23年目と1年目の間に

2021年9月8日0時00分。その時Twitterは重くなった。


「世界は動いた」なら格好いいだろう。そうはいっても、何もネガティブな事によって重くなったわけではなく、二人組ロックバンド・ポルノグラフィティがデビュー22周年を迎えたお祝いを、多くのファンが同時刻に投稿したために起きた至ってポジティブな理由だ。

現役のロックバンドの周年祝いである。つい先日、ファーストテイクという話題性のあるチャンネルに登場し、往年の名曲「サウダージ」を披露して話題になり続けている。時代と共に音楽を知るツールは、今やSNSやサブスクなどのデジタルが主流となっているが、それゆえ彼らポルノグラフィティが起こしたビッグバンは、恐らくここにきて相当な注目を集めているに違いない。


そんな彼らを、私は知っている。

厳密に言えば、小学校高学年頃から高校を卒業する頃までだ。それも、同じ部屋にいる姉のCDプレーヤーから。自ら積極的に聴いていったわけではなく、「いつの間にか自然と」入っていった音楽だった。だがそこまでだ。所詮、ファンとも呼べないそこまでのお茶の間。音楽番組に出れば出たで黙って熱視線を送るだけ(元々キャーキャー言うタイプではない)。おおよその人柄は掴みつつ、トークと歌のギャップに驚きつつ、それでも惹き込まれる程ではなかった。

そもそも当時、ポルノが自分を占める割合は言う程多くはなかったのだ。当然ライヴになど、行った事はない。ないが、2006年のキャッチザハネウマというライヴだけは、二人のビジュアルと衣装の対比、そしてタイトルの「ハネウマ」に反応してやたら記憶に残っている。

それらがおおよそ12年程前。干支が一周する間。心身を崩した事もあり、その時別の音楽に救われて以来、私は彼ら一色の日々を過ごしてきていた。去年まで。



2020年の3月。「ひょんなことから」という日本語はこの時のために使われるのだと手を打った程、全くひょんなことから私は彼・岡野昭仁に「再会」した。

「大体のビジュアルイメージがキャッチザハネウマだし黒縁眼鏡で固定されてるのに、おまえはタイム風呂敷を何度かぶったんだ。いきなり不惑を超えてんじゃないよ。目を見たいのにそっちの眼鏡をかけるなよ!でも歌声変わらないね!相変わらずかっこいいね!」

心中はこのようにまくしたてていたが、実際は、まるで湯上りのおとうさんのような佇まいの彼が歌うミュージック・アワー(しっかりと間違える)とアゲハ蝶に、心の舵を一気に切られた感覚があった。「雷に撃たれた」という表現がいっそ柔らかいくらいに。舵におざなりに添えていた手の上から優しくも強く包み込まれ、そのまま有無を言わせず笑顔で方向進路を180度変えられたのだ。誓って言うが岡野昭仁は何も悪くない。

「一年前が20周年か…!」と七転八倒しながらも、それから夏までのおよそ半年の間で、復習できる情報は全て復習し(なにぶん時間だけはある)新たに耕された土壌には右を向いても左を向いても新芽ばかりになった頃。9月8日、そのツイートは投稿された。




「コナンか?」いや確かに、映画主題歌を担当はしていたけども。

ハイブリッド型ライヴ「REUNION」の予告動画の始まりは、VSのMVを模した構成で二人が歩き出すシーン。今思えば、「ファンとも呼べないそこまでのお茶の間」の一人が、(しかし歳を重ねた分だけ綺麗なものばかりじゃない)恋をした瞬間だったのかもしれない。


意図せず舵を切られた私は、見るもの聞くもの考える事のほとんどすべてがポルノ一色になった。決して卑猥な意味ではない。姉のCDプレーヤーから、リビングのテレビから、そして街中のポスターや書店の雑誌から受け取っていた頃よりも、自ら飛び込んでいった今のほうが、間違いなく彼らの事を好きだと言える。「胸張っていけ」とライヴ終わりに必ず言ってくれるという昭仁の、その言葉を借りてもいいだろうかと思う程。事実この一年、新しく知っていく彼らのことを、好きになるばかりだ。


その勢いでTwitterアカウントを開設して、ちょうど一年。

2021年9月8日0時00分。その時Twitterは重くなった。


直前の新曲リリースの告知やサウダージの波に乗り、綿密なプロモーションに組み込まれているであろう流れはある。しかしそれを差し引いても、多くのファンが彼らの23年目を祝う想いが、同時刻にSNSの大海に放られていった。遠慮がちに波に浮かべた私の想いも、あっという間に見えなくなった。

デビュー22周年。メジャーシーンを長年走り続けても変わらない謙虚な姿勢と、常に挑み続ける果敢な姿で、2020年に「これからが全盛期」と謳ったポルノグラフィティは、2021年新始動を発表した。言葉で発するより多く、文字に表すより重く、ポルノグラフィティが完成を見るその日まで、彼らはファン一人ひとりを決して離さないだろう。

その23年目の彼らのファンへの想いと、ファン1年目の私の彼らへの想いの間に違いはないと思ってもいいだろうか。


あるいは、「好き」とそっと曇りガラスに書いておくくらいでも、見落とさないでいてくれるに違いない。






追伸

「そもそもポルノが占める割合は言う程多くはなかった」とは先述したが、そんな私でも聴けば一瞬で世界に惹き込まれ、思い出す曲がある。

月飼い。

この曲は好きすぎて、イントロからおれのものである。言わせてもらうなら、メリッサは月飼いと見えない世界合わせてひとつの作品であり、ジャケ写は表紙である。異論は認めない。



追伸の追伸

ちなみに、呼び方問題はいろいろあるのは承知しているが、当時から「昭仁」と呼んでいたので表ではいつもこの呼び名だ。Twitter上では感情が高まった時以外は「岡野くん」と一度も呼んだことのない呼び名で呼ばせてもらっているが、基本は呼び捨てである。ご了承願いたい。

そしてここまで晴一の名前も言及もされていない事に、どうか不思議に思わないでもらえたらいい。ほとんどの例に漏れず、「寡黙で気難しそうなギターのにいちゃん」の印象しかなかった状態から現在まで、余りのギャップ量に今はまだここに書き記す事ができないでいるからである。


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