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極私的坪内祐三


坪内祐三『極私的東京名所案内』(彷徨舎、二〇〇五年一〇月一五日、ブックデザイン=奥定泰之)

2023年11月、多摩霊園の坪内祐三墓の掃苔をさせてもらいました。親しくされていた古書店主の方々に誘っていただいたのです。おそらく五十年ぶりに中央線の武蔵小金井駅で降りました。昔の面影はまったくありません。改札前で集合し、菊の花を買ってバスに乗りました。十分ほど揺られたでしょうか、府中運転免許試験場前で下車すると、すぐ右手には緑に囲まれた森が見えています。歴史を感じさせる石の門柱の脇を通り過ぎ、林立する墓石の間を縫うようにしばらく歩くと、その一区画に「坪内」とだけ彫られた濃いグレーの真新しい墓石がありました。雲ひとつない青空です。鳥のさえずりが絶え間なく耳にとどいてきます。

三年余りを経てやっと坪内墓の前に手を合わせることができました。何か肩の荷を下ろしたような、ほっとした気持ちになりました。同行の方々と坪内氏生前のアレコレについてはもちろん、坪内氏につづいてその翌年に亡くなられた小沢信男さんについての思い出なども談笑できたのは、生者のエゴかもしれませんが、これ以上ない供養になったような気がしています。

それを機にこれまでブログに書いてきた坪内祐三に関する記事をまとめてみました。

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2020年1月22日記

渋谷のギャラリー・カフェ「ウィリアムモリス」で開催した個展のために東京へ出かけていた。スマホも持たず、PCもタブレットもない環境だったため、妻から宿にかかった電話で坪内祐三急死を知った。言葉を失った。まだまだ若いはずと思ったら、六十一だという。今年の五月で六十二になるはずだった。早すぎる。

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