小説「巫女の場合」

巫女は神のお告げを聞いて、みんなにそれを伝えるのが仕事である。

あとは、司祭様の夜の相手をするのが仕事である。
あと、犬に餌をやったり、畑を耕したりするのも仕事である。

巫女はそんな風に暮らしていた。

ある日、司祭様から夜に手渡された「明日のお告げ」にこう書いてあった。

「今日から全員裸で過ごすこと」

巫女はこれを翌日の交霊会にてみんなに伝えた。ぐるぐると踊り狂いながら「今日からみんな全裸で過ごすこと。そうしないと大地は裂け、天は唸り、子は絶え、米は実らぬ」

ということで、翌日からみんな全裸になった。

司祭様は、ありがたみがなくなったからか、夜に巫女を呼ばなくなった。別の少女を引っ張り込むようになり、お告げも特に意味のない適当なものになった。

巫女はハローワークに行った。経歴に「巫女」と書いたが、求人は非常に少ない、と言われた。
その他に何か特技はないか、と言われたので、「夜伽」とも書いた。

その日の夜、ハローワークの課長の家に呼ばれた。
巫女はぴっちりした黒いスーツを着て、面接に出かける。

大概、神社の巫女の面接に行くと、管理職の家に夜呼ばれ、税金の発生しないお金をちょっともらって、でも結局不採用なのであった。

巫女はもう時代は自分を求めていないと思った。それでもう巫女はやめることにした。

朝はスタバ、昼は湘南美容外科、夜は吉原、そして長休みには蟹漁に出ることにして、それなりに満足した人生を送る気でいた。

それなのにまさか、地銀の営業と所帯を持ち、件の課長の子を育てることになろうとは。

川内で。

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