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DUSTCELL 『SUMMIT』 を聴く

 DUSTCELLはMisumiさんとEMAの二人によるプロジェクトです。ご存知の通り、わたくし だいけ は生まれた時からEMAのファンなのですが(叙述トリック)、1stソロライブも終わったところでアルバム『SUMMIT』について、思うところすべてを書いてみようかと思い立ちました。早速やっていきましょう。​

1. CULT
 冒頭からミドルテンポの四つ打ちで始まるこの曲が示す通り、IDM的な要素はDUSTCELLの特徴のひとつです。歌を聴かせつつ踊れるトラックが目白押しです。このCULTでは、繰り返しが多くなる分コード進行が単調になりそうなところを、音作りやサビ前の転調など様々に創意を感じさせる作りになっており、本人たちがインタビューで指摘していたように「名刺代りの」曲に相応しい出来になっています。88小節以降は少し取ってつけたような印象がありますが、次の曲との繋ぎの役割を担っていると思います。そのためこれを聴いた時、アルバムの曲順そのままライブに持っていくのだなと思っていましたが、大体その通りでした。

2. アネモネ
 ボーカルが抑制的であった一曲目と比べ、出だしから高音での跳躍をみせるこの二曲目は、いわゆるボカロ曲的なつくりで、アルバム中でも一気に盛り上がる部分です。
 EMAの歌の特徴はその恵まれた声質の他に、表現の多彩さに秘密があるように思います。かっこいい/かわいい や 明るい/暗いなどの表現の多様さだけではなく、感情を載せる/感情を載せない/歌ではなく音(楽器)として発声する、という異なった歌唱を曲に応じて、あるいは曲の中の表現に応じて切り替えているようです。
 曲の方に話を戻しますと、コロラトゥーラ的で歌唱困難なこの曲を見事に調理仕切っており、EMAの本領発揮と言えます。本人によるコーラスもとても嵌っており見事。CULTがDUSTCELLの名刺ならば、こちらはEMAの名刺と言えるでしょうか。(ライブでは流石に所々外していましたが)

3. SOIREE
 レチタティーヴォ(音程のある語り)風の前半とメロディックなサビが影絵のような対比になっており「夜会」というタイトルはしっくりきます。この曲の冒頭で"my name is EMA"と言っていることは意味がありそうなので覚えておいて下さい。

 突然ですがここでアルバム全体の話をしたいと思います。SUMMITは大きく分けて四つの異なるパートに分類できるように思えます。

A: 1. CULT  2. アネモネ
B: 3. SOIREE  4. DOMINATION  5. 狂う獣  6. Heaven and Hell
C: 7. SOPPY  8. LAZY
D: 9. LILAC  10. ONE  11. STIGMA  12. 終点

 Aのグループは既に見たように、DUSTCELLというユニットの「定義」のようなものでした。また、CはEMAの可愛さ全開の曲だと言えば肯いていただけるでしょう。
 うがった見方かもしれませんが、残るBとDのグループは鏡写しになっているように思えます。Bのグループは迷いや苦しみ、悔いなどが大きなテーマになっています。一方Dのグループでは、これらの葛藤に一種の解決が示されており、この対立がアルバムの骨子になっているように思われます。
 また、Bが(SOIREEの歌詞によればEMAの)一人称による物語であるのに対して、DはDUSTCELLふたりのお話だという対比でもあるようです。(それを裏付けるように、LILACでは"this is word of DUSTCELL"と冒頭で言っています)
 三曲目と九曲目は前後の異なるグループをつなぐ、中間的な印象を感じます。そこで、次の三つのペアを主に考えてみましょう。ちょうど逆順になっています。これらの対応関係について次から見ていきましょう。

4. DOMINATION - 12. 終点
5. 狂う獣 - 11. STIGMA
6. Heaven and Hell - 10. ONE

4. DOMINATION
 ピアノをバックに歌われるバラードで、挟み込まれる中間部が強迫観念のように繰り返し囁きます。曲は徐々に高まってゆき、クライマックスを迎えます。
 この歌詞を読んでいると、言葉が呪いになるという意味で、例えば「フルーツバスケット」のような作品を思わせます。根源的な課題が提示され、終曲まで解決されません。

5. 狂う獣
 この曲のみ初出ではなく、misumiさんにとってはセルフカバーということになります。一部歌詞が足されているので、そこも考察の余地がありそうです。ハードな音と速いテンポで、次々と分裂症的に性格が変わっていきます。EMAはエピソードに合わせて歌い方を変えています。全体的に自嘲的な曲であり、自分を鞭打つことで流れ出た血が次の曲を導きます。

6.Heaven and Hell
 バロック音楽のように下降上昇するピアノの導入から、前曲で散り散りに分裂していたものが収斂し、鋭く二項対立する様が描かれます。輝かしいサビでは一見救われたようですが、ここでは「血を流しながら呼吸をする」のです。暗い闇の底へお辞儀をする気持ちとは……。どちらが天国でどちらが地獄なのでしょうか。

7. SOPPY
 前半が終わり、大きなマイナスを抱えていたのに、この曲で突然0に戻ります。まるで一回死んで、それから蘇ったようです。全てを帳消しにしてふっと軽く受け止め、チルなのにノリが良く可愛いこの曲は、このアルバムで一番気に入っています。

8. LAZY
 EMAが楽しそうにモンハンしてる姿が目に浮かびます。これも良く聴く曲です。可愛い。

9. LILAC
 ラテン風のスローテンポな曲です。ここから解決編が始まります。呼吸を再開したら、ここ通過点を経て終点へ向かっていきましょう。

10. ONE
 出だしから強い推進力で進んでいきます。「ここが地獄に変わるかどうかは心次第」と前置いた上で、痛みを受け入れ「呼吸を繋いでく」ことで、Heaven and Hell で示された二項対立が一つに収束していることが分かります。
 サビが非常に美しく、EMAの歌声は聖歌を歌うボーイソプラノのようです。DUSTCELLを知らない人に薦めるならこの曲にします。素晴らしい声色。

11. STIGMA
 後半の見せ場であり、ライブでは大トリに置かれていました。踊り狂えます。五曲目の「狂う獣」とは対照的に、繰り返しの中に全てを閉じ込めてあるパラノイア的な曲です。
 「書く」という歌詞は一見、作詞をするEMAに焦点が当てられているように思われますが、作曲をするmisumiさんのイメージもそこに重なっている、DUSTCELLが一体になった曲であり、その事が個の苦しみを溶解させているように感じます。コーラスも多分misumiさんの声が入っておる。曲解ですが、この曲の為に過去の自作をアルバムに入れたのではないかとさえ思えます。

12. 終点
 ピアノが印象的なバラード。DOMINATIONで示されたレールに対する答えが直截的に示され、終点=頂点(SUMMIT)という最高のエンディングに結実しています。

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