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【スヤマ】 プロローグ②

『ワァーーーーー・・・!』

児童養護施設「ひまわり」。
親がいない子供や、育児能力の低い親の子が入る施設。
このご時世、
過去に比べてそういった子供も少なくはないのが現実である。
しかし、
ならばそういった子たちも平等に見られるかといえば
そうではない。
それは、いつの世であっても、同じだ。


『えんちょせんせぇ~!!!』

『おや、どうしました優一くん。』

『なんかねぇ・・・』

『聞いてよえんちょー!
優一のやつずっと虫にたかられてんだぜ〜
おんもしれぇの〜!!』

『これは虫じゃないよぉ』

『そうですよマモルくん。
この生き物は「ヤモリ」といいます。
本来はここまで人間に懐かない生き物なんですが・・・
きっとこれは、
優一くんの心がよっぽど優しい証拠でしょうねぇ。』

『えぇっ!そぉなのぉ!?』

『はい。きっとそうです。
それにほら、
よく見るとかわいいでしょう?』

『・・・うん・・・
わぁっ!オレんとこにも来た!!!』

『じゃあきっと、
マモルくんの心も優しいんでしょうねぇ。
小さい生き物は大切にかわいがってあげましょうね。』

『うん!
ありがとぉえんちょー!
優一!みんなにも見したげよーぜ!』

『うんっ!
ありがとーえんちょせんせー!』

(・・・不思議なコですねぇ優一くんは。
園児だけでなく
小動物もみんな優一くんの元に集まってくる。
優一くんを中心に優しさの輪が広がっていますねぇ・・・。
・・・ここにいるのはみんな
恵まれない境遇のコたちです。
この先、苦労もたくさんあるでしょう。
でもそのおかげでこうして
一番大切な心に触れ合うこともある。
この先も、道に間違わないよう
責任をもって育てなければなりませんねぇ・・・。)


そして5年ほどの月日が流れ・・・


『・・・園長先生・・・』

『お、どうしました優一くん。』

『マモルがね、最近ヘンなんです。』

『あぁ・・・マモルくんですか・・・。』

『先生も気づいてました・・・?』

『そうですねぇ・・・。
優一くん。
人はみんな年を重ねると
だんだん色んなものに興味をもちます。
なかなか昔のようにはいきませんし、
時には見守るしかできないこともあります。
大切なのは、優一くん。
そこに変わらず君がいてあげることですよ。
困ったときに、
いつでも支えてあげられるように
いつでも戻れるように
ただ、そこにいてあげることです。
それは、大人になっても同じことですよ。

ですが、もうひとつ。
そうやって、自分の目でしっかり体験することも
大切なことなんですよ?』

『・・・そうなんですか?』

『はい。そういった体験は
大人になって同じようなことが起こったときに
正しく判断できる材料になります。
そしてそれは、
誰かに助けられた体験も同じです。
優一くん。
君のような強く優しい存在がそれですよ。
だから時に
お互い悩むことも大切なんですよ。

・・・大丈夫です。
わたしはいつでもここにいますからね。
苦しくなったら、いつでもここに来なさい。』

『・・・はい!
ありがとうございます!』

(・・・とはいえ、ですねぇ・・・。
困ったものだ。)


その日の夜・・・
施設の傍にひとつの影ーーー


『・・・ケンジくん。』

『うわっ!!!
えっ・・・園長先生・・・?』

ケンジ。
元「ひまわり」の卒業生。
7年前に卒業したから今は25歳になるか。

『こんなとこに隠れて何やってるんですか?』

『いやあの・・・』

『マモルくんとも何度か話してますねぇ。』

『・・・くっ!!!
園長・・・
黙ってこの土地譲ってくんねぇか!!!』

『・・・「ベスティア」、ですか・・・。
長いこと、再三脅しをかけてきてますねぇ。
動かないとわかったら、今度は君、ですか。
君の境遇は想像がつきます。
卒業して、どこに行っても定職に就けず苦労して、
致し方なかったんでしょう・・・
その心にベスティアはつけこんだ。』

『・・・・・!!!』

『しかしケンジくん・・・
君の過去まで否定してはいけない。
ここで救われた記憶までをも否定しては、
いけません。』

『・・・でもよ!
実際に受け入れられなかったのぁ事実だ!
俺ぁよ!
ここで金儲けて
俺を裏切った今までの連中を見返してやんだよぉ!!!』

『・・・・・。
なるほど。刃物、ですか。
・・・いいでしょう。
君の苦悩は
正しく導けなかったわたしの責任です。
それで君が助かるなら・・・
・・・刺しなさい。』

『えっ・・・!
う・・・うおおおおおーーーーーーっっ!!!』
グサッ!!

『・・・・・・・
ゴフッ・・・!』

『うっ・・・うあぁ・・・
園長!ごめんなさい!!』

『・・・いいんですよ・・・
君も・・・こうしなければ・・・
逃れられない事情があったんでしょう・・・?
仕方のないことです・・・。
ここならカメラも死角・・・
今なら誰にも・・・気づかれていない・・・
行きなさい・・・』

『でもっ・・・
血がっ!!!
血が・・・!止まら・・・っ!』

『刺せばこうなるのは当たり前です・・・
早く・・・!』

『でもっ・・・・・!!!』

『行きなさい!!!!!』

『っ・・・!!!』
ダッ!!!


(あぁ・・・しかしこれは・・・
ホントにヤバいかもですねぇ・・・
あぁ優一くん・・・
守って・・・あげられなくて・・・
すい・・・ま・・・・・)

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