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気を付けたい所得税改正のポイント


1.定額減税と扶養の申告

 2024年度の税制改正で、所得税と住民税の定額減税が打ち出されました。定額減税は富裕層に有利な定率減税とは違い、中・低所得者に恩恵が大きいと考えられています。本人と扶養家族につき1人あたり所得税は3万円、住民税は1万円を6月から減税します。ただし、居住者で合計所得金額が1,805万円(給与所得のみの場合2,000万円)以下の者に限ります。所得税は2024年分の所得が判断の対象ですが、住民税は2023年分の所得で判断が行なわれるので、住民税からの1万円の控除は、1月末までに提出する給与支払報告書や2023年分の確定申告書がベースです。

 給与所得者であれば6月の源泉所得税から、減税額になるまで順次控除していきます。これは会社で計算をしなければなりません。事業所得者は予定納税額から控除するとなっていますが、予定納税が無ければ、最終的に確定申告で調整します。

 ここで問題になるのが扶養家族です。本人が定額減税の対象外になってしまうと、扶養家族についても定額減税が受けられなくなってしまいます。本人の給与収入が2,000万円超、配偶者の給与収入が2,000万円以下であれば、扶養家族を配偶者につければ、扶養家族分の定額減税を受けることができます。所得税の扶養控除を受けられない15歳以下の扶養親族については、令和6年6月1日以後最初の給与支払日までに「源泉徴収に係る申告書」の提出をすれば、年末調整で控除ができますが、多くの会社は扶養控除等申告書の「住民税に関する事項」を参照して計算するのではないでしょうか。最初から合計所得金額が1,805万円を超えることがわかっているのであれば、15歳以下の扶養親族は配偶者につけておいた方がよいと思います。同一生計であれば祖父母の扶養家族にするという方法も可能ではないでしょうか。

 給付ではなく、毎月引かれる源泉所得税が減る形なので、使えるお金が増えるという実感はあまりないかもしれませんが、誰の扶養にするかで定額減税の金額が変わる可能性があるので気をつけたいものです。

2.上場株式等の配当所得・譲渡所得等における所得税と個人住民税

 令和6年度(令和5年分)から、所得税と個人住民税の課税方式を一致させることになり、異なる課税方式は選択できなくなります。

 源泉徴収を選択した特定口座では、株式の配当や売却益から所得税と個人住民税が源泉徴収されるため、改めて確定申告をする必要はありません。しかし、株式の譲渡損を同一特定口座以外での売却益と相殺したい、譲渡損失を3年間繰り越したい、配当控除を受けないなどの場合には確定申告書の提出が必要です。今までは確定申告で配当や株式の譲渡を申告しても、所得税と個人住民税で異なる課税方式を選択することができ、個人住民税は5%のままで済みました。

 令和5年分の所得税の確定申告で、株式の配当や譲渡所得について申告をすると、個人住民税でも申告をしたことになり、個人住民税の合計所得金額に算入されてしまいます。個人住民税の税率は10%ですから、追加で5%支払わなければなりません。また、国民健康保険や後期高齢者医療保険料にも影響が及びます。確定申告で有利になる金額との比較検討が必要です。

【執筆者プロフィール】
税理士 永井 智子(ながい ともこ)
(社)ファルクラム租税法研究会研究員。
『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント』シリーズ(共著/第一法規)ほか、論文・寄稿多数。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2024年2月号より

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