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へりくつ弁当

 おれが会社を辞めると言ったら上司が辞めるんなら辞めろというからじゃあ辞めると言ったら頼むから辞めないでくれというのでなんだそれはわけがわからんやっぱり辞めるというと好きにしろというから辞表を書こうとして便箋を開いたら何をするのだと問うので辞める旨を書面にしたためるのだと言うとなんでそんなことをするんだというから辞表ですと答えたら今すぐ辞めればいいだろうというのでじゃあ今すぐ辞めますと言ったらそれは職務の責任放棄だ大人としてあるまじき行為だというのでだから一月後に辞める旨をしたためているのだと答えるとそんなのちゃんちゃらおかしいというので何がちゃんちゃらおかしいのだと聞くとちゃんちゃらおかしいのは君の方だよというのでちゃんちゃらおかしいといったのはあんただと言うとちゃんちゃらおかしいといったのは自分だがちゃんちゃらおかしいのは君だというのでじゃあちゃんちゃらおかしい私がここにいても仕方がないので辞めますというとだめだ会社にはひとりくらいちゃんちゃらおかしい人間が必要だというのでじゃあ私は不適切ですねなぜなら私はちゃんちゃらおかしくないからですと言うとそこがちゃんちゃらおかしいんだよ君はというのでちゃんちゃらおかしいことを定義できないあなたこそもっともちゃんちゃらおかしいと返すとそもそも君はちゃんちゃらおかしいの意味をきちんとつかんだ上でちゃんちゃらおかしいという言葉を使っているのかとたずねるのでおれは英和辞典で「ちゃんちゃらおかしい」を調べ始めたがどうにも載っていないあたりまえだそれは英和辞典だから。

 いつのまにか上司が弁当を買ってきて食っている。
 「からあげひとつあげようか?」つまんでこっちに渡そうとする。
 ところがあいにく、おれは魚のフライ以外には興味がないんで。
 「結構です」といって辞表の続きを書こうとしたら、「一身上の都合により退職いたしたく」の部分を「大食いたしたく」と書いてしまった。

 おれも腹が減っていたのだ。

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