【思煙】シーシャ屋の「居場所としての価値」を分解する|利用シーン3選
シーシャ屋は「若者にとってのスナック」である。
家でも職場でもない、第3の居場所としてのシーシャ屋。
では、「居場所としての価値」とはそもそも何か。
シーシャ屋の利用シーンは様々である。暇つぶし、ストレス解消、ノマドワーク。
これら全てに最適な空間がシーシャ屋であり、故に「居場所としての価値」も多様、というのが筆者の答えである。そして、様々な目的で訪れた人々の出会いもまた、シーシャ屋が提供する大きな価値の1つとなる。
シーシャ屋が提供する「居場所としての価値」を分解し、人々がシーシャ屋に求めるものを考える。
利用シーン① 暇つぶし
初めから身も蓋もない見出しになってしまった。
しかし実際、これを求めてやってくるお客さんは多い。
友達と行って2〜3時間喋れる
店舗にもよるが、シーシャ屋の滞在時間は概ね2〜3時間と言ったところだろう。シーシャ自体が2時間ほど味が保つため、滞在時間もそれに合わせて長くなる傾向にある。
友達と行って2〜3時間喋れる空間というのは意外に少ない。
カフェであればあまりに長居していると段々居心地が悪くなってくるし、居酒屋はどうしても遅い時間に利用が限られる。
どんな時間帯でも安心して長居でき、「シーシャを吸う」という行為が会話の間も繋いでくれる。久しぶりに会った友人と長話、なんていう状況では、シーシャ屋は最適な空間である。
1人で行っても話し相手がいる(かも)
以前noteにも書いたが、シーシャ屋という空間は顔馴染みができやすい。
シーシャは炭を使ってフレーバーを加熱するため、定期的に炭を交換する必要がある。この炭替えをきっかけにお客さんと店員の間で会話が生まれやすい。
座席同士の距離が近い店舗も多く、同じ空間を共有しているという雰囲気ができやすいからか、お客さん同士の会話も他の飲食店に比べると盛り上がりやすい傾向にある。
人によってはリピートしていくにつれ、いつの間にか「約束してないけど誰かしらいるかな」という期待を持って来店するようになる。
「暇だしシーシャ吸うか、誰かいるかな」
こんな気持ちで来店できるお店があるというのは、結構幸せなことではないかと思う。シーシャ屋店員にとっても、お客さんがそんな気持ちを抱いてくれるとしたら、本当に嬉しい。
誰かと話せる、でも話さなくてもいい
シーシャ屋は人との会話が生まれやすい空間ではあるが、決して会話を強制される空間ではない。お客さんを見ていても、会話を楽しむ人もいれば、1人で思い思いの時間を過ごしている人も多い。
筆者が勤めるばんびえんでは、馬場2号店と中野店にマンガ棚を設置している。シーシャを吸う間、適当に取ってきたマンガを目の前に積んで、黙々と読み進めるお客さんは見慣れた光景である。
コロナ以後で増えたと感じるのは、Netflixなどで映画を見ながら過ごすお客さんである。これもシーシャと相性がいい。吸い切るまでに2時間前後、ちょうど映画を1本観終わる時間である。
いわゆるステイホーム期間中におうち時間の一環でやっていた趣味を、シーシャ屋に持ち出して楽しんでいるお客さんは多い。
シーシャをよく吸うお客さんの中には、映画を観ている間に1本、観終わったら余韻を肴にもう1本、という具合にチェーンスモーキングを楽しむ方もいる。
その映画をすでに観ていた店員や常連仲間が居ようものなら最高である。黙々とコンテンツを楽しみ、終わったら即感想戦。シェアハウスのリビングのような体験である。
利用シーン② ストレス解消
筆者が勤めるシーシャ屋ばんびえんは、ラオスの「バンビエン」という村が名前の由来になっている。忙しない東京に、バンビエンのようなほのぼのした空間を作りたいという想いを込めてオーナーが名付けた。
シーシャ屋という居場所は、ストレス社会からの避難所としても機能している。
強制的にリラックス
シーシャの吸い方は紙巻きタバコと異なる。基本は「強く、長く」。強さのイメージとして、マックシェイクやクーリッシュを想像してもらうと分かりやすい。吐くときもゆっくり吐き出す。
シーシャを吸うという行為は、深呼吸に似ている。
ゆったりした姿勢で深く吸い込み、口からゆっくりと吐き出す。目の前に現れた雲のような煙をぼんやり眺めていると、強制的に脱力してリラックスしてくる。
言うまでもないが、人が生きる上でシーシャは必要でもなんでもない。不要不急の代表格であるとさえ思う。
しかし、このしなくてもいいことをしている瞬間が心地いい。人生に1番必要なものの1つは、この不必要な無駄な時間である。効率やスピードが評価される世の中にあって、シーシャは無駄なことの大切さを教えてくれる。
仕事以外の何かをしたい、でも疲れたくない
「まず、うなぎが完食できる元気がほしい」
何年か前、カロリーメイトがゼリータイプの新商品を出した際、広告に書かれていたコピーである。
会社員時代、仕事を終えてリフレッシュしたいと思った時、「仕事以外の何かをしたい、でも疲れたくない」と常々考えていた。本当は運動でもした方が体力もついて一石二鳥なのであろうが、疲れ切った体に鞭打って運動、という気持ちにはなかなかなれなかった。
その点シーシャであれば、吸っていてどっと疲れるということはない。そしてシーシャはカロリーメイトのように栄養は含まれていないが、メンタル面でのリフレッシュはできる。
仕事を終えてシーシャ屋にふらっと出向き、1本吸って脱力して帰る。疲れも溜まらず、「仕事以外の何かをできた」という満足感も得られる。
平日遅くに疲れた顔で入店してきた社会人のお客さんが、リラックスした表情で退店していく様子を見ると、店員である筆者も思わず笑みがこぼれてしまう。そんな居場所をこれからも作っていきたいと思う。
家・職場以外の人との会話
人のストレスの1番の原因は人間関係であるという。職場での人間関係、学校での人間関係、家庭での人間関係。これらの文字列には、どうもマイナスのイメージが付きまとう。
シーシャ屋では会話が生まれやすい、というのは繰り返し述べてきた通りである。家でも職場でもない、シーシャ屋でしか会えない人との会話は、普段の自分をある種忘れさせてくれる。
シーシャ屋を起点に共通の趣味を持つ友人ができたり、仕事の悩みを相談し合う仲になるというのは日常茶飯事である。家庭での自分、職場での自分といった役割から解放され、しがらみのないフラットなコミュニケーションが生まれる。
シーシャで知り合った友人との人間関係に悩む、なんてこともあるかもしれないが、それはまた別のコミュニティで解消すればいい。
自分が持っている複数の居場所の1つとして、シーシャ屋が存在していること。それぞれで別の自分を持っていること。
使い分けられる選択肢の1つとして、シーシャ屋もそこに入っていれば嬉しい。
利用シーン③ ノマドワーク
コロナ以後、シーシャ屋でリモートワークをする人が増えた。シーシャ屋はプライベートだけでなく、作業場としても優れていると思う。
2〜3時間居座れる、家でも職場でもない場所
カフェなどで仕事をしている人を見る機会は多いが、正直シーシャ屋の方が作業場としては優れているのではないかと思う。
冒頭で述べた通り、シーシャ屋は概ね2〜3時間滞在できる。多少腰を落ち着けて作業するのにちょうどいい時間である。「1本吸い終わるまでに区切りをつけねば!」とメリハリがつくのも良い。
設備の面でもシーシャ屋は作業に向いている。
多くの店舗でWi-Fiやコンセントが使えるため、パソコン作業も快適に行える。
作業台に適したカウンター席や、膝上でパソコンを操作しやすくするクッションテーブルなどを備えた店舗も多い。ばんびえんでも、去年の馬場本店の改装でカウンター席を新設したし、全店舗にクッションテーブルも導入した。
この他、テレワーク割など料金面でテレワークを応援している店舗も複数存在する。
仕事が終われば即脱力できる
仕事が終われば即脱力できるのも、シーシャ屋を作業場として見た時の魅力の1つだろう。
仕事終わりに癒しを求めてやってくるお客さんが多いことは先に述べた。シーシャ屋で仕事をしているということは、当たり前だがすでにシーシャ屋にいるわけである。仕事を終えて自分の頭さえ切り替われば、理想の仕事場が一転、究極のリラックス空間に様変わりする。
筆者自身も会社員時代、定時を迎えたらシーシャ屋に移動し、1本吸いながら残りの仕事に取り組み、片付き次第もう1本オーダーして今度はひたすらダラける、という日々を過ごしていた。
かようにシーシャ屋とは、居場所として様々な顔を持つ。どう使うかは自分次第である。作業場として、第2のリビングとして、その日の気分や時間によって、自分なりの楽しみ方を見つけてほしい。
人との繋がりの場として
ここまで、シーシャ屋という居場所の利用シーンを詳述してきた。本稿の締め括りとして、この雑多な居場所で生まれる出会いとその効用について述べたい。
シーシャ屋での出会いの多様性
最初に上梓した「シーシャ屋という『若者にとってのスナック』について」では、シーシャ屋を「約束していないけど誰かいるかな」という期待を持って訪れられる場所として、スナックや部室に例えた。
スナック、部室、シェアハウスのリビングなど、緩やかな繋がりの場という側面を表せる例えは様々ある。しかし、ここであえて「スナック」という言葉を選んだのは、シーシャ屋での繋がりの多様性や流動性を表現したいからである。
シーシャ屋には本当に様々な人が集まる。ばんびえんを例に取ると、馬場本店と馬場2号店は学生街に位置している関係で学生のお客さんが多いが、その他様々な業種のサラリーマン、フリーター、実業家、クリエイターなど、その顔ぶれは多様である。
中野店に関しては、馬場の2店舗に比べると年齢層が若干上がってサラリーマンの方が増えるが、それでも全く一様ではない。
部室であれば、出入りするのは同じ部活・サークルのメンバーに限定されるし、そもそもが共通の趣味で集まった学生の集団である。シェアハウスにしても、その顔ぶれは頻繁に変わるものではないし、メンバーの属性もある程度共通点があるだろう。
対してシーシャ屋は、普段関わらないような人同士が出会い、緩く繋がれる居場所である。飲食店という性質上、その顔ぶれも少しずつ入れ替わっていく。
シーシャ屋から生まれた「仕事」
多様な人々が集まるシーシャ屋では、そこを起点に仕事が生まれたりもする。
以下に紹介するのは、ばんびえんで実際に起こった出来事である。
2年ほど通ってくださっているWebライターのお客さんは、今ではばんびえんのブログ記事を複数書いてくださっている。シーシャに関するTipsや、シーシャ通販Tokyo Shishaで取り扱っている新商品の紹介記事など、そのテーマはばんびえんの活動全てに渡っている。
ばんびえんで出会った常連さん2人は、互いに動画コンテンツなどを作成してインフルエンサーとして活動していた。顔馴染みになるにつれて互いの仕事に関する話をするようになり、ついにはYouTubeでコラボ動画を公開するに至った。
店員とお客さん、あるいはお客さん同士など、ばんびえんでの出会いから生まれた仕事は数多い。
紹介したエピソードとは少し毛色が違うが、筆者自身この居場所に出会ったことが契機となり、会社員を辞めてシーシャ屋を生業にするに至った。これも、普段出会わない人との出会いがもたらした不思議な縁であると思う。
シーシャ屋という価値ある居場所
シーシャ屋は、シーシャを提供する飲食店である。しかし、お客さんが価値を見出してくれるのはシーシャそのものに留まらない。
シーシャを起点にした居場所としての価値。暇つぶし、ストレス解消、ノマドワークなど、その日の気分によってシーシャ屋は様々な顔を見せる。
そしてそんな居場所での出会いは、時に仕事に繋がったり、その人の人生すら変えるかもしれない。
【シーシャ屋ばんびえん】
高田馬場と中野に計3店舗を構えるシーシャカフェ。
毎日14:00-24:00で営業。
【つー@ばんびえん / Daiki Tsukamoto】
シーシャ屋ばんびえんスタッフ。
「知って楽しい、真似して便利」をコンセプトとした #シーシャ雑学 をTwitterで発信中。
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