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【スヤマ】 プロローグ④

あれから。
心閉ざしていた数年間を取り戻すかのように
俺は、スヤマにたくさんたくさん話をした。
そんな俺のとりとめもない話を
そのたびスヤマは、
時に楽しそうに、時に驚きながら、
全て聞き入れ、受け入れてくれた。
そして
「おめぇも本来はこっち側の人間だぜ?
昔はみんなおめぇんとこに集まってきてたろ。」
って、そんな風に理解してくれた。
そういえば、そうだったかもしれない。

不思議なものだな。
唯一の恩人である園長先生を探している最中で、
園長先生以上にかけがえのない存在に出会ってしまった。
そして、勝手なものだ。
俺は今度はスヤマを、
他の誰よりも失いたくないと思っている。

安いボロアパートはすぐに引き払い、
スヤマのマンションでの共同生活をはじめた。
そして仕事も変え、
スヤマの人脈も借り、2人での捜索活動を続けた。
それから数年が経ち
少しづつベスティアの内部が見えはじめてきた
そんなある日・・・


trrrr・・・

【もしもしー?】

【優一!!!仕事終わったか!!!】

【どしたよそんな切羽詰まって・・・
なんかわかったのか?】

【それどころじゃねぇ!!!
すぐ帰ってきてくれ!!!】

【なんだよそんな・・・】

【いいから!!!!!】

プツッ。
(・・・なんだよ・・・。)

ただごとではないスヤマの口調。
俺はすぐに家に帰った。


『・・・なんだよこれ・・・・・。』

『わかんねぇよ・・・
帰ってきたらいきなりこれだ。』

部屋がぐちゃぐちゃに荒らされている。
スヤマの手でキレイに整えられていた家具たちは
もはや見る影もない。
明らかに、何者かが侵入したようだ・・・。

『・・・でよ、
入口にこんな紙が丁寧に置かれててよ。』

『「探している物が欲しければここに来い。
ーmosquito byteー」・・・?
なんだこれ。』

『モスキートバイト・・・
聞いたことあるか?』

『いや。』

『・・・ふざけやがって・・・
ここは親父のために長年守り抜いた大事な家だぞ・・・
何バイトか知らねぇけどよ!!!』

『いや冷静になれスヤマ。
よくわかんないけど、こんなの罠に決まってる。』

『あぁわかってる。
でもこんなことされて冷静でいられっかよ!
罠?上等じゃねぇか。
元から何の危険もなく見つけられっとは思ってねぇよ!!!』

『・・・行くのか?』

『イヤなら俺ひとりでも行くぜ。』

『・・・いや。
「どっちかが見つかってももう一方が見つかるまで協力する」んだろ?
それにお前ひとりで行かせて何かあったら・・・
後味悪いしな。』

『優一、おめぇ・・・・・すまん。』

『かまわないよ。死なばもろともだ。』


俺たちはその足で、すぐに地図の場所へ向かった。

『・・・こんな道で合ってんのか?』

『この地図だと、獣道の先に屋敷があるはずだよ。』

『ほとんど道じゃねぇじゃねぇか・・・。』

『・・・・・なぁスヤマ。やっぱり』
パァン!!!

『え!?』

ザッザッ・・・

『・・・誰だおめぇ・・・。』

『・・・・・。』

黒ずくめにサングラスの男。
爬虫類のようなその顔は無表情で
こちらの問いには一切答えない。
手には拳銃。
銃口は真っ直ぐこちらを向いている・・・。

『ヤベェなこりゃ・・・。
・・・・・逃げろ!!!!!』

ダダッ!!!

『うわっ!!!』

『優一!!!』

『足取られちまった!
スヤマっ・・・逃げろ!!!』

『バカヤロー!!!!!』
ガバッ!

パァンパァンッ!
パァンッ!!!

『・・・・・。』

ザッザッ・・・


『・・・・・。
スヤ・・・マ・・・?』

『・・・・・おう・・・。』

『だいじょう・・・ぶか・・・』

『いや・・・ダメっぽい・・・ぜ・・・
目が見えなくなっち・・・まってる・・・
痛みも・・・感じ・・・ねぇわ・・・』

『・・・スヤマぁっ・・・・・!!!』

『バカ・・・泣くんじゃねぇよ・・・。
悪かったな・・・・・
巻き込んじまったぜ・・・
こんなんなら・・・
おめぇの話聞いとくんだったなぁ・・・
ははは・・・・・』

『そんなの別にいいよ・・・
それに元々僕は・・・親も知らない生まれだったんた・・・』

『バカヤロウ・・・
・・・だからじゃねぇか・・・
だからおめぇは・・・幸せになんなきゃ・・・
いけねぇんだ・・・・・』

『・・・え・・・・・?』

『だってよ・・・・・親を知らなきゃ・・・
不幸にしか・・・なれねぇなんて・・・
誰が決めたんだよ・・・・・。
・・・幸せはみんな・・・平等だろうが・・・よ・・・。』

『・・・スヤマ・・・』

『なぁ優一よぉ・・・・・
・・・おめぇ・・・名字なかったろ・・・
もし・・・生き残れたら・・・・・
スヤマ名乗っていーぜ・・・。』

『そんなことゆうなよぉ・・・・・』

『ははっ・・・
あぁ・・・もぉダメだ・・・・・
・・・・・・・。
なぁ・・・優一よぉ・・・
・・・死んでも言うまいと・・・思ってたけどよ・・・
聞いてくれるか・・・・・』

『・・・なんだよ・・・。』

『俺なぁ・・・
おめぇのこと・・・好きだったんだ・・・
俺・・・
・・・おめぇのこと愛してたんだ・・・
ははっ・・・
笑っちまうだろ・・・・・』

『・・・あぁ・・・多分・・・
わかってたよ・・・。』

『・・・マジかよ・・・
はは・・・恥ずかしいなぁ・・・』

『多分・・・俺もお前のこと・・・』

『マ・・・ジかぁ・・・なんだよぉ・・・
もっと早く・・・言っときゃよかった・・・
・・・嬉し・・・・・・・』

『・・・スヤ・・・マ・・・?』

『・・・・・・・』

『スヤ・・・・・』
(・・・マ・・・・・・・)


(・・・・・)

『ここ・・・は・・・』
(どこだ・・・・・?)

『あぁ、気がつきましたか。』

『あなたは・・・』

『すいませんねぇ優一くん・・・
黙っていなくなってしまって。』

『・・・誰ですか?』

『え?』

『いや・・・僕は・・・僕は、誰だ。』

『・・・・・え・・・?』

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