていき、多くの人がwebカタログを見ていることが分かった。
「お気に入り登録数」はC103当日まで伸び続け、カタログで見つけたので買いに来ましたと言ってくださる方もいて、改めて効果を実感した。

C103当日

いよいよ当日。無事印刷所から届いた新刊を開け、目立ったミスがないことを確認して安堵し、早速設営にとりかかった。
今回の設営の目玉は敷布であった。普段は新宗教教団を列挙したものを使用していたが、今回は右翼ということもあり隠し玉を用意していた。

左:従来/右:C103(今回)

普段の敷布よりだいぶ大きいため字が見切れているが「雨宮処凛 講演会」と書かれた日の丸である。かつて主催した講演会時の告知で使っていた日の丸を20年以上ぶりに持ってきた。あれから幾年、まさかこうした形で再度使うことになるとは思ってもいなかった。

多くの出会い

C103においては多くの出会いがあり、久しぶりに会心の頒布数となった。
中でも表紙を見て「愛国党のビラっぽいね」「懐かしい」などと話してくれる方が多く、改めて愛国党の知名度の高さに感服した。中でもお品書きを見て「同血社?」と聞いてきた方は流石としか言えなかった。本当によく見てくださり、作者冥利に尽きない経験であった。
他にも表紙を見て家に持ち帰れるか思案に暮れる方や街で見かけた右翼の情報をくれる方など、どの方も印象に残る出会いがあった。中でも印象的だったのが中国からの留学生だった。ご友人の日本人以上に日本の歴史に詳しく、二・二六事件や浜口雄幸狙撃事件などに興味を持って読んでくれた。そして最後に「これを買ったら本国に帰れない」と言っていたのが忘れられない。

垣間見えた狂気

コロナ禍におけるコミケは声出しが厳禁であった。開催延期という憂き目もあった中、頒布できるだけでも喜ばしいことながら、粛々と頒布するのみというのはやはり物足りなさがあった。
今回のコミケにおいては久しぶりにいわゆる「呼び込み」を復活させた。呼び込みについては賛否というか殆ど「否」である点はよく目にする。
一方で私が育った宗教島ではそれなりに呼び込みがなされていた。もちろん全てのサークルではないが、弊會ややや日さんなどがよく「新宗教」「カルト」などと声をかけていた。
宗教や政治島はもともと興味を持つ人自体が多くない。しかしながら「新宗教」や「右翼」は多くの人が知っているキャッチ―な言葉でもある。「まさかそんな本が売っているなんて」ということが起こるのがコミケという場だと常々思っている。どうにかして「机の向こう」へ声を届けたいという思いが先行した。
また、今回宛てがわれたスペースも呼び込みを行った要因の一つであった。東5ホール入場してすぐの誕生日席、それもホール入り口に面した誕生日席であったために、まさしく「通路」として前を通る人の多さは過去イチであった。明らかに目的ではない潜在顧客の足を止めるために「右翼」という言葉を発していた。
閉会間際、帰り道へと向かう人をできる限り留め、最終30分での頒布数は初参加以来ではないかというくらいの出来だった。狂気の祭典に狂気の同人誌を持ち込むことができたと思う。

改めて呼び込みの魔力を感じるとともに、加減の難しさも実感した。
呼び止められて不意の購入となった人も多かったと思う。改めてここで御礼申し上げる。

直会

コロナ期間で自粛していた直会も復活させた。大晦日ということもあり大手居酒屋しか開いていなかったが、労いを兼ねて行えたことも大きな収穫であった。

筆が乗った項目

今作『右翼―入門編―』は全5章96ページの大作となったが、全編を通してノリノリで書いていたわけではない。好きな内容と言えども得意・不得意の分野はある。
特に今回は内容が内容なだけに少しの誤りも許されない覚悟で書いていた。『右翼辞典』に書かれていた団体名に誤りがあると気付けば団体の一次資料を当たり、自伝で書かれた内容に誇張表現らしきものがあった際は当時の新聞を当たることもあった。3行進めるのに2時間ほどかかる場面もあった。

そうした中で楽しかったのは自分でも知らない内容について触れた項目だった。中でも神兵隊事件は非常に奥が深く、参考にした鈴木邦男の『右翼は言論の敵か』であれほど鈴木が熱く語っていたのも頷ける事件だった。第二次大戦を経て右翼運動も断絶があったと思い込んでいたが、実際は神兵隊事件に関わった者の多くが戦後を生き、右翼の復活に携わっていることを知った。検挙された後も「告(の)り直し組」「非告り直し組」に分かれたところも面白い。何より「告り直し」という名前が格好良かった。神兵隊事件については更に深掘りしてみたい事件である。

他にも黒龍会の内田良平が大本と接近し、世界紅卍字会道院の本総会会長に就任するくだりにおいて、璽宇・璽光尊まで触れられたのも良かった。右翼本を書きつつ璽光尊に言及するのはおそらく本書だけではないだろうか。これまでやってきた新宗教研究が活かされた瞬間であった。

苦戦した項目

苦戦した部分は自分にとって興味の薄い内容である。いくら書籍を読み進めても一向に興味がわかず途方に暮れた。
具体的には『準備号』時点で書いていた統一教会・勝共連合を筆頭とする宗教右派の項目と、2000年代以降のネット右派の情勢である。前項の璽光尊と矛盾するようだが、自分でもここまで宗教右派に興味が持てないのも不思議である。おそらく先行研究で大方やり尽くされたからという点が大きいと思われる。ネット右派についても、ほぼ伊藤昌亮『ネット右派の歴史社会学』の受け売りのような内容になってしまった。
これらの項目は勿論「書かない」という選択をとることも可能であった。しかしながらそれは「では彼ら(宗教右派、ネット右派)と右翼の違いは何だ」という問いから逃げることでもあり、本書の刊行意義の根幹が崩れてしまうことでもあった。それゆえに「敵を知る」ためにも書き残す必要があった。

『入門編』に込めた思い

『準備号』の際もその内容から「準備ではなく本編では」と言われた。そして今回も多くの方から「これで入門編?」との声をいただいた。当初の案では「初級編」というものもあったが、さすがに初級ではないだろうとの突っ込みを受けて「入門編」に落ち着いた。確かに0から分かる右翼という体裁であり、これ一冊で入門から上級者まで行ける構成にしたつもりである。
一瞬「完成版」という考えもよぎったが、参考文献に荒原朴水の『大右翼史』すら入っていない書物を「完成版」と呼べるほど厚顔ではないためにすぐに却下となった(刊行直前に荒原の『右翼左翼』を手に入れることができ、どうにか体裁の一つは保てたと思う)。
また、右翼史や各団体の歴史など、まだまだ触れていない項目が多すぎるため、やはり「入門編」くらいがちょうど良い内容だと思っている。

やり残したこと

「入門編」と書いてしまったことで次回作のハードルが上がっていることは感知している。とはいえ最も情熱を捧げるのが一作目であり「入門書」であるとも思い、次作はそこまで期待しないでほしいというのが正直なところだ。
次作の構想の一つに「人物編」がある。野村秋介については書きたいことの1/10程度しか書けていない。石原慎太郎の黒シール事件や石川重弘カメラマン救出など、事件ばかりではない野村の人間性についても紹介したい。
他にも先に挙げた神兵隊事件の関係者の生涯など深掘りできる人物は多数いる。
大納會の恒例でもある聖地巡礼も構想にある。実は今回載せるべく青梅の大東神社や伊勢原の浄発願寺にも訪れたが、この二ヶ所だけでは却って不自然な構成になるために断念した経緯がある。右翼にまつわる聖地をもう少し挙げて右翼版の聖地巡礼本などを作ってみるのも面白そうだ。

通販について

冒頭にも紹介したが、ここまで読んで興味を持たれた方はぜひ下記BOOTHへお進みいただきたい。右翼の他にも新宗教などを取り扱っている。


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