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古典落語:駿府城の悲劇

12月1日季節外れの陽気だった。
水分を含まない乾燥した空気と
暖かみのある日差しが印象的だった。


駿府城公園の中心で
彼女と横並びでベンチに座る。
周りには保育園に通っているであろう子どもが、
長袖一枚で鬼ごっこをしていた。


木々も枯れすっかり冬の景色だが、
日曜の昼下がりという
長閑で幸せな空間が広がっていた。


僕が座るベンチを除いて。


もう知っていた。
理解はしていた。
その言葉が紡がれることに。


冷徹で残酷な言葉だけど
それを受け取るには要素が十分すぎた。


時は1週間前に遡る


東京駅の丸の内口
煌びやかなイルミネーションに彩られた広場で
突然言い渡された。

22時12分という
終電の新幹線に乗る10分前だった。

「別れない?」

その一言は
クリスマスムード漂う東京駅を灰色に染めた。

風邪気味で取材していたこともあり
声が全く出なくなっていた僕だったが、
掠れる音を喉元から絞り出す。


「…理由を聴いてもいい?」


雑談ですがフラれる前のツイート

(なんでこんなツイートしてんだよふざけんな)

閑話休題


そんなことがあったものだから
駿府城公園で言われることは明白だった。
殺害予告をされ、
殺害現場に自ら赴いているようなものだった。


その日まで忙しかった駅伝実況を遂行するために
必死に忘れていた。
掠れた声を取り戻すために点滴も2回打った。
各市町が想いを繋ぐ中で
中途半端はしたくなかったからだ。


しかし、そこまでしてやり遂げたあとに
一番残酷な現実を
受け入れなければいけなかった。


僕はタスキを繋ぐことができなかった。


「別れよう」
同じトーンで放たれた言葉が右耳に入る。


分かりきっていたことなのに
動揺は隠せなかった。


でも最後までカッコよくは見られたかった。
ダサいことはしたくなかった。


だから精一杯の強がりで、
彼女の首元が寒そうだったので、
身につけていたマフラーを彼女に巻いた。

そして一言
「ありがとう付き合ってくれて」


それからは振り返らずに逃げるように
駿府城を飛び出した。
子どもたちの笑い声が
背中に張り付くように聞こえてきた。


もちろん詳細は省くし、書けないこともある。

ただそれをラジオでYouTubeで公開し、
いつからか「駿府城の悲劇」と
ごく一部から言われるようになった
このエピソードを物語調で書き起こした。

駿府城公園にこの小説ごと埋葬します。


ちなみにこの話を
アルコ&ピースの酒井さんに話したら
「クソダサい」って言われました(;_;)


駿府城より愛を込めて。


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