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【思煙】シーシャ屋の居心地について|アットホームと身内ノリ

以前、シーシャ屋は若者にとってのスナックであると書いた。

しかし、こうも思う。スナックという空間は、独特の入りづらさがあるのではないか。アットホームであるが故の入りづらさ。自分というよそ者が入っていいのかを躊躇う気持ち。

シーシャ屋で働く筆者にとっても、これは他人事ではない問題である。常連さんで賑わう店でありながら、誰にとっても開かれた居場所であるために、店員が取り組むべきことは何か。


シーシャ屋の常連さん

常連さんは、個人経営の多いシーシャ屋にとって欠かせない、そして本当にありがたい存在である。
筆者が働くシーシャ屋ばんびえんも、ありがたいことに多くの常連さんを抱えている。
週に何回も来てくれる方もいれば、数ヶ月に1回の頻度で何年も通い続けてくれている方もいる。いずれも顔を合わせれば、自然と会話に花が咲く間柄の方々ばかりである。

常連さんがいることで、多くのシーシャ屋にとって重要な要素である会話が生まれ、それが一見さんやリピートの方々にも波及する。
シーシャ屋が、家でも職場でもない、第3の居場所として機能する所以である。

ある日のばんびえん馬場本店。常連さん、一見さん、リピートさんなど様々な人々で賑わう。

2020年に始まった新型コロナウィルスの流行で、シーシャ屋は長く暗い日々を過ごした。時短営業で客足も遠のき、補助金と借入金でなんとか首の皮を繋いだ。そんな中でも、一部の常連さんが足繁く通ってくれたことで、経営的にも、何より気持ちの面で本当に助けられたというお店は多いだろう。

かように常連さんとは、シーシャ屋にとってかけがえのない存在である。店員にとっても、会話に付き合ってくださる常連さんは本当にありがたい。
一方で、そんな店員と常連さんの会話が度を越してしまうと一転、人によっては居心地が悪い空間が生まれてしまうこともある。

アットホームと紙一重の「身内ノリ」

常連さんを中心として会話に花が咲く空間は、よく言えばアットホームであるが、いわゆる「身内ノリ」と紙一重の危ういものでもある。
シーシャ屋は、特に個人経営の店舗について、店内が狭めで、お客さん同士の物理的な距離が近いことが多い。そのような状況で、店員が常連さんとの会話に終始し、一見さんやリピートさんそっちのけになってしまえば、居心地が悪くなるのは当然だろう。

冒頭に述べたスナックの入りづらさも、ここに起因するのではないか。そのお店の実態がどうであれ、店員さんと顔見知りのお客さんしかいないことが予想される状況で、初めてお店の暖簾をくぐるのは勇気がいることであろう。
いざ入店できたとして、店員が常連とばかり話していては、間違っても「また来たい」とは思わない。

シーシャ屋の中には、店内のレイアウトを工夫し、常連さんとそれ以外で座る位置を大まかに区切っているお店さんも多い。
これは居心地の悪さを軽減するという意味では有意義だが、それでも店員が常連さんへの接客に終始しているようでは、それ以外のお客さんにとっては面白くない。
無理に話しかけられることを望んでいなかったとしても、シーシャ屋にとって最重要とも言える炭替えを全うしたり、その他お客さんの困りごとに気づくためには、店員は店内のお客さん全員に均等に注意を払わなければならない

常連さんに対して、心からの感謝を示すとともに、会話を楽しむことは店員にとって当たり前の行動である。しかし、それ以外のお客さんも含め、誰も置き去りにすべきではない。
シーシャ屋店員のあるべき姿とは何か。

誰にとっても居心地の良い空間を作るために

シーシャ屋を誰にとっても居心地の良い空間にするために、店員が行うべきことは大きく2つあると思う。それは、①会話のコントロールと、②一見さん・リピートさんへの声かけである。

①会話のコントロール

常連さんとの会話は、シーシャ屋にとっても至高の瞬間の1つであり、常連さんもそれを楽しみにご来店くださる方は多い。しかし、それが他のお客さんにとって不快の原因にもなりうることは先に述べたとおりである。
ここで店員が行うべきは、会話のコントロールである。

具体的には、以下の3つの要素が内包される。

(1) 会話の大きさのコントロール
(2) 会話の動線のコントロール
(3) 会話の範囲のコントロール

(1)の会話の大きさとは、端的に言えば会話のボリュームやテンションのことである。いくら面白い会話であったとしても、他人からすれば騒音としか思えないようなバカ騒ぎは不快でしかない。

話を振ってくれている常連さんへの敬意を払いながら、もし度を越すほどの騒がしさになってしまった場合は、フランクに「少しだけボリューム落としましょう」と店員が率先して声かけを行う必要がある。

店内の会話のイメージ。左のソファ席(オレンジ)と右のソファ席(青)それぞれで会話が弾んでいるが、オレンジの会話のボリュームが大きすぎる。
声かけによって左のオレンジのボリュームが適正化された。

(2)の会話の動線とは、会話をしている人同士の位置関係のことである。
例えば、電車の座席をイメージしてほしい。なかなかない状況だとは思うが、自分を真ん中にして、自分とは全く関わりのない友人2人が、自分を挟み込むようにして座っているとしよう。そしてその2人が、まるで自分はいないかのように、あるいはただの障害物であるかのように、会話をし始めたらどう思うだろうか。ちょっとした拷問のように感じると思う。

シーシャ屋でも、自分の座席を挟み込むようにして、常連さん同士や、店員と常連さんが会話を始めたら、気持ちの良いものではないだろう。
常連さん同士に関しては、席の配置状仕方ない場合も多いかもしれないが、お客さんを通す座席を工夫することである程度対応できる。店員も常連さんと会話をする際に、関係のない誰かを挟み込むように会話しないよう、位置取りに注意すべきだろう。

ソファ席奥側とカウンター(青い円)、ソファ席手前(オレンジの円)それぞれで会話が進む。
会話の導線が悪く、青い円がオレンジの円を挟み込む形になっている。
声かけによってソファ席の座る位置を入れ替えた。
オレンジの円は会話に挟まれずに済み、青い円も距離が近づいて話しやすくなった。

(3)の会話の範囲とは、その会話に参加しているのが誰か、ということである。
ある会話に対して、自分もその会話に参加している、つまり会話の範囲に含まれている場合、会話の内容そのものが不愉快でない限り、気分を害することはないだろう(他のことに集中したい場合は別として)。

目の前の一見さんやリピートさんが、少しでも会話に反応を示したり、笑いを噛み殺しているような素振りが見えたら、圧がかからないように気をつけつつ、話を振ってみるといいだろう。もしお客さん側が乗り気であれば、会話の範囲に入って来てくれる。運が良ければ、初めましてのお客さん同士が仲良くなるきっかけにもなりうる。ピンチはチャンスなのである。

左のソファ席(青い円)が話している。近くのカウンターのお客さん(オレンジ)は別卓。
共通の話題が見つかり、カウンターのお客さんも青い円に合流した。

これ以外にも、会話の内容そのものにもある程度気を配る必要がある。
過度に潔癖症になる必要はないだろうが、誰が聞いても不快になるような話題や、極端に特定の人や集団を貶める会話は控えるべきである。
会話に参加している人が楽しんでいるかどうかだけでなく、それを耳にしている他の人が不快な気分になっていないかどうか、お客さんはともかく店員側は常に気を配るべきだろう。

②一見さん・リピートさんへの声かけ

上記①は、常連さんとの会話やお客さん同士の会話を、盛り下げることなくその悪い部分を抑制しようというアプローチであった。
一方②は、一見さん・リピートさんにシーシャ屋での時間をより心地よく過ごしていただくための、ゼロをプラスにするアプローチである。

一見さん・リピートさんに対して声かけを行う目的は大きく2つある。

(1) お客さんが意見を言いやすい雰囲気作り
(2) 会話を楽しむきっかけ作り

(1)のお客さんが意見を言いやすい雰囲気作りとは、例えば煙の強さに関する好みであったり、店内が寒い・暑いなどの環境に関するお願い事を店員に伝えやすくすることである。

シーシャという喫煙具は、お客さんに依存する部分が大きい代物である。
味の好みにせよ、煙の強さの好みにせよ、最終的な正解を決めるのは全てお客さんである。店員はその好みに合わせたシーシャを作る必要があり、そのためにはお客さんの声が欠かせない。
優しいお客さんほど、好みと外れたシーシャを出してしまっても、それを言わないことが多い。その結果、店員はそれに気づくことができず、そのお客さんがリピートするきっかけを逃してしまう。

常連さんのように信頼関係がきちんと出来上がるまでは、とりわけ徹底してお客さんの声を引き出すことが重要であり、そのためには店員側が「なんでも言ってくださいね」という声かけを行うことが必要不可欠である。

(2)の会話を楽しむきっかけ作りとは、シーシャ屋の魅力の1つである会話が弾むようにすることである。
これはもちろん、お客さんの好みや目的にもよる。黙々と作業に勤しみたい人もいれば、スイッチを完全にオフにして自分の世界に入りたいお客さんも多い。しかし、最初の声かけがなければ、そのお客さんが求めるシーシャ屋での過ごし方も見えてこない。

過度にお客さんの時間を奪うことなく、炭替えのタイミングなどでお客さんに緩く話しかけ、お客さんが会話に乗り気であれば話を膨らませる。
この繰り返しによって、例えば入店してしばらくは黙々とパソコン作業に勤しんでいたお客さんが、ふとした瞬間に顔を上げ、お客さんの方から話を振ってくださる場合も多い。

重要なのは、「お望みであれば一緒にお話しさせてください」というメッセージを店員側が発信することであり、そこに乗ってくるかどうかを決めるのはお客さんである。
これをせずに常連さんとばかり話していては、いつまでも会話の範囲が店員と常連さんの間で完結してしまい、本当は誰かと会話をしたいと思っているお客さんにまで疎外感を与えてしまうことになる。

全員に開かれた場所としてのシーシャ屋

以上、筆者が思うシーシャ屋の居心地の良さと、それを実現するために店員が心がけるべきことについて、私見を述べた。

シーシャ屋は、誰にとっても開かれた場所であるべきだと思う。全ての常連さんは、ある時一見さんとしてお店を訪れてくれた方であり、リピートさんであった方である。
一見さん・リピートさんにとっても居心地の良い空間を提供できてこそ、初めて常連さんを多数抱える、誰かの居場所としてのシーシャ屋が完成する。

シーシャという美味しく、少し不思議で、本当に面白い代物をハブとして、そんな暖かい空間が日本中に増えていくことを強く願っている。
駆け出しのシーシャ屋店員である筆者も、全員に開かれた居心地が良い空間を形作れるよう、微力ながら尽力していく所存である。


【シーシャ屋ばんびえん】
高田馬場と中野に計3店舗を構えるシーシャカフェ。
毎日14:00-24:00で営業。

【つー@ばんびえん / Daiki Tsukamoto】
シーシャ屋ばんびえんスタッフ。
「知って楽しい、真似して便利」をコンセプトとした #シーシャ雑学 をTwitterで発信中。

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