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蘭 9


『蘭』第9号(蘭発行所、1971年1月25日)表紙
本文
裏表紙:奥付

ある古本屋(ぶっちゃけ古書ヘリングですが)で文芸同人誌ばかり何十冊も放り込まれていた段ボール箱のなかから何冊か拾い出した、そのなかの一冊です。表紙や詩の組み方が気に入りました。知った名前は藤富保男のみ。ただし発行場所が尾道というのがポイントです。

発行人は高垣憲正。発行所住所は尾道市栗原町栗原団地(高垣方)。タテ214mmヨコ154mm、表紙とも12頁。執筆者は十人。最後の高垣太刀子がエッセイを寄せている他はすべて詩作品です。

壁画への招待  棹見拓史
鷗       暖川洋次郎
冬の海辺    橋本福恵
寂       横倉レイ子
夕暮れ     石城隆夫
角砂糖     高垣憲正
短       藤富保男
くろい家    加茂照子
魂のゆくえ   時繁尚文
frame 寿 高垣太刀子

発行人の高垣憲正は広島県ではよく知られた詩人のようです。

高垣憲正【たかがきのりまさ】
詩人、俳人。1931年9月2日広島県世羅郡世羅町出身。1952年広島大学三原分校卒業。尾道市立久保中学校教諭。1946年新開玉治郎に師事。1948年友人らと『尾商俳句』を創刊。51年『青潮』同人、『河』、53年『時間』同人、55年『流域』を創刊。1963年木村大刀子と結婚し夫婦で雑誌を運営。1967年『蘭』およびエッセイ誌『R』を創刊。1989年日本現代詩歌文学館振興会評議員。90年教職を退き、広島県詩人協会副会長。2011年『春の謎』で現代詩人賞受賞。 

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詩集
『座 高垣憲正詩集』流域発行所 1966
『靴の紐 : 高垣憲正句集』R発行所 1976
『高垣憲正詩集』土曜美術社出版販売 日本現代詩文庫 1997
『春の謎 高垣憲正詩集』土曜美術社出版販売 2010

高垣憲正の本号掲載作を引用しておきます。全文です。


  角砂糖

 何かの写真集にあったエーゲ海あたりの島
の風景なのだが、ぎっしり建て込んだ白い家
々が、波打ち際から丘のてっぺんまで続いて
いる。どの家もみんな、同じような資格な箱
で、毛筋ほどの汚れもない純白の漆食で塗り
固められている。曲りくねった路地には、ど
ういうわけか人っ子ひとり見えない。つきぬ
ける紺青の空の下、気の遠くなるような静寂
である。ただ白い壁ばかりが、身じろぎもせ
ず沈黙を守っている。
 そこにはふしぎに重圧感はない。どこまで
も清潔で、明るい陽の光をいっぱいに浴びて
いるような、どこかなつかしい満たされた思
いのする風景である。
 朝の食卓で、ちいさなボールに白い角砂糖
が盛られている。微細な無数の結晶面の反射
によるまぶしい肌の白さが、およそ食べもの
らしからぬ幾何学的なその形態とともに、あ
る安定感をともなって、朝ごとに私たちの眼
をとらえている。

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