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京都の丸善で 外国の絵本をのぞき 新書や文庫本を五、六冊買って イノダ珈琲店へ行き ゆっくり買った本のおくがきを読み 永正亭でそばを喰べて 帰る


『風の肖像 佐伯義郎画集』(シグロ、1996年4月20日)

先日、余波舎/NAGORO BOOKS にて開催中の「佐伯義郎作品展」を見たが(〜26日まで)、そのときに購入した『風の肖像 佐伯義郎画集』を眺めている。

佐伯義郎作品展
https://sumus2018.exblog.jp/31051402/

余波舎/NAGORO BOOKS
https://x.com/nagorobooks

孔版とエッチングを組み合わせた版画は色調が独特で素敵だ。絵画や彫刻の他に詩や短いエッセイ、童話なども収められており、もともとが国文科だから上手いものだ。一例として「オオキナ魚ミタ」を引いてみる。

"オオキナ魚ミタ" "オオキナ魚ミタカ" "コンナニオオキイ" "コンナニオオキイカ" 両手をいっぱいにひろげて 大変間のびした話しを繰り返しているので これだけのことで 朝の日はゆっくりと 山のうしろに廻って 薄暗くなります 私は京都の丸善で 外国の絵本をのぞき 新書や文庫本を五、六冊買って イノダ珈琲店へ行き ゆっくり買った本のおくがきを読み 永正亭でそばを喰べて 帰るのが大体のコースで 一週間に一度位の割でやってきます その間に画箋堂で画材を買い 紙泉堂で紙を仕入れ 鳩居堂をのぞいたりしますので家に帰ると一日はお終いです オオキナ魚見タカ オオキナ魚見タ なかなかシンプルな 草葺きの三角屋根の小屋に住み 汐水で洗ったハマグリやカキを喰べ 素焼の鉢には山桃の実もあって ときには猪や野兎もさがっていることがあります そうしてよい時候の時でしたら 入口から赤や黄や紫の花が 咲き乱れているのが見えるはずです 私は新書の小さな写真で こわれたり復原したりした土器をながめ 今日は冬至だったと 何故か淋しい思いがしてきますが 誰もがそうなのだと 目的のわからない人の一生の旅路を それならそれで 楽しいのではないかと 思えてまいります いざ行かん雪見にころぶところまで 今年はまだ丹後の大江山に 雪は降らないようですが 私は冬の旅に出ようと ここから北に見える比叡山にむかって ヘミングウェイだって オオキナ魚見タのさと 老漁夫のように小さな声で つぶやいて見るのです

p78

句読点を使わない、詩のような、京都暮らしの半日が描かれている。紙商の紙泉堂は現在は西京区にあるようだが、佐伯義郎の略歴を見ると1972年に《個展(京都紙泉堂画廊)》と書かれているから市内に店舗があったのだろうか。永正亭は寺町通の四条下ルすぐ。入ったことがないので一度トライしてみたい。


晩年の佐伯義郎

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