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私が目下ジャズワークショップとやっている考え方には楽譜というものがない。


「PITHECANTHROPUS ERECTUS」the Charie MINGUS JAZZ Workshop, ATLANTIC 1273

チャールズ・ミンガス「直立猿人」のアルバム(初版は1956)を近所のエンゲルスガールというレコ屋さんで買った。かつて、あるジャズ名曲アンソロジーのCDに「直立猿人」が入っていて、すごい曲だなあと感嘆したことがあった。それ以来このアルバムが欲しいと思いながら、わざわざ探してまで買おうという気持ちもなく、いつか出会えばという感じで何年(十何年?)かが経っていた。

ジャケットアートも素晴らしい。作者はフリオ・デ・ディエゴ(Julio de Diego, 1900-1979)。マドリッド生まれ。ディアギレエフのロシア・バレーに端役で出演したり、パリでキュビスムやダダ、シュルレアリスムに触れた後、1924年にアメリカへ移住。宣伝美術やファッション・イラストの仕事から始め絵画制作の方へシフトして行ったようである。シカゴ、メキシコ、サンフランシスコなどで活動した(Wikipedia「Julio de Diego」)。

4曲入りだが、やはり「直立猿人」の完成度が高くまとまっている。「A Foggy Day」もいい。ミンガス自身がその作曲法というか音の作り方について解説した文章がアルバム・ジャケットの裏面に印刷されており、それはかなりなインテリジェンスを感じさせる内容である。拙訳にて。

私が目下ジャズワークショップとやっている考え方(conception)には楽譜というものがない。私は曲を《書く write》、それは頭の中だけにあり、まずパートごとのミュージシャンに曲の輪郭を示す。その骨格(framework)をピアノで伝え、使われている音階とコードとともにそのフィーリングをみんなに理解してもらう。アンサンブルでもソロにおいても各人の個性を考慮している。例えば、それぞれのコードに対して使える異なる旋律をいくつか割り振る、彼らは自分の好きな旋律を選び、コード同様に音階でも、特別なムードが指定されていない限り、自分なりのスタイルで演奏する。この方法で、私は曲のもつ私自身のテイスト(flavor)と演奏者それぞれの個性を、合奏でもソロでも、自由に発揮させることができるのである。

これは作曲法における《解決 way out》にすぎないとずっと非難されてきた。当否はともかく、私の考えは変わっていない、ただひとつの私のやり方なのである。今回の特別なグループで J.R. MOTEROSE や Jackie McLEAN(J.R. はロリンズ・スクールから、Jackie はバード・スクールから)のようなリスナーたちにすでにそのスタイルが親まれているミュージシャンといっしょにやるのは有益なところがある。くだくだ説明する代わりにこう言おう、私はコードのなかに音階を重ねて、小節の区切りを《演奏指示学節 cues》で置き換える、だが、それまで私には馴染みのなかったフレームワークで演奏された彼らに親しい旋律は、私が意図していたよりもずっとより良い広がりを《表現 explain》することに役立つはずだと。

音楽用語には馴染みが薄いので翻訳としては不十分なところは申し訳ない。原文にあたっていただければと思う。要するに作曲家としてコントロールするところとプレヤーの自由度の兼ね合いをどう取っていくか、ここにミンガスの方法論の要諦がある。「直立猿人」はそれがもっとも成功した一例であろう。


ジャケット裏面

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