見出し画像

【スヤマ】第一章④

『ここ、か・・・。』

ベスティアの幹部、ガマの屋敷。
時間は、夜。

依頼人ユキは、
実はここに潜入している部隊の一員だった。
いわゆる、カラダを使った部隊、である。
絶大なる性欲の持ち主、ガマ。
これからここで、
他の幹部も招かれて、とあるパーティが開かれるらしい。
秘密裏に。
そんなガマの秘密裏のパーティといえば・・・
言わずもがなである。
そしてユキは、そこが耐えられず抜け出して、
戻った存在である。
どんな扱いを受けるかは、想像に難くない。

(なんでわざわざこんなときに戻ったんだ・・・
もしわたしがそうとは知らず
井川さんのところに彼女を連れてったことが原因なんだとしたら・・・)

彼女はわたしの依頼人だ。
なんとしても、守りたい。

『スヤマさん・・・』

『井川さん。』

『あなたがそんなに気に病むことはありませんよ。
彼女は何か思うところがあって、
ここに戻った。
そこにあなたの責任はありません。
むしろ、
その思うところがどんな無茶な行動なのか、
そちらの方がわたしは心配です・・・』

『あぁまぁ・・・それは確かに。』

『むしろそんな状況の彼女に
救出に向かってくださるあなたに
わたしは感謝しているんですよ。』

『それは・・・』

『あなたの依頼人だから、ですね?
わかりました。

・・・状況を説明します。
幸い、入口の警備は手薄です。
というか、誰もいません。
男というのは単純ですね。
皆、パーティに参加しているのでしょう。』

『なるほど・・・』
その感覚は自分にはないからわからないな。

『ですから、
警備の人間と同じ服とカギを用意しました。
潜入は容易でしょう。
もしかしたら、見たくないものを見るかもしれませんが、
くれぐれも無理はなさらず。
・・・わたしたちに出来るのはここまでです。
裏口に控えていますから、
危険を感じたらすぐに逃げ出してください。』

『・・・・・。』


(・・・ホントだ。
入口には誰もいない・・・
ということはもう中では・・・)

ガチャ

(うおぉ・・・!)

開けた瞬間、
室内の爆音の音楽が流れてきた。
そして真っ暗だ。
互いに存在がわからないような配慮か。
にしても・・・
これだけ外に音が漏れ出さないということは
まさに中で何が行われていてもわからない状況だな・・・。

スッ・・・
(ん?)

長い廊下の奥で動く影。

(気のせい、か?)

その影を追ってみる。
廊下の奥、曲がった先の一番隅の部屋の扉が開いている・・・

『ユキ、さん・・・?』


『・・・えっ!スヤマくん、なんで!?』

『そりゃあんな置き手紙ひとつで去られたら
助けに来るに決まってるでしょ。』

『・・・ゴメンね?』

『え?』

『ゴメンねウソついて。』

『そんなのもうどうでもいいよ。
それに、キミはこの仕事はイヤなんでしょ?
無理することないよ。』

『・・・・・。』

『・・・ユキさん?』

『うん・・・ありがと。
でもね、あたし
どうしても最後にやんなきゃいけないことがあるの。
みんなを助けるためにも』
ガターーーーンッ!!!!!

ビーッ!!!ビーッ!!!

『ごめーーーーんっ!!!』

『ちょっとー!!!』

バタバタバタバタ・・・

『そこに窓があるから!
そこから急いで逃げて!!!』

『ユキさんは!』

『ゆったでしょ。やることがあるの。』

『えっ・・・』

『早く!!!』

「誰だ!!!」

『・・・・・っ!』
ガシャーン!!!

「待て!!!
窓から逃げたぞ!追え!!!」

ダダダダッ!!!
『こちらです!』

『井川さんっ・・・!』


『・・・ふぅ。間一髪でしたねぇ。』

『でもまだ中にっ!ユキさんがっ・・・!』

『彼女ならきっとウマくやるでしょう。
計画とは少しズレましたがね。』

『井川さん・・・?』


翌日・・・
昨晩井川さんはああ言ったが、
残してきたユキさんを放っておけるわけもない。
居ても立ってもいられず、
借りた黒スーツを着て再度、屋敷に潜入した。

昨晩あんな騒ぎがあったにも関わらず
警備の人間はまばらである。
よくある話なのか、ただ単に杜撰なだけなのか、
それとも外部の幹部が来ているから平静を装っているのか。
なんにしろ、自分が入ってもなんの違和感もない。

屋敷を横にまわると、
昨晩は見えなかったが大きな窓があり、
その中は巨大な風呂のようだ。
そこには何人かの幹部らしきコワモテが入浴している。
その中でもひときわ脂ぎった、太ったカエルのような男・・・

(あれが、ガマか・・・そのまんまだな。)

ふと、中二階の内ベランダのところに人影が。
深くフードを被っているが
あのパーカはわたしが渡したもの。
(ユキさん!?)

中で何か大声で叫んでいる。
鉄壁の防音のせいで何を言っているのかは聞こえないが・・・数字?
直後、一瞬で青ざめる、ガマと思われる男。
男を取り囲みはじめる、まわりの男たち・・・

(・・・あれ?)
ふと見ると、ユキさんの姿はもうない。
騒がしくなる、警備員たち。


集まると素性がバレる恐れもあり、
一旦事務所に戻ることにした。
その前に、井川さんに先ほどの出来事の報告をしよう。

(・・・あれ。)

井川さんの事務所への路地を入る手前。
一足先に、
反対側から路地へ入っていくひとりの人影。

(・・・・・。
ユキさん?)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?