ネタ未満「ルール」

ネタ帳に書いてたけど、1本のネタに仕切れなかったのでお話にして成仏させます。
そうそれがネタ未満


ある昼下がりの事、外回りで沢山歩いた足には疲労が溜まり、それは空腹となって彼を襲った。

「はぁーお腹空いたなぁ、、あ、もう13:00じゃん、昼飯何処かで食べたいな、、どっか丁度いい店は、、、あ、ここ良さそうだな。」

街角にひっそりと佇むお食事処と書かれた暖簾と、外へ漏れてきた魚を焼いている煙が鼻をくすぐる。

「んー定食かぁ、間違いないよなぁ、ここにしよ!」

香った煙が決定打となり彼は暖簾をくぐった。

「うわぁーたまらん!」店の中に入ると、より一層いい香りが立ち込めていた。
味噌や醤油、先程の魚だろうか、香ばしい匂いはより鼻を惑わす小悪魔となった。


「いらっしゃませ~」頭巾に白割烹着姿のおばあさんが迎えてくれた。

「あ、1人です」

「あい、こちらへどうぞぉ」

ゆらりとした声で席まで案内してもらい、着席すると、おばあさんが水と品書きをすぐ様テーブルに置いた。

「お決まりになりましたらぁ呼んでくださいねぇ」

「あ、はぁい」

随分と優しい声だからか、こちらもそのリズムが移ってしまった。

「おっとっと、ついつられちゃったな。ははっ。さて、何があるかなーっと」

空腹で注意力散漫になった人間はそこそこの独り言が気にならなくなる。

「お!サバ定食か!焼きサバに、お麩の味噌汁とご飯と漬物、、今はこれだ!これが食べたいんだ俺は!」

知ったこっちゃないが一応決まったみたいだ。先程のおばあさんを呼んだ。

「すいませんー!」

「あいーサバ定ですねぇ」

「え!?なんで!?」

あれだけ大きい声なら無理もなかった。

注文が届き、後は出来上がるのを待つだけだった。携帯でも見ようかと思ったが、せっかくの飯の時間だ、仕事のメールを見返すのは食欲を減退させてしまう。彼はただ純粋に待つことにした。

「そう言えば、空腹でボーッとしていたのもあってあまり周りが見えていなかったけど、結構繁盛してるんだな」

後から後からお客さんが入ってくる。
そして、あっという間に席は埋まり、とても賑やかで活気のある店に変わった。

その後も店を尋ねて来る人もいたが、生憎の満席だ。おばあさんは少し残念そうな顔をして、「ごめんねぇ、でも多分すぐ空くと思うからぁ」とこちらをチラッと見ながら断っていた。

「ん?なんだろ、今ばあさんこっち見てたよな?」

それにもう1つ気づいたことがあった、店内には将棋の駒や扇子、色んな人のサインが飾ってあった。
「あれ?そう言えばテレビもずっと将棋の対局を流してるな」

そう、店内は将棋関連のものに囲まれていた。
きっと、店主が将棋好きなんだろうなぁとぼんやり考えていると、あの優しい声が聞こえた。
「あい~お待たせしましたぁ。サバ定食ですぅ。」
「あ!きたきた!ありがとうございます」

いよいよご馳走にありつける時が来た。

「俺はこの為にひたすら歩き回って、先方様に頭下げてきたんだっ。」

勝手にそんな設定を付けてこの食事を盛り上げる。

「いただきます!」
勢い良くそう発するも慌ててはいけない。
「ふっ、先ずは味噌汁からと。」

いくらとても空腹とはいえ、いきなりメインの焼きサバに手を付けるほど愚かではない。

先ずは汁物で口~食道~胃袋を慣らす所から始める。
そして、至福の通り道をしっかり準備終わらせた所でメインだ。
その方が喉に詰まったり、胃がビックリしてしゃっくりしたりなんてヘマもしない。
せっかくの食事なんだ。少しの損もしたくない。

自分で気持ちを徐々に高めながら汁椀に口をつける。
ズズッ……「うわぁっ!うまい!」
空腹でより味噌の香りと旨みが身体に充満していく。
「お!しかも具はお麩のみか!くぅ、この潔さ憎いなぁ!」
少しくたっとなっているお麩を1つ口に放り込む。
「んー美味い味噌汁たっぷり吸ったお麩はたまんないなぁ!ジュワーっと口の中に拡がる感じが最高だ!」

間髪入れずに2つ目のお麩を口に放り込む。
その瞬間、店内をピンと張り詰めた空気が走った。
「ん?なんだこの雰囲気、、えっ?なんで!?」

何故か店内に居た客全員が彼を見て溜息をついている。
中には「あ~あ」「何してんだよ」とか呆れた声も聞こえてくる。

「えっ!?えっ!?なんで!?俺何かした!?えっ!?」
理解出来ない状況にどうしたらいいかわからず狼狽える彼の元にあのおばあさんがヨタヨタと近づいてきた。

「あ!あの!?これど、どうしたんですか!?僕何かしたんですか!?」

「お兄さぁん、あんたぁ、お麩食べたでしょお、、」

「えっ!?お麩!?は、はい、そりゃあ食べるでしょ!それの何が問題なんですか!」

「いやぁ、あんねぇ、お麩自体を食べるのはぁ、問題じゃなかったのよぉ、ただねぇ…」

「あんたぁー!連続で2つお麩食べたろー!ダメだよー!それは禁じ手だろー!?」

厨房の奥から大声が聞こえてきた。どうやらここの店主が彼に向かって伝えたようだ。

「え!?いや、どう食べようがこちらの勝手じゃないですか!?なんで連続で2つ食べるのがダメなんですか!?言いがかりつけないでくださいよ!」

「あのよぉ、うちはさぁ、お麩連続で食べちゃったらもう反則なのよ。2麩(にふ)になるからよ」

「何言ってるか分からないんですけど……にふ?」

「将棋であるだろ、歩の駒縦に2つ置いちゃダメなルールが。あれだよ。俺もよぉ、将棋好きだから、それをうちの店でも採用したのよ。お麩2つ連続で食べたら2麩で反則。即退店だ。」

「えっ!!!?!?退店!?は!?いや、まだ味噌汁にしか手つけてないんですよ!?」

「すいませんねぇ、決まりなもんでぇ」
おばあさんがすかさず定食を下げ始める。

「早っ。もう流し場に。え!?ほんとに!?」

「あぁ、反則したんだからしょうがない。次は正々堂々とルールを守って食事するんだな。さっ、今日は帰った帰った!」

「えっ!?えぇー、、」
動揺している間に外に出てしまった彼は先程断られていた2人組の男が店に入ってくのを見た。

「あ、さっきの。そうか、ばあさんだからすぐ空くって、、えー、、」
プルルルルルル!
「あ!やばい、会社戻んないとだ!はい!すみません!今戻ります!」

また1つ勉強になった、空腹で飲む味噌汁の美味しさたるや、とんでもない事。

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