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【スヤマ】第一章⑤

井川さんの事務所への路地へ曲がる手前。
一足先に
反対側から路地へ入っていくひとりの人影。

(・・・ユキさん?)


コンコン
『ごめんくださーい・・・』
・・・・・。
返事がない。

ガチャ
『失礼します・・・』

・・・・・。
いつもいるはずの井川さんのデスクに姿はない。
代わりに、
奥の扉が少し開いてそこから光が漏れている。
(奥の部屋には入ったことないけど・・・)

カチャ
『失礼しま・・・!』

『待ってましたよ。スヤマさん。』

『井川さん・・・それにユキさん!』


『・・・すいません。
騙していたわけではないんですが・・・』

『井川さん・・・
一体どういうことですか?』

奥の部屋にはまた事務所のようなものがあった。
そこには、
井川さんとケンジさん、ユキさんと、あと2人の男がいた。
ひとりは「ゴリ」という名のやたら図体のデカい男。
もうひとりは・・・

『このたびは、失礼をいたしました。
わたしは、「桃山」といいます。
わたしから説明いたしましょう。』

『はい?』

『端的に申し上げますと、
あなたは我々の審査に合格いたしました。』

『・・・・・。』
誰だこいつ・・・

『あなたの依頼人に対する真摯な思いと行動、
評価に値します。
若干暴走気味なところも経験を積めば大丈夫でしょう。
我々は・・・』

『あなた方は、被害者にも優劣をつけるのか?』

『え?』

『スヤマさん!』

『そして、本意ではない任務も強制するんですか。』

『スヤマくん!いいのあたしは・・・』

『本来、人間に優劣はありません。
もし優劣をつけるとすればそれは、
自分本意か、他者を思えるか、その違いです。
ユキさんは、仲間を、友達を助けたいと言った。
そしてそのために、
本来戻りたくない場所に戻った。
危険も顧みず。
だからわたしは、助けたいと思ったんですよ。
わたしは聖人ではありません。
依頼人だからといって
全てに命をかけられるほど優れた人間ではありません。
そしてわたしは、人に合否をつけられるような優れた人間でもない。』

『スヤマさん・・・言い過ぎですよ。』

『・・・井川さん・・・しかし・・・』

『いや。いんじゃねぇか?
俺ぁそこまでちゃんと言葉にできるやつに
久々に会ったぜ。』

『ケンジさん・・・』

『いや。失礼いたしました。
言葉が足りなすぎました。
お詫びいたします。』

『いえ桃山さん。
わたしの方こそ生意気言ってすみませんでした。』

『いえ。
ますますあなたには魅力を感じてしまいますね。
わたしたちは「OGS」という団体で、
わたしはその、ネオトーキョーの所長をしております、
桃山と申します。』

『「OGS」・・・?』

『はい。
今、この世の中のほぼ全ての人間が
11桁の数字によって管理されています。
それはご存知ですか?』

『はい。
この界隈は「ベスティア」によってその管理が
なされている・・・』

『その通りです。
そして実は、その管理というのは、
はるかはるか古代からなされてきたんです。
時には表に立ち、またある時は裏にまわって。』

『・・・そうなんですか?』

『はい。
現代は情報社会。
この星のほぼ全て、あらゆる国の情報というものを
人々は認識している。
しかし古代というのは
海の向こう、山の向こうに何があるのか
全くわからない状況でした。
そんな中で、チカラを持った人間が、持たざる人間に
「侵略」というカタチで、領土と認知を広げてきた。
そんな歴史があります。』

『はい。』

『そしてそれは、この国も同様です。
そして常に
敗者の歴史は、勝者によって塗り変えられてきた。
それは、正しいか間違いかに関わらず、です。』

『・・・・・。』

『・・・我々は、
はるか昔における、この国の敗者です。
そして、元々この国に住む者でした。』

『えっ・・・。』

『・・・そういうことです。
常に歴史は、勝者によって塗り変えられている、ということですよ。
それから、我々は
裏からこの世界の歴史を見てきました。
そして、常に
勝者の行き過ぎた行動には、布石を打ってきた。
すごく小さなことでいえば、
今回のガマの件、でしょうか。』

『あぁ・・・』

『とはいえ、我々は常に秘密裏に動く組織です。
あまり目立った行動をして
向こうに存在を気取られてはいけない。
もちろんベスティア本体にもです。
ですから、
時にあなたに理解いただけないような任務もございます。』

『・・・・・。』

『そして・・・
今回はユキのイレギュラーな行動によって
思いがけず解決しましたが、
火消しは大変でしょうね。』

ビクンッ!ビクビクンッ!!!

『まぁ・・・許容範囲内ですがね。』

『・・・ほっ。』

『とはいえ、やはり反省は必要でしょう。
しばらくは謹慎が必要です。
行き先は任せますよ。
ベスティアにもバレないような
しっかりと反省のできる場所で、お願いしますね。』

『それならもう行き先は決まってるよ。
ね、スヤマくん。』

『え?』


『えぇーーーーーっ!?!?』

『今日からお世話になります。』

『いやいや・・・え?何でそうなるの!?』

『だってスヤマくんがあたし助けたの、
依頼人が理由じゃなかったんでしょ?
そんな風に愛されたの
あたしはじめてだもんっ!!!』

『そんな押しかけ女房みたいなのやめてよぉ・・・』

『あらやだっ!』

『・・・なに。』

『恋人通り越して女房だなんてそんなっ!
早すぎるっ!!!』

『・・・はぁ?』

『あたしは恋人でも女房でもなく
あくまで助手なのよ!?
まぁ・・・少しくらいなら手ぇ出してきてもいーわよ?
スヤマくんにそんな根性ないでしょーけどっ!』

『いや出さないよ・・・・・。
ちなみに井川さんとケンジさんは何か言ってた?』

『あの2人にそんなの言ったら反対されるに決まってるじゃん!』

『はぁ・・・。
まったく・・・給料払えないよ?
それでもいーの?』

『置いてくれるの!?やったー!!!』

(はぁ・・・うるさくなりそうだな・・・)

『ん?なんかゆった?』

『いや。』


スヤマ探偵事務所。
助手一名追加。
給料ナシ。


第一章 完。

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