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ひとりはなんでもできる至福の時 #3
宿帳に住所と名前を記入し、
1名と書いてため息をつくフー子に「どうかされましたか?」と
対応してくれた和服姿の女将が、心配そうな表情を浮かべた。
「あ、なんでもないです・・・いい旅館ですね」
「ありがとうございます。ごゆっくりおくつろぎくださいね」
女将の先導で、離れにある客室に案内され、一通りの説明を受けたフー子は
ひとりになると、ごろんと畳の上に大の字に寝転んだ。
「ダイジョーブタといつ
ひとりはなんでもできる至福のとき #2
まだ夜が明けたばかりの薄暗い部屋の中、
小さなトランクを手にしたフー子が玄関のドアを開けようとすると
「フーちゃん?」
と物音に気づいたパジャマ姿のダイジョーブタが、
眠い目をこすりながら出てきた。
「もうっ、なんで起きちゃうの?静かに出て行こうと思ったのに〜」
「声かけてくれれば、朝ごはん作ったのに」
キッチンに置いたパンを手にするダイジョーブタに
「いいの!・・・見送られると寂しくなるから、
キミの楽しそうな姿こそ、親が一番望んでいること
「・・・うん、じゃあ明日ね」
電話を切ったフー子が大きくため息をついた。
「フーちゃん、どうしたの?お母さんからの電話でしょ?」
「うん・・・お母さんが、明日こっちに遊びにくるっていうから・・・」
離れて暮らす両親とは仲がいいはずなのに、なぜかフー子は浮かない表情を浮かべていた。
「昼間に観光をしてから、泊まるみたい」
部屋の掃除を始めるフー子がぽつりぽつりと話し始めた。
「お母さんはね、私が何
そっちがキミのメインルート#5
「ヤッホー!」
さんかく山の頂上に着いて、
清々しい表情を浮かべながら、フー子が向かいの山に向かって叫んだ。
「登りきったね!気持ちいーーーー!」
ダイジョーブタはリュックからコッヘルやバーナーを出して
さっそく昼ごはんの準備に取り掛かっている。
カレーのレトルトをコッヘルに入れて火にかけると、すぐにいい匂いがしてきた。
「お腹空いた〜!途中からずっとお腹がなってたんだ!」
「それはよかった。さ、
そっちがキミのメインルート#3
長い時間迷っているダイジョーブタを見て、
「そんなに慎重にならなくてもいいのに・・・」
とフー子は心の中で思いながら、どうにか説得しようと試みた。
「会社の同僚の女性がね、このあいだ上級者ルートを登ったんだって。
滝のそばを歩いたり、ハシゴとかガレ場もあるみたいだけど、
全然問題なかったって言ってたよ。
大人はだいたいこっちなんだし、早く着くし・・・」
「でもフーちゃんはその人と同じじゃな