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なぜ芸術は爆発なのか?迷っている背中を蹴トバス岡本太郎の言葉が詰まった『自分の中に毒を持て』

「人生は積み重ねが全て」。ある本に出会うまで私はそう考えていた。

石の上にも三年、継続は力なり、雨垂れ石を穿つ……などなど、積み重ねることの重要性を謳った慣用句が多いことから、似たように考えている方も少なくないだろう。

そんな人に読んでみてほしいのが『自分の中に毒を持てーあなたは“常識人間”を捨てられるか
(岡本太郎)』だ。大阪万博の『太陽の塔』や、渋谷駅の巨大壁画『明日の神話』など、現在においても実際に作品を目にする機会の多い芸術家・岡本太郎のエッセイである。

『明日の神話』渋谷駅にて

本書の中には、岡本太郎に関すること、芸術に関することなどが書かれているが、全体を通してヒシヒシと伝わってくるのは、「人間はどう生きるべきか?」という問いに対する岡本太郎の想いだ。

人生は積み重ねだと誰でも思っているようだ。
ぼくは逆に、積み減らすべきだと思う。
(本文より引用)

冒頭からこれである。「積み重ねこそ人生」と考えていた私にとっては、冷や水を浴びせられたような衝撃だった。そして、積み"減らす"とは……?と疑問が頭に渦巻いたのを覚えている。

財産も知識も、蓄えれば蓄えるほど、かえって人間は自在さを失ってしまう。過去の蓄積にこだわると、いつの間にか堆積物に埋もれて身動きができなくなる。
人生に挑み、本当に生きるには、瞬間瞬間に新しく生まれかわって運命をひらくのだ。それには心身ともに無一物、無条件でなければならない。捨てれば捨てるほど、いのちは分厚く、純粋に膨らんでくる。
今までの自分なんか、蹴トバシてやる。そのつもりで、ちょうどいい。
(本文より引用)

ちょうどこの本に出会った時、私は転職をしようかと迷っていた。当時はサービス業に従事しており、仕事内容や職場環境は悪くなく、むしろ好きな部分もあった。ただ、自分の中にモヤモヤした何かがあり、決断しきれずにいた頃だった。

いまから振り返ってみれば、「自分らしさ」みたいなものの正体がわからずモヤモヤしていたのだと思う。それまでは、自分らしさ=積み重ねてきたもの、という考えに囚われていたのかもしれない。例えば、大学時代に努力したことや、ホテルで働いている中で得たスキルだとか。

そういったものを取り払って「いま、やりたいこと」と向き合えるようになれたのだから、その時にこの本と出会えたのは、本当に幸運だったと思っている。

たしかに「積み重ね」は、人生における物差しになりうる。ただ、場合によっては、それがある種の制限や縛りになってしまうことは忘れないようにしたい。岡本太郎のように、サッパリとは生きられないかもしれない。だが時々は「積み減らす」ことを意識してみるのもいいのではないだろうか。

そして、リアルタイムで彼の活躍を見ている世代にとっては、岡本太郎といえば「芸術は爆発だ」という発言が最も知られるところだろう。これは、1986年のテレビCMで使われた言葉で、その年の「新語・流行語大賞」を受賞したほどのひとことである。

ただ、その「爆発」という言葉の本当の意味が誤解されたまま一般に広まったことは、あまり知られていない。彼の言う「爆発」というのは一般的なイメージの爆発とはかなり違うものを指しているのだ。

ぼくの気ままに言った言葉。それが妙に一般の人気を得て、ついには新語・流行語大賞までもらってしまった。今ではバクハツが勝手にひとり歩きしているようだ。その賑やかな使われ方には、いささかびっくりしている。
ところで一般に「爆発」というと、ドカンと大きな音が響いて、物が飛び散り、周囲を破壊して、人々を血みどろにさせたり、イメージは不吉でおどろおどろしい。が、私のいう「爆発」はまったく違う。音もしない。物も飛び散らない。
全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと。それが「爆発」だ。人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちの本当のあり方だ。
(本文より引用)

一般的には、「岡本太郎は天才だから爆発みたいなひらめきであんなすごい作品を生み出せたんだな!」といった論調や、「爆発みたいに人に衝撃を与える、それが芸術ってことか」といった理解をされがちだが、そうではない。彼にとっての「爆発」は「生き方」なのだ。

わかりやすくいうとすれば、ここでの「爆発」は「いま、この瞬間に死に物狂いでベストを尽くす」ということなのかな、と私は考えているが、あなたはどう思うだろうか?

最後に、私が悩んでいた「自分らしさ」に対しても、彼らしい潔い言葉が記されていたので、紹介したい。

自分らしくある必要はない。むしろ、人間らしく生きる道を考えてほしい。
自分に忠実と称して狭い枠のなかに自分を守って、カッコよく生きようとするのは自分自身に甘えているにすぎない。
(本文より引用)

『挑む』岡本太郎記念館にて


何かに迷ったとき、どう生きたらいいかわからなくなったとき、岡本太郎の言葉はあなたを動かす。そっと背中を押す……のではなく、後ろから蹴飛ばされるかもしれないが、そんな力を秘めている。


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