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中小企業における賃上げについて

 大企業の賃上げが話題ですが、人材確保等のために中小企業においても賃上げが必要と思われます。今回は、令和6年度税制改正で強化された、中小企業者等(資本金1億円以下の法人、協同組合等)向けの賃上げ促進税制について解説します。


1.適用期間

 令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度が適用期間になります。

2.上乗せ要件の改正

 中小企業者等は、上乗せ要件が改正され、全雇用者の給与等支給額の増加額の最大45%を税額控除できることになりました。具体的には、教育訓練費に係る上乗せ要件の改正と子育てとの両立・女性活躍支援に係る上乗せ要件の新設です。

3.教育訓練費に係る上乗せ要件

 教育訓練費とは、法人がその国内雇用者の職務に必要な技術または知識を習得させ、または向上させるために支出する費用です。具体的には、①国内雇用者に対して教育訓練等を自ら行う場合のコンテンツ使用料等の費用、②国内雇用者に対して教育訓練等を行う場合の、その教育訓練等のために教育訓練等の委託者に対して支払う費用、③国内雇用者を他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の、教育訓練等の主催者に対して支払う費用が該当します。教育訓練費が前年度比5%以上増加しており、かつ、適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の全雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合に、教育訓練費に係る上乗せ要件が充足することになります。教育訓練費に係る上乗せ要件の充足により、税額控除率が10%上乗せされます。

4.子育てとの両立・女性活躍支援に係る上乗せ要件

 この要件を充足するには、厚生労働省による認定が必要になります。法人が厚生労働省へ申請することにより、子育てとの両立をサポートする法人には「くるみん認定」、女性活躍支援を推進する法人には「えるぼし認定」が行われます。なお、「えるぼし認定」は3段階あり、上乗せ要件の充足には、少なくとも2段階目までの認定を受ける必要があるため、留意が必要です。子育てとの両立又は女性活躍支援に係る上乗せ要件のいずれかを充足することで、税額控除率が5%上乗せされます。

5.繰越控除措置

 賃上げを行い、損金が増加することで、赤字になる可能性があります。その場合、税額控除率を上乗せしたことによる恩恵が受けられないことから、控除しきれなかった税額控除相当額を5年間繰り越すことが可能になりました。税額控除相当額を翌年度以降に繰り越す場合は、税額控除相当額が発生した年度の申告において、「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を提出する必要があるため留意が必要です。

【執筆者プロフィール】
公認会計士・税理士 越田圭(こしだ けい)
(社)ファルクラム租税法研究会研究員。
『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント』シリーズ(共著/第一法規)、『税理士が知っておきたい!土地評価に関する建築基準法・都市計画法コンパクトブック』(共著/第一法規)ほか、論文・寄稿多数。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2024年4月号より

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