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【スヤマ】 プロローグ③

(・・・あれから5年、か・・・・・)

中学の頃、ある時から
園長先生が行方不明になってしまった。
捜査は入ったようだが見つからず、
失踪案件となってしまっている。
その後、新しい園長が就き、
「ひまわり」は何事もなかったように存続している。
・・・でも、
僕にとって親と呼べる存在はあの人だけだ。
あの人は、
「何かあったらいつでもここに来なさい」と言ってくれた。
その約束を無下にする人ではないことを
誰よりもよく知っている。

あの日からずっと園長を探し続けているが、
施設の子供の出来ることなんてたかが知れている。
だから、ずっとその日を待っていた。
僕は、施設を卒業した。

築何年かもわからないボロアパートを格安で借り、
清掃業のアルバイトに就いた。
捜索のためにほぼ帰らない住処なんてどうでもよかったし、
実際、仕事以外の時間はほぼ捜索に充てた。
その点、日雇いのアルバイトは都合がよかった。
これでいい。

・・・しかし、実際の事情はわからない。
もしかしたら
園長も何か思うところがあったのかもしれない。
そして・・・
何かあって、もしかしたら子供の僕たちを守るために
致し方なく姿を消したのかもしれない。
そうも思うようになってきた。
でも、もしそうなら僕たちももう大人だ。
助けてもらった分の恩返しをしたい。
そのために、一目会いたい。
ただそれだけの気持ちだ。

そして今日、園長先生がいなくなってから
丸5年が経つ・・・。


『優一!!!』

卒業してから
なるべく人と絡まないようにしていた。
園長先生の捜索。
ここまで調べても何も出てこないということは
もしかしたら命の危険が伴う行動なのかもしれない。
ならば、人と距離を置くに越したことはない。

『実はさぁ!!!』

・・・彼の名はスヤマ。
同時期に入社した同僚だ。
裏表ないさっぱりした性格で
入社当初から妙に懐かれている。
懐かれること自体は慣れているし、
彼のような人間はキライではないが、
今はなるべく他人と距離を置いていたい・・・

『なぁおい!!聞いてるか!!!』

『・・・あぁごめん。なんだっけ?』

『ったくよぉ・・・
またオリジナルの新メニュー作ったんだ。
いい加減味見しにきてくれよぉ〜』

『そうだなぁ・・・
また時間ある時にな。』

『そーやってまたはぐらかすんだろ!!』

『いやホントに忙しいんだ。』

『ウソつけよおめぇ
何がそんな連日忙しいんだよ!!!』

『・・・それは言えないけど・・・』

言えるわけない。

『ほーらやっぱ言えねぇんじゃねーか!!!
今日とゆう今日はもう逃さねぇぞ!
今日は会社の連中もみんな来んだ!
みんなおめぇと話したがってんだぜ!?
俺の面子を立てると思って!
な!?な!?
顔出してくれよぉ〜!!!』

・・・ホントに半泣きだ・・・。

『・・・ははっ!!!
わかったよ。今日だけだぜ?
それに・・・
どーせ会社の連中は来ないんだろ?』

『バレたかよ。』

彼は将来、自分の店を開きたいらしい。
そのために、ひとまずここで金を貯めて
調理師学校に行くんだそうだ。


そしてその日の夜・・・
高層マンションの一室が彼の部屋だった。

『ここが俺ん家だ。』

『でっか!!!
え。
こんなトコ住めんならわざわざ働く必要ないんじゃん。』

『うん・・・まぁな。
まぁとりあえず入れよ。』

『あぁ。
・・・あれ?メシは??』

『へ?・・・あ。
ま、まぁ、とりあえずまた今度な!』

『はぁ?』

『いやだってよぉ・・・
おめぇなんで職場の誰とも話さねぇんだ?
なんかよ、わざわざ自分から距離とってるよーに見えんだよ。
ホントはおめぇ・・・
そーゆーやつじゃねんだろ?』

『・・・・・・・。』

『・・・実ぁな・・・・・
俺、親父が行方不明なんだよ。』

『え?』

『誰にでも話すわけじゃねぇぜ?
おめぇにだから話すんだ。』

彼の父は
とある有名雑誌の敏腕記者だった。
しかし、彼が中学の頃、
ある日忽然と姿を消す。

『・・・「ベスティア」って知ってるか?』

『あぁ・・・。』

『なんか、それの調査してるときにいきなりいなくなったんだよな。
何かヤベェ組織だってこたぁ聞いてんだけどよ、
全体像が全く見えてこねぇ。』

『もしかしてスヤマはそれ関係でお父さん探してんのか?』

『あぁ。
母ちゃんは元々育児放棄気味だったんだけどよ、
親父がいなくなってすぐ、
他に男作って出てっちまった。
・・・この家は親父が遺してくれたもんなんだ。
いつか親父が帰ってきてもいいように
ここだけは離さず持ってたんだけどな、
もう待つだけじゃダメだと思ってよ。
店開くのぁ親父が見つかったその後だ。』

『そっか・・・なるほどな・・・。
・・・実はさ、』

優一は自分の境遇を彼に話した。
孤児院出身なこと。
そこの園長先生が唯一、自分の親代わりだったこと。
その園長が、彼の父と同時期に姿を消したこと。
彼と同じように、
自分も園長の行方を探していること。
そのために、
どこで危険が及ぶかわからないので
なるべく他人とは距離を置いていること。

『・・・でさ。
俺も捜索してる中で「ベスティア」ってワードにあたったんだ。
でもそっから先が全く進めなくて・・・』

『やっぱりな。』

『え?』

『なんかよ、
ぜってぇおめぇ何か抱えてると思ってよ、
でもその先にある物に
なんか似たもん感じててよ。
一回ちゃんと話してみてぇって思ってたんだよ。
やっぱりな・・・
てかよ、
もしかしたらウチらの探し人は
案外同じとこにいんのかもしんねぇな。』

『・・・うん。』

『・・・・・。
なぁ優一よ。
よかったらよ、一緒に探さねぇか?
1人より2人のが効率的に探せると思んだ。
そん代わり、どっちかの探し人が見つかっても
もう一方が見つかるまで協力するってことでよ。
どーよ。名案だろ。』

(・・・不思議なやつだ。
これまでずっと、
他人に迷惑かけまいとして頑なに築いていた壁を
いとも簡単に壊されてしまったな・・・。)

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