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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題 #11 育児休業(4)

 「働き方改革」といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係をめぐっては続々と変化が現れてきています。
 この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用を巡るめぐる法律問題をご紹介していきたいと思います。
 今回は前回ご紹介した育児休業に関連したハラスメントについて、裁判で争われた事例についてをご紹介します。


1 事案の内容

 今回ご紹介するのは、最高裁が平成26年10月23日に言い渡した判決です。  事案としては、病院で勤務する理学療法士の女性が損害賠償を求めた事案というものです。
 女性は従来、訪問リハビリチームの副主任として、月額9500円の副主任手当が支給されていました。
 女性は、妊娠を機に負担の軽い病院内でのリハビリ業務への配置転換を希望し、病院側もこれに応じて配置転換がされました。ただ、この配置転換にあたって、女性は副主任から降格されています(この時点での降格については、女性はしぶしぶながら承諾しています)。
 その後、出産後に産休・育休を経て復職しましたが、病院が復職後も女性を副主任に復帰させなかったため、女性が損害賠償を求めて争われました。
 
 高等裁判所では、女性が降格に同意していたことなどを理由として、女性の請求を認めない判決が言い渡されました。

2 最高裁の判断

 これに対して、最高裁は単に承諾があっただけでは適法にはならない、ということを言い渡し、高等裁判所の判決を破棄しました。
 具体的には、妊娠による軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として違法としたうえで、例外的に以下の2つの場合に限り適法となるとしました。

(1)当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき。

(2)降格の措置をとることなく軽易業務への転換をさせることに支障がある場合であって、降格の措置をとることが、妊娠を理由とする不利益取り扱いを禁止した法律の趣旨に反しない特段の事情が存在するとき。

 (1)については、単に承諾があるというだけではダメということになります。
 そして、この事案では、管理職手当の支給が亡なくなるという点で、不利益が重大であること、降格後の待遇や復帰後にも副主任には復帰できないことを告げられないまま承諾していることを指摘して、承諾は自由な意思に基づくとは言えないと判断しました。
 (2)については、同意がない場合でも、例外的に適法になるケースがあることを前提としており、今回の事例では、そのような事情があるかを審理するために、判決では高等裁判所に差し戻されました(その後、高等裁判所で損害賠償を認める判決が言い渡されました)。

3 まとめ

 以上が、最高裁が示したマタハラに関するリーディングケースと呼ばれる事例の判決です。
 従業員が承諾して降格させたケースでも、違法と評価されている点で非常に興味深い事例といえます。
 マタハラが発生したとなると、実際にこのように損害賠償を受けるといったリスクがあるほか、会社の評判も落としかねません。
 法律に関する正しい理解と、適切な対応が求められる事例といえるでしょう。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2023年11月号より


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