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【シーシャ雑学】ミックスの考え方

「シーシャのミックスってどうやればいいんだろう?」
「美味しいミックスが思いつかない」

シーシャ屋でオーダーするとき、シーシャを自分で作るとき、こんな疑問にぶち当たった経験はないだろうか。
今回は、筆者が実際にシーシャ屋として働く際に使っているミックスの考え方について、7つのポイントに分けて解説する。

全体像

さっそくポイントを解説する前に、まずはシーシャのミックスの全体像を概観する。シーシャのミックス工程は、大きく3つに分けられる。

(1) 何を
(2) どのくらい
(3) どうやって

の3工程である。この3つの掛け算によって、どんなシーシャが出来上がるかが決まる。

ミックスの全体像

(1) 何を

これは端的に、「どのフレーバーを使うか」、を選ぶ工程である。
どんなシーシャを作りたいかをイメージしながら逆算したり、あるいは使いたいフレーバーを決めてそこに合うフレーバーを検討しながら、役者を選んでいく。

(2) どのくらい

(1)の工程で選んだフレーバーを、それぞれ「どのくらいの割合にするか」、を決める工程である。
各フレーバーの味の強弱を踏まえて、それぞれの分量を決めていく。

(3) どのように

最後に、「どんな盛り方をするか」、を決める工程である。
同じフレーバーを同じ分量でミックスしても、盛り方によって味の出方が変わる。最終形をイメージしながら、各フレーバーの特性も考慮して、ボウルに盛っていく。

上記の全体像を踏まえ、ミックスする際に重要な7つのポイントを解説する。

①味の強弱

ミックスで1つ重要なのは、「量の比率」と「味の比率」は異なるということ。

シーシャ屋としてお客さんから「ローズとレモンを半々で!」とオーダーされたとして、そのまま量の比率5:5で混ぜると、吸ったときに感じる味の比率は8:2くらいになってしまう。
ヒアリングの過程で、それが量の比率なのか、吸ったときの味の比率なのかを確認しないと、「レモン全然感じないんですけど…」という気まずい空気になってしまう。

味の強弱

上の画像は、フレーバーごとの味の強弱を図示したものである。
左側に位置するフレーバーは味が強く、同程度の強さを持つフレーバーと混ぜない限り、他のフレーバーを呑み込んでしまう。ローズ、グレープの他に、アールグレイやダブルアップルもここに分類される。反対に右側に位置するフレーバーは味が淡く、ある程度の分量を入れないと呑み込まれてしまう。

フレーバーをミックスする際は、出したい味の比率から、味の強弱を踏まえて補正を加えることで、適正な量の比率を割り出すことが重要である。

②甘さのグラデーション

フレーバーは以下の3種類に大別できる。

(1) お菓子甘い
(2) フルーツ甘い
(3) フルーツさっぱり

この他にも、お茶系やスパイス系などに分類されるものもあるが、簡単のために今回は割愛する。
以上の3種類は、甘さの度合いでグラデーションを形成している。その関係性を下記に図示した。

甘さのグラデーション(ブロンドリーフ)
甘さのグラデーション(ダークリーフ)

このグラデーションは、簡易的ではあるが多くのフレーバー、ひいてはミックス後のシーシャの味を説明できる。
それぞれの中にもさらに細かいグラデーションがあり、例えばお菓子甘いでもSocial Smoke ドルセ・デ•レチェ(キャラメル)などはドロ甘、Oduman Blend LTS(シナモン風味のクッキー)などはほんのり甘いに分類できる。

上記は、味のゴールを決める際の取っ掛かりとして、非常に有用な分類であると思う。
シーシャ屋でオーダーをとる際にも、悩んでいるお客さんに対して上記3つの選択肢を示し、そこを起点に調整を加えていく、というのは実践的なテクニックである。

③合う / 合わない

フレーバー同士が合う、とはどういうことだろうか。
筆者の個人的な見解だが、「合う」には以下の2類型があると思う。

(1) 似た系統型
(2) アクセント型

(1)の「似た系統型」とは、味の方向性が似通ったフレーバーの組み合わせである。
例えば、リンゴと梨は植物として近く、味の方向性も似ている。このようなフレーバー同士は、互いの差異が少ないため、混ぜ合わせても違和感のない味が出来上がることが多い。
この他にも、ベリー系、柑橘系、花系、スパイス系など、「○○系」と呼称されるような、似通った味のフレーバーのグループ分けが可能である。

(2)の「アクセント型」とは、味の方向性が異なるフレーバーが互いに引き立て合うような組み合わせである。(1)とは真逆の関係性であり、例えばリンゴとシナモンのミックスは、リンゴの瑞々しい甘さにシナモンの風味が加わることで、フルーツを使ったお菓子のような味に仕上がる。
注意点として、アクセント型は配分に左右されやすい組み合わせであり、メインで出したい味を決めてミックスをしないと、まとまりのない味が出来上がってしまう。

合うの2類型: 似た系統型とアクセント型

似た系統型とアクセント型を組み合わせることで、ミックスの幅を広げることができる。上記の画像は、2類型の関係性を示したものである。

似た系統型に分類されるフレーバー同士は味が似通っているため、互いに置き換えが可能である。例として、リンゴ(A)と梨(A’)、シナモン(B)とジンジャー(B’)を挙げる。
ここで、アクセント型の組み合わせとしてリンゴ(A)とシナモン(B)を考える。似た系統型は置き換えても美味しいミックスに仕上がることが多いため、これだけで以下の6種類のミックスが考えられる。

・リンゴ(A) × 梨(A’)
・シナモン(B) × ジンジャー(B’)
・リンゴ(A) × シナモン(B)
・リンゴ(A) × ジンジャー(B’)
・梨(A’) × シナモン(B)
・梨(A’) × ジンジャー(B’)

このように推測を広げることで、ミックスのバリエーションは飛躍的に向上する。

④アイデアの源泉

ミックスアイデアを考える際のアプローチには、大きく以下の2つのアプローチが存在する

(1) 帰納アプローチ … ゴールから考える
(2) 演繹アプローチ … 材料から考える

(1)の帰納アプローチとは、実在する食べ物、飲み物、香水などをモチーフにゴールを設定し、それを分解していく方法である。
例えば、スターバックスの「キャラメルフラペチーノ」は、キャラメル×カプチーノ×クリームに分解できる。

(2)の演繹アプローチとは、(1)とは反対に、材料から組み立ていく方法である。
やや突飛な方法として、思いついたフレーバーを並べて同時に嗅ぐことで、思わぬ新発見があったりする。

アイデアの源泉: 帰納と演繹

2つのアプローチの具体例と特徴を上記画像にまとめた。
帰納アプローチの特徴は、なんといっても味のイメージがしやすいことであり、万人受けの味が生まれやすい。SNSなど文字や画像でしか表現できないシーンでも、一目で美味しさが伝わるミックスが多いのは強みである。
一方演繹アプローチの特徴は、シーシャでしか味わえない独創的な味が生まれやすいことにある。もちろん王道の組み合わせも生み出せるが、斬新な組み合わせは演繹アプローチならではの強みである。

③で説明した「合うの2類型」も、この帰納アプローチと演繹アプローチで捉え直すことができる。
アクセント型の例として挙げたアップル × シナモンの組み合わせは、アップルパイなどから帰納アプローチで導出したものである。
ここに、似た系統型のフレーバー同士は置き換え可能という演繹的な考え方を組み合わせることで、梨 × シナモンなどの少し珍しい組み合わせを導出できる。

⑤盛り方

同じフレーバー、同じ配分でも、盛り方によって味の出方は変わってくる。代表的な盛り方は以下の3種類である。

(1) セパレート
(2) ミルフィーユ
(3) ごちゃまぜ

それぞれのイメージ、味の出方、利用シーンを下記画像に図示した。

盛り方の3種類

(1) セパレート
カレーライスのルーとご飯のように、異なるフレーバーを横方向に分けて配置する。
フレーバー1つ1つの味がハッキリ出る盛り方。例えば、レモン×ピーチ×ミントのミックスなら、それぞれが完全には溶け合わず、レモン、ピーチ、ミントそれぞれの味を認識しやすい。
利用シーンとしては、シンプルなミックスのときが挙げられる。その他、フレーバーの位置が分かれているため、炭を置く位置によって味を変えられる場合がある(難易度は高め)。

(2) ミルフィーユ
ミルフィーユ生地のように、フレーバーを縦方向に分け、層のように配置する。
時間経過で味が変わる盛り方。初めは熱源に近い上のフレーバーの味が強く出るが、徐々に熱が下のフレーバーにも伝わっていく。
利用シーンとしては、熱耐性が低いフレーバー(ミントやお菓子甘い系のフレーバーなど)や、意図的に後から出したい味を下に潜らせる場合が挙げられる。

(3) ごちゃまぜ
文字通り、フレーバーを分けずにごちゃまぜにする。
それぞれのフレーバーが溶け合い、まとまりのある味になる盛り方。
利用シーンとしては、個々のフレーバーの主張を抑えたい再現ミックスや、シーシャにしかない味を作る場合が挙げられる。

上記3種類の盛り方が基本だが、それぞれを組み合わせて使うことも可能である。
左右でセパレートし、左側には2種類のフレーバーをごちゃまぜで盛り、右側には別の2種類のフレーバーをミルフィーユで盛るなどのやり方がある。

⑥3つの方向性

これも個人的見解で恐縮だが、シーシャのミックスには、大きく3つの方向性があるように思う。

(1) シンプル王道
(2) 再現系
(3) シーシャでしか作れない味

それぞれの特徴、注意点、ミックス例を下記画像に図示した。

ミックスの3つの方向性

(1) シンプル王道
突飛な組み合わせを避け、シンプルにまとめるやり方。個々のフレーバーの味をかなり残し、イメージしやすいのが特徴である。
注意点として、ありきたりな味になりやすいこと、シンプルゆえにごまかしが利かないことがある。
ミックス例として、レモン×カルダモン×ミントなどが挙げられる。

(2) 再現系
食べ物や飲み物、香水などを再現するやり方。
注意点として、「美味しいかどうか」よりも先に、「どれだけ似ているか」で評価されがちなことがある。
ミックス例として、キャラメル×クリーム×カプチーノで、スターバックスのキャラメルフラペチーノを再現したミックスなどが挙げられる。

(3) シーシャでしか作れない味
先入観を排除してフレーバーを純粋に味として捉え、シーシャならではの味を作るやり方。
注意点として、個々のフレーバーの主張が抑えられた結果味がぼやけることがあること、やや人を選ぶミックスになりやすいことがある。
ミックス例として、ピスタチオ×メロン×グアバ×アールグレイ(※)などが挙げられる。フルーツの甘味とお菓子の甘味がアールグレイと溶け合い、甘いスパイスのような風味になる。

※このミックスは、新宿歌舞伎町にあるShisha Alchemist店長の大地くんからアイデアを頂いた。

以上の3パターンと、甘い系/さっぱり系/スパイス系など味の方向性をかけ合わせると、作り手の好みや個性が分かる。
ミックスをする際に、テーマとしていずれかの方向性を意識してみると、ミックスのゴールが明確になったり、幅が広がったりするかもしれない。

⑦ミントの種類と配分

ミックスをする際悩むポイントの1つが、ミントの扱いである。
ミントはメーカー各社が出している定番フレーバーであり、その味は多様である。さらに、多く入れすぎると清涼感が強すぎて吸えなかったり、逆に少なすぎるとほとんど感じられなかったりと、塩梅が難しい。
そこで、各社ミントの味の分布と、使う際の目安量を以下に述べる。

(1) 各社ミントの味の分布
以下の画像は、代表的なミントフレーバーの味を風味と清涼感の2軸で整理し、マッピングしたものである。上に行くほどミントの草っぽい風味が強く、右に行くほどスースーした清涼感が強くなる。

各社ミントの味の分布

大まかな傾向として、Al FakherやAl Wahaなど中東系のミントは風味が強く、Azure、Pure Tobacco、Trifectaなどアメリカ系のミントは清涼感が強い傾向にある。ミントの風味が好きな人は前者、メンソールのような清涼感が好きな人は後者の中から選ぶと間違いが少ないだろう。
なお、Azureのアラスカンアイスなど俗にアイス系と呼ばれるフレーバーは、それ自体には風味がほとんどなく、アイスのようなひんやり感を出してくれる。

(2) 各社ミントを使う際の目安量
以下の画像は、各社ミントを使う際の目安量を、
・強め
・中間
・弱め
の3段階でまとめたものである。
フレーバーの量はトータルで10~11g程度盛ることを想定している。

各社ミントを使う際の目安量

ミントの分量に関しては、正直他のフレーバー以上に主観によるところが大きいのであくまで目安だが、大きく外れることはないと思う。お客さんに提供することを考えた際、筆者が働くシーシャ屋ばんびえんのスタッフ間でも概ねコンセンサスが取れる数値を記してある。
初めて使う場合、まずは上記の「弱め」〜「中間」程度のグラム数で盛り、そこから自分の好みに合わせて調整するとよいだろう。

結びに代えて

以上、シーシャをミックスする際のポイントを7つに分けて解説した。各項目は重複する部分もあるが、それぞれ別の切り口から、現状筆者が自信を持って解説できる要素を言語化している。
自分でシーシャをミックスする際、あるいはシーシャ屋でオーダーする際、少しでもヒントになる部分があれば幸いである。


【シーシャ屋ばんびえん】
高田馬場と中野に計3店舗を構えるシーシャカフェ。
毎日14:00-24:00で営業。


【つー@ばんびえん / Daiki Tsukamoto】
シーシャ屋ばんびえんスタッフ。
「知って楽しい、真似して便利」をコンセプトとした #シーシャ雑学 をTwitterで発信中。

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