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死に至る生を恐れているの

2011年3月
今でも強烈に、はっきりとその光景を覚えている。
当時小学5年生。
小学校もほとんど終わりに差し掛かり、その日は部活動も無く至って普通の日だった。先生達はそこはかとなく焦っていたように今では思う。
いつものように夕暮れが綺麗な田んぼ道を通って家に帰った。
公園で遊ぶ約束で頭いっぱいの私は、投げるようにランドセルを置いてすぐに玄関を出ようとした。
「だいきちょっと来なさい。これ見なさい。」
きっとあの時だけだったかもしれない。
叱られるわけでも、機嫌が悪いわけでもない。にも関わらず、ただ強く。
「ここどこ?」
「東北だって。」
何も言えず、ただ津波が数多を飲み込んでいくのを見ることしかできなかった。しばらく画面の前に立ち尽くし、そこからの記憶はぼやけている。

祈りというものを初めて理解したのは、きっとその時だったと思う。それまでお祈りといえば神に願いを乞うものだと思ってた。なんとなく。親や祖父母がそうしていたから。
でも自分の中での祈りは多分少し違う。自分にできることはやりたい、少しでも役に立てるようにって。少しでも多くの人が救われますようにって。当時テレビ越しに、ただ祈ってた。決意に似た祈りだったと思う。自分ができることは限られているから。結局、募金することくらいしかできなかったけれど。

2018年1月
大学入試、当時のセンター試験で失敗した。高校3年生の4月から結構本気で大学受験に臨んでいた。偏差値30台の人間が国立大学を目指すって状況だったから、新学校に通う知り合いとかにはかなり馬鹿にされた。結構好き放題言われたし、正直ムカついてた。でも実際、実力が伴っていなかったから何も言い返せなかった。言い返したくもなかった。そんなこともあってこれまでに経験したこと無いくらい頑張った。休日は14時間くらい勉強してたのは、今でも自分で偉いと思う。金銭的にも余裕なくて、絶対に落ちたくなかったけど、結局合格ラインには届かず。
受験前にバイトで貯めた貯金は全部授業料に消えたのに、何も達成できなかった。本番の得点はE判定。決意なんて欠片も無くただ神に祈った。神なんて信じてないのに。

センター試験の後の進路面談。塾長に言われた言葉を多分一生忘れないと思う。
「お前はどうしたい。」
志望してる理学部の別の学科ならC判定のところもあった。実績のこともあるだろうに、はっきりと志願したい学科に志願しなさいって言ってくれた。リスクはきちんと説明してくれた。合格確率5%に凸り無事撃沈。利益にならないだろうに、自習室使わせてくれて、アルバイトしながら1浪して志望してた国立大に合格した。

2021年10月
結局祈ってばかり。大学進学した直後に塾講師と予備校チュータのアルバイトを始めた。教育に携わってて気づいた。ずっと祈ってる。その年の4月に入塾してきた女の子が、結構訳アリというか大変だった。家庭環境が理由で大人の男性を強烈に嫌悪している子。初対面の挨拶で無視。授業中は睨まれる。仲良く話せるようになるまでに半年くらいかかった。最初は地道に当たり障りの無い所から接点を作っていった。温かい大人の男性もいるって、その一例になるために必死だった。今も元気にしてるかな。
塾講師というのは塾の中でしか生徒と関われない。結局卒塾した後には祈るしかない。だから、生徒が今後自分自身の力で頑張っていけるように、伝えるべきことを伝えておきたい。
教員免許は中学と高校の数学を取得した。でも民間企業に就職。そこで教育DXを頑張っていこうと思っているけど、いずれ教壇にも立ちたいな、なんてね。

2023年3月
きっとこの先も祈り続ける。大学を卒業した。友達のお陰でめちゃくちゃ面白い4年間だった。地元の友達も、大学の友達も。勉強もアルバイトも。かなり充実していたと思う。ここで変なこと言うね。せっかくだし。殆ど誰にも言っていないけど、私、身体そんなに強くないんです。心臓か分からないけど、朝、胸が苦しくて30分くらい起き上がれない日があったりする。健康診断とかも受けたし、循環器内科でも結構細かく調べてもらったけど異常なし。逆に怖いわ。というわけで実は経過観察中なんです。でもここ数か月はほとんど症状に出てないから大丈夫だって勝手に思ってる。
「人は死を恐れず、死に至る生を恐れる。」って真賀田四季は言ってます。本当にそう。だからこそ、死に至るその直前だけでも人生に満足したって思いたい。安心したい。子供たちは「だいき先生いつも楽しそうに働くね」って嬉しい言葉を言ってくれるけど、そういう経緯で私はお仕事も大変なことも、失敗でさえも楽しもうって思ってる。自分にできることはやろうと思ってる。死に至る生の中で、これまでの祈りが少しでも叶っていると感じられたなら。その一瞬のために、今、私は生きています。


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