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2022/10/23 新根室プロレス@新木場1st RING

無理しない、怪我しない、明日も仕事

5年ぶりにプロレスを見に行った。本当に5年も経ったのか、と過去を探ったが、確かに2017年10月に行われたDDTのイベントプロレス・東京ラーメンショーにおける観戦が最後だった(ちなみに会場で見た最後は同年6月のみちのくプロレス後楽園大会・白使復活のものだった)。

3年前にも東京に来ていた新根室プロレス。その時は仕事の都合がつかず配信で見ることしかできなかった。
感動的な演出、アンドレ・ザ・ジャイアントパンダの存在感など非常に良い興行であり、次に来たときはぜひ生で見に行きたいと思っていた。

その間に代表のサムソン宮本氏は病にたおれ、団体の活動も縮小を余儀なくされた。それでも細々ながらパンダの遠征や宮本氏の一周忌に追悼イベントを開くなど活動が停まることはなかった。

コロナの影響もあり東京大会は延期され、この度サムソン宮本氏の三回忌に合わせて新木場1stRINGにて開催が告知された。

久しぶりのプロレス観戦。期待に胸を膨らませて新木場へと向かった。
※以下、選手は全て敬称略にて表記する。

往年のインディーを思わせる個性派レスラーたち

第一試合 TOMOYA/●”brother”GAKKEY
17分13秒 横入り式エビ固め
[アロハ隊]マイマッハ隼人/○キラウエア佐藤

大会開催にあたり、対戦カードの発表は全くなかった。
唯一の情報はアンドレザと因縁のある大日本プロレスのスタン小林(アブドーラ小林)が参戦するというもののみで、新根室からも誰が来るのかが不明のままだった。
カードで人を呼ぶのではなく、団体として人を呼ぶ。当日券こそ出たものの、試合が始まるときには新木場は超満員の会場となった。ひな壇席は1席ずつ空けることで声出しも解禁された。

第一試合はアロハ隊の試合。場内実況として新根室のMCマーシーとねね様、そして元週刊プロレス編集長の鈴木健氏が解説を行う。
場内の客は7~8割が前回の東京大会を生で見た人という高リピート率、私のような配信観戦者も1割ほどおり、初めて見る人は数えるくらいだった。そうした中でも選手の略歴や素性を教えてくれるのは非常にわかりやすく助かった。

しきりに「アロハ隊は素人」と解説する実況陣。バンブーダンスなどコミカルな動きもありつつ一瞬の隙をついた丸め込みでアロハ隊の勝利。

第二試合 オッサンタイガー試練の3番勝負
<1人目>
○オッサンタイガー
5分38秒 エアあんかけ攻撃→体固め
●キラー飯

東京初登場のキラー飯。方から中華鍋とお玉を提げたスタイルで入場。
往年のキラーカーンを模したコスチュームと手の動きだが、このご時勢どうしてもオーカーンに見えてしまう。
目に見えないあんかけ(もしくは油)をタイガーのみならずレフェリー、果ては観客にまでかけて回る傍若無人ぷり。加えて人の腹の上でチャーハンを炒めるという極悪非道の限りに客席からは悲鳴が聞こえる。
しかしながら技のレパートリーがあんかけとチャーハンしかないのが仇となり、反対に中華鍋を取られて掟破りの逆あんかけでタイガーの勝利。

<2人目>
●オッサンタイガー
4分55秒 逆さ押さえ込み
○永田ゆうじろう

2人目は永田ゆうじろう。ここでタイガーの本領発揮。前回の東京大会でも一人華麗なジャベを決めて会場の空気を掴んだタイガー。永田ゆうじろうを自在に操り、華麗なスープレックスを存分に極めさせる。圧巻だったのはカウント2で返すところからの腕ひしぎ逆十字への流れ。まるで生きているかのような動きに目を奪われた。

かつてDDTで繰り広げられていたヨシヒコの動きを彷彿とさせる永田ゆうじろうを見て、これまで自分が見てきたプロレスの多くが新根室に宿っていることを気付かされた。
キラー飯や、この後登場するミスター包、試合こそ組まれなかったが下着三四郎や大砂厚などの個性派レスラーが所属し、笑いを軸としながら時として息をのむ動きを取り入れる。この緩急が好きで、昔は「ど」がつくインディーをよく見に行っていた。あの頃の気持ちを思い出させてくれた試合だった。

<3人目>
○オッサンタイガー
3分45秒 その場飛びムーンサルト・プレス→エビ固め
●ミスター包

ただ一言、ミスター包(パオ)の動きが気持ち悪い。そこらじゅうで悲鳴が上がっていたが、正しきインディーレスラーの象徴だった。
控室ではキラー飯と意気投合していたらしく、凶悪なタッグが完成されていた。

セミファイナル スペシャルシングルマッチ
●アンドレザ・ジャイアントパンダ
7分55秒 ダイビング・ウエスタンラリアット→体固め
○スタン小林

休憩が明けてセミファイナルに注目のカードが登場。ここで「え、メインは?」とのどよめきが起こる。こうしたワクワク感も新根室の面白いところ。
久しぶりのパンダは更に大きくなったような仕上がりっぷり。対するスタンも2敗のパンダ相手に負けられない気合いで入場した。
ヘッドバッドを返し、プレスも返したスタン小林。観客の手も借りて笹に夢中なパンダの後ろから竹刀攻撃、トップロープからのウェスタンラリアットで見事パンダからフォール勝ち。パンダは初黒星を喫した。


笹に夢中の背後から竹刀一閃

余は一分間だけ小林に戻る

試合を終えたスタン小林がマイクを取る。第一声は「アンビリーバボー」会場の誰もがパンダの勝利を疑わなかった中、当の本人もそのようだった。
勝利の余韻に浸りながらも、生前のサムソン宮本との約束「もう一度パンダ対小林を見たい」を交わしたことを披露。サムソンの「遺言」を果たした上で「to be continued」と再戦を語ってリングを後にした。

メインイベント シングルマッチ
○サムソン宮本(TOMOYA)
18分48秒 ダイビング・クロスボディ→エビ固め
●ハルク豊満

スクリーンに出されたのは「サムソン宮本」の文字。どよめきが起こる中奏でられる「スカイハイ」、そして現れたのは紛れもなくサムソン宮本だった。どよめく会場をよそに往年のトップロープを越えられないリングインでサムソン宮本入場。その後もクロスチョップや拝み切れない渡りを披露したが、豊満に「You are FAKE !」と見破られ仮面を剥がされると、現れたのは第一試合で戦ったTOMOYAだった。
ここで場内暗転からの映像へ。中学・高校生時代に新根室への入団を直訴するも却下され、社会人になって晴れて入団が叶ったこと。サムソンへの憧れなどが赤裸々に語られた。
映像後にサムソン宮本からTOMOYAへと変身し、豊満からフォール勝ち。勝利のマイクアピールと思われたときに再び場内暗転からのサムソンの映像。

「TOMOYA、よく頑張ったな。全部、見てたよ」と語りかけるサムソン。
観客に対しても「約束を守り、新木場に帰ってきました。Don’t give up!Do your best!」と語り、最後は「TOMOYA、新根室プロレス、お前に任せたぞ!」と後継者指名。感動のままに全試合が終了した。

5年ぶりのプロレス観戦と、心に残ったもの

大満足の興行だった。望んでいたものが殆ど見られ、想定の遥か上を行くものを魅せてくれた。サムソン宮本亡き後も、決してその余波ではなく構成が練られた、今の新根室でないとできない興行だった。
興行タイトル「遺言」の通り、サムソンの映像を最後に流した。おそらく生前のかなり極まった際に撮られたものと思われたが、本当に、今日の試合を見ていたかのような遺言だった。自身がなくなってから一年ないし二年の間に起こり得ることを予見し、新根室のメンバーを動かし、東京大会へと繋げた信念。これこそが鬼才と呼ばれるサムソン宮本の本懐だろう。
現実と虚構が入り交じる空間。そこに魅了されてプロレス観戦を続けてきた。いつしか会場からは遠のいていたけれど、興味のある団体の動向だけは伺い続けている。こうした機会をまた活かしてどこかの団体をまた観に行きたい。

唯一の気がかりは3年前の大会と比べて参加選手は少なかった点だ。プログラムを組む上でのもの、やむなく東京に来られなかったもの、この3年で離れてしまったものもいたと思う。欲を言えばかつての歌姫、今のルチャドーラもぜひ来てほしかった。当日の様子を見る中では自身の選択で出場を見送ったように見受けられる。今は目指す方向が違うからだろうが、スタン小林のように他団体からもぜひ来てほしい。
もう一つの願いは団体のテーマ曲であるGO1 GO! シンネムロも、何かの形で復活できないものだろうか。興行の締めの言葉「無理しない、怪我しない、明日も仕事」の後にかかるテーマは、やはり団体のシンボルであってほしい。休憩中に流れた新根室紹介映像はテーマ曲とも非常にマッチしており、その後に登場したサムソン宮本の動きを復習する中でも非常に効果的だった。新根室と言えばこの曲であり歌詞も秀逸なので、何かの形で復活することを切に願う。

オッサンタイガー自身は大会を開く上での困難を口にしていたが、残ったメンバー全員で大会開催・成功にまでこぎつけた。代表の抜けた穴を別の形で補いつつ、また根室での開催と、年に一回で良いので東京でも開催してほしい。

見送りのオッサンタイガーとジャイアントサムソン

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