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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題 #18 同一労働同一賃金(4)

 働き方改革といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係を巡っては続々と変化が現れてきています。この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用をめぐる問題をご紹介していきたいと思います。
 今回は、前回から引き続き、定年後再雇用と同一労働同一賃金をめぐる問題に関する最高裁判決をご紹介します。


1 問題のポイント

 前回は、定年に関する現在の法規制についてご紹介しました。
 65歳までの雇用が法的に義務づけられており、企業としては定年の廃止、定年年齢の引き上げ、60歳定年制を維持した上で再雇用制度を設ける、といった対応をする必要があります。
 厚生労働省が行っている統計調査では、定年制を廃止した企業が
3.9%、定年を引き上げた企業が25.5%、継続雇用制度を導入している企業が70.6%となっています(令和4年)。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11703000/000955633.pdf
(厚生労働省)

 このように、約7割の企業で定年後再雇用の制度が導入されていますが、再雇用に当たっては、定年前と比べ、賃金などの労働条件が引き下げられていることが多くなっています。
 他方で、担当している業務自体は定年前と比べてなにも変わっていない、というケースも珍しくありません。
 このような場合に、定年前と同じ仕事をしているのに、再雇用後の条件が引き下げられるのは同一労働同一賃金に反するのではないか、ということで争われています。

2 長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)

 定年後再雇用と同一労働同一賃金に関するリーディングケースが、長澤運輸事件と呼ばれる事件です。最高裁はこの判決の中で、定年後再雇用であることは合理性を判断する上での一つの考慮要素に当たることを認めました。
 定年後再雇用であることを理由として雇用条件を引き下げることは、認められる余地があることになります。ただ同時に、定年後再雇用だからといって、当然に引き下げることが認められるわけではない、としています。
 あくまでも事情の一つとして考慮することは認めた上で、各種賃金項目(基本給の他、各種手当てなど)の支給の趣旨を個別に考慮して判断されることとされました。このような判断枠組み自体は通常の同一労働同一賃金における判断枠組みが踏襲されています。

3 名古屋自動車学校事件(最高裁令和5年7月20日判決)

 同じく定年後再雇用と同一労働同一賃金に関して、昨年7月にも最高裁の判断が示されています。これは、基本給や賞与などが大きく引き下げられたことの有効性が争われた事件です。
 注目されているのは、基本給に関しても同じく同一労働同一賃金違反になることが認められた点です。その上で、基本給についてもその支給の趣旨を踏まえて判断されるべきとされました。なお、高等裁判所の判決では、基本給について従前の賃金よりも60%を下回る範囲で違法と判断された事案になります。
 定年後再雇用に当たっては定年前と比べて60%程度とされることが多いともいわれていた中で、その有効性が争われた点が注目されている事案といえます。少なくとも60%を補償すれば適法とはいい切れないことが示されたともいえます。
 この事案については現在高等裁判所に差し戻されており、今後の動向が注目されています。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2024年6月号より

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