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後で効く 冷酒と 彫刻家の独り言

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彫刻家大黒貴之のオピニオンや独り言をまとめています
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#彫刻

縁起の間 -⽩梅・⽯楠花・彫刻・⾦⽊犀

彫刻家の大黒貴之です。 2020年、東京のMARUEIDO JAPANで開催された個展に合わせて執筆したテキスト「両義の間にある揺らぎ「間-振動」-⾃然 時間 ⾔葉 数字 縁起 ⽣命彫刻、ドローイング、インスタレーション 」から抜粋したものです。 ・・・・・ 10 代、20 代の頃は、⾃宅にある庭の樹にはそれほど愛着も無かったが、近年、何故か急に⼼を惹かれるようになっている。 中でも⽩梅と⽯楠花、それと⾦⽊犀の 3 本の樹々が特に気に⼊っている。⽩梅については、私が幼

究極の純粋性とは?ミニマルアートの旗手ドナルド・ジャッドが辿り着いた境地

彫刻家の大黒貴之です。 今回はミニマルアートについての話をします。 ミニマルアートとは、1960年代前半から70年代初頭にかけてアメリカに台頭してきました。作品の素材や作家の手跡などを徹底的に排除して鑑賞者の目前にある作品を「モノ」として提示し、作品自体の純粋性を問いかけたアート概念です。 その例として、ミニマルアートの旗手ともいえるドナルド・ジャッドを紹介したいと思います。ジャッドが1965年に発表した「スペシィフィック・オブジェクト」という概念は彼の思想が凝縮された

彫刻について考える:ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻論とフォールド・ドローイング

彫刻家の大黒貴之です。 2020年、東京のMARUEIDO JAPANで開催された個展に合わせて執筆したテキスト「両義の間にある揺らぎ「間-振動」-⾃然 時間 ⾔葉 数字 縁起 ⽣命彫刻、ドローイング、インスタレーション 」から抜粋したものです。 ・・・・・ 彫刻とはどういうものかと尋ねられれば「現実」と「行為」だと答えるだろう。 絵画は平面性の中にイリュージョン(幻想)を形成させるのに対して、彫刻は三次元のものが目前に厳然として「在る」ことが挙げられる。現在では彫刻

私はなぜドイツに向かったのか?

ドイツには2度に渡って約6 年半滞在をした。現地の環境、文化、デザインなどが近江の自然の影響を受けた有機的な彫刻フォルムに上書きされ、私の作品は、論理的、数学的な美を取り入れた表現言語へ昇華された。 「なぜ、ドイツだったのですか?」とよく問われる。一度目の渡独は「アートの伝統的な歴史があるヨーロッパで作家としての自分の実力と運を試してみたかったから」。それに戦後、東西に分裂して、そして再統一されたドイツの歴史背景にもとても興味があった。壁以前と以降の狭間にあるベルリンという