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【スヤマ】 プロローグ⑤

(・・・しかしこれは・・・
本格的にヤバいかもですねぇ・・・
あぁ・・・優一くん・・・
守って・・・あげ・・・
ら・・・・・・・)


・・・とある場所。病室のベッド。

(・・・・・・・え?)
『あ・・・あの・・・・・』

『気がつきましたか。』

『・・・ここは?』

『残念ながらどこかは、お答えすることはできません・・・
言えることは、
あなたは戸籍上、死んだことになります。』

『えっ・・・!』

『残念ながら、
園長として孤児院に帰ることはできません。
園児には二度と会うことはできません。』

『・・・どういうことですか?』

『それを教えるためには、
まずはあなたが
我々の存在を受け入れていただかなくてはならない。』

『・・・なるほど。
選択の余地はない・・・ということですね。』

『物わかりがいいようですね。』

『何らかの使命のために、わたしは生かされた
ということですか・・・』

『そしてあなたは聡明だ。
その通りです。
・・・あなたを刺した男、覚えていますか?』

『はい。ケンジくん。
元「ひまわり」の園児でした。』

『はい・・・
そして彼は、ベスティアの末端の組織に入った。』

『はい。それも無理はないでしょう・・・
世間は、親のいない人間に対して、
自分と違う境遇の者に対して、
意外なほどに、驚くほど理解はない。
それでも前を向いて生きられるよう育てたつもりでしたが・・・
おそらくは行き詰まった先の選択だったのでしょう。』

『はい。
だから彼に罪はない、というのは違いますが・・・
元々の元凶はそれを生み出したベスティアであり、
そのさらに裏の裏にある巨大な組織です。
その組織は・・・長らく、そして今も
この世界の裏の中枢です。』

『・・・はい。
それはなんとなく想像はしていました。』

『時代ははるか昔にさかのぼりますが・・・
まぁそれはおいおい話していきましょう。
・・・・・我々は。
そういった組織を常に監視し、
行き過ぎた場合、それを抑制する、団体です。』

『・・・なるほど。』

『いきなり話が大きすぎましたか。』

『いや・・・
いえ、そうですね。
確かに少々とんでる話ではありますが・・・
いきなり全てを鵜呑みにするのは危険ですが、
そういったものがあるのかもしれないとは、ずっと思ってきました。』

『それでいいです。
いきなり全てを理解されては
こちらも安心して仕事を任せられない。
・・・現在この世界は
全ての人間が数字による管理をされています。
任務を遂行するためには
その支配から外れなければなりません。』

『なるほど。
そのために一旦死の事実を作らなければならない、ということですか。』

『そうです。
少なくとも「向こう側」にはそうと認識させなければなりません。
そして、
全ての人間が救えるわけではない。
そんなことをしたら我々の存在が知られてしまいますからね。
・・・言い方は悪いですが、
救えるのは、我々の診査を通った者だけです。』

『その考え方は・・・
あまり好きにはなれませんが・・・
しかし・・・』

『いや、それでいいのです。
であるからこそ、あなたは選ばれた。』

『・・・・・。
詳しくはしっかり話を聞いてからになりますが。
ただ、話を聞く前に、
ひとつこちらからもお願いがあります。』

『・・・なんでしょう。』

『現在「ひまわり」に
優一という少年がいます。
わたしなどよりもはるかに心が優しく聡明で、
しかも不思議な魅力をたずさえた少年です。』

『はい。』

『彼は優しく聡明であるがゆえに
おそらくはわたしの死を受け入れることができないでしょう。
もしかしたら、わたしの行方を探し続けるかもしれない。
そうしたらいつか、
ベスティアにたどり着き、組織の手にかかってしまうかもしれません。
・・・遠くからでいいのです。
任務の合間に、彼の身を守ることを許していただきたい。』

『・・・なるほど。構いません。
あなたのことだ。
直接会うことはないでしょう。
大丈夫ですよ。』

『・・・ありがとうございます。』

『では・・・
あなたのお仲間を紹介しましょう。』

ガチャ。

『先生!!!!!
無事だったかよ・・・
よかった・・・よかったっ・・・・・!!』

『君は・・・ケンジくん。』

『彼は、
逃げ帰る途中のところを捕獲しました。
どうせ逃げたところで
組織は追い続けるでしょうし、
見つかった時点で消されるでしょう。
そして・・・
そのまま戻ったところで評価されることはないでしょう。』

『その可能性は大きいかもしれませんね・・・』

『妙にこのボスの言うことにゃ説得力があってよ。
どうせ捨てた命なら、
先生がこっちに来んなら俺ぁこの先、
一生この命、あんたのためだけに注ぐぜ。』

『・・・そんな考え方ではダメです。
あなたはあなたの幸せを見つけなければ・・・。』

『そんな考えだからダメなんだぜ先生よ!
先生のために生きるこたぁ
今の俺にとって一番の幸せなんだからよ!』

『・・・そうですか。
では君がこの先、新たな幸せを見つけるまでは、
お願いするとしましょうかね。』

『かてぇなぁ先生はよ!!!』


ーそれから数年の月日が流れ・・・ー

『先生!てぇへんだ!!!』

『おやおや騒がしいですねぇ・・・
どうしましたケンジくんそんなに慌てて・・・』

『優一が・・・・・!!!!!』

『・・・え?』


『・・・・・なんとかなりそうですか。』

『こっちの青年は・・・
ダメだ時間が経ちすぎてる・・・
かわいそうだが手遅れだな・・・。
・・・優一の方は・・・・・』


『・・・ん・・・・・
ここは・・・・・』

『気がつきましたか。
よかった・・・。』

『・・・あなたは・・・・・』

『すみません優一くん。
何も言わずにいなくなっ・・・』

『いえ。あなたは誰だ?』

『え?』

『いや・・・わたしは・・・誰ですか?』

『えっ・・・』

『・・・・・スヤマ。』

『すやま?』

『何故だろう・・・
その名前だけ・・・強烈に覚えています。』

『そうですか。
わたしの名は「井川」。
では、あなたはこれから「スヤマ」と名乗りましょうかねぇ。』

『スヤマ・・・なんだろう。いい名前ですね。
でも何故だか・・・
すごく悲しくもなります・・・。』

(記憶喪失、ですか・・・
おそらくはショックによる一時的なものだろうが・・・
でもむしろ、これでよかったのかもしれない。
こうして間近でまた彼を守ってやれるのだから・・・・・)

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