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【スヤマ】 プロローグ⑥

『ケンジさん!
何からなにまで・・・
ありがとうございますっ!!!』

『いや。いいってことよ。』

『何度も聞いて申し訳ありませんが・・・
やはり俺と井川さんは、昔・・・・・』

『・・・俺は知らねぇよ。
何かあったかもしんねぇし、なかったかもしんねぇ。
まぁ、なんかの拍子に記憶戻ったら
そんときわかんじゃねぇか?
なんにしろ、
先生がおめぇのこと助けてぇって言ってんだ。
ありがたく受け取っといたらいんだよ。』

『でも・・・
そんな見ず知らずの俺のために・・・』

『だからよぉ、知らねぇっつーの!
・・・まぁひとまずは、これからこーやって
真っ当に生きてくのが恩返しになんじゃねぇか?』

『えっ・・・
じゃあもしかして俺は井川さんにかなりヒドいことを・・・!!』

『いやっ・・・
だから知らねぇよ!
・・・でもそーゆーことじゃねぇと思うぜ?』

『でもっ・・・』

『あーうるせぇっ!!!
俺に聞くんじゃねぇよぉ!!!』

『・・・わかりました。
あらためて、ケンジさんも色々、
ありがとうございます。』

『・・・あー。
俺ぁ先生の部下だからよ。
先生のやりてぇことを全力でサポートすんだけだ。
恩に感じるこたねぇぜバカヤロウ!!!』

(・・・照れてる?)



井川さんの指示と協力の元、
俺は探偵事務所を開くことになった。
「スヤマ探偵事務所」。
当面、軌道にのるまでは
井川さんがお金も出資してくれるらしい。
何故かはわからないし、
ケンジさんに聞いてもこんな風にはぐらかされる。
記憶が戻るまでは
きっと何を考えても無駄なんだろう。
そんな気がする。
まぁともかくはここで、
来てくれた依頼主さんたちに
真摯に心向き合っていこう。
それが、この場所を与えてくれた井川さん、ケンジさんに対しての
最大の恩返しになるんだ。

でも、2人がいい人たちでよかったなぁ。
タイミングが違えばどうなっていたかわからないな。
もしかしたら奴隷みたいになってたかもしれないし。


おぼろげな記憶だが、

「誰かに尽くした思いは必ず自分に返ってきます。
その逆も、同じです。
ならば、できるだけいっぱい、
誰かに優しさを注いでいきましょうねぇ。」

って言ってたのを思い出す。

誰ひとりも思い出せない今は
その言葉も誰のものなのかわからないけれど、
いい言葉だな。
・・・独特の口調だけれど。
いつかその人に出会えたら、
最大級の感謝の気持ちを伝えよう。


『・・・エックシ!!!』

『どーした先生カゼかよ。』

『誰かウワサしてますかねぇ・・・』

『ウワサでクシャミとか古典的だなぁおい』

『ところで。
わたしの方のセッティングはどうなりました?』

『あぁ情報屋の件か。
もう準備はできてるぜ。
事務所の入口んとこ改装しといた。』

『さすが。仕事が早いですね。』

『でも、いーのかい。
あいつの性格上、記憶戻んなくても
困った依頼人来たら
簡単にまた危険なとこ首突っ込んじまいそうだぜ。』

『はい。わかってます。
でもこれからは、傍にいてはいけない規制はなくなりました。
それに・・・・・
彼にはこれから、彼なりの幸せを掴んでいってほしいのです。
彼には昔から人を惹きつける、不思議な魅力があります。
この仕事が、彼の魅力が最大限発揮される場所だとは思いませんか。』

『・・・幸せもんだなぁ優一は。』

『「スヤマくん」、ですよケンジくん。
そして、
ベスティアの目は至る所に光っています。
わたしたちは
その魔の手から彼を守らなければならない。
これから忙しくなりそうですよ?』

『・・・楽しそうだなぁおい。』

『わたしは園長をやる前は警察官でした。
誰かを悪の手から守ることには血が騒ぐんですよ。
・・・それに。』

『は?それに?』

『実際動くのはケンジくん。あなたです。』

『・・・あー・・・
まぁそんなこったろうと思ったぜ。
任しときな。
俺ぁあんたのためなら命懸けれるぜ。』

『命懸けちゃだめですよ。
必ず生きて、帰ってきてください。』

『ムズいこと言うなぁまったく。』

『わたしは、あなたにもあなたなりの幸せを掴んでほしいんですよ。
命あってのものですからね。』

『・・・おぉ。余りある言葉だぜ。』


ケンジくんといい優一くんといい、
孝心あるコたちに囲まれて
わたしは幸せものですねぇ。
どんなコたちにも、どんな境遇でも
一律に幸せになる権利はあります。

一度は無くした命。
このコたちの未来のために
生き甲斐のために、
心尽くしていかねばなりませんねぇ・・・


【スヤマ】プロローグ 完。

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