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OMORIの"嫌"について話をさせてくれ

眠られぬ一夜を過ごした後では、通行人は自動人形にしか見えない。誰一人として、呼吸し、歩行しているようには映らない。
全身がぜんまいで動いているかのようだ。一片の自発性も見当たらぬ、機械仕掛けの微笑みと、亡霊の身振りだ。
―お前自身が亡霊なのに、どうして他人が生命あるものと見えようか?

E.M.シオラン『歴史とユートピア』

以下OMORIのネタバレを含みます。

個性豊かな友達、そしてエネミーでいっぱいの奇妙な世界を探検しましょう。やがて、あなたが選んだその道が、あなたの運命を決定づけるでしょう。
おそらく……他の誰かの運命も。

steamストアページより引用

OMORIは"ホワイトスペース"に引きこもる"オモリ"を操作して、すてきなお友達と共に"バジル"を探すRPG。
「ゆめにっき」や「UNDERTALE」、日本のゲームに影響を受けたビジュアル。パステルカラーの背景。鉛筆のタッチがどこか懐かしい立ち絵たち。
感情を操作して弱点を突くゲームシステム。質の良いOST。

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ここで免責事項ザウルスを共有……


けれどこのゲームの魅力は"現実世界"の描写にある。
夢から突如目覚めた主人公。
彼"サニー"は引きこもりだ。3日後には生まれ育った街から引っ越す。
広い家は電気がつかないようで、暗い空間にただひとり。
幻覚。影。耳鳴り。何か。不眠症特有の寝る瞬間の気持ち悪さ。この精神的なキツさが"音"と"視覚情報"としてプレイヤーに伝わる。耳鳴りの音めっちゃ再現されています。不快すぎ!!

夢の世界はみんな優しくて、OSTもkawaii/chill系だったのに。現実ではOSTなんて聞こえず、風の音や遠くの音が鳴るだけだ。静寂が耳鳴りを呼び、ストレスが蓄積する。嫌でも現実世界パートでの苦痛が増していく。

まだプロローグ。もうこの時点でわたしは現実世界でのリアルなストレス描写で苦しめられ、惹きつけられた。以降も現実世界の"嫌"が過剰なまでに登場する。


女性が暗い部屋でテレビを見続けるゴミだらけの家。謎の宗教的な像が大量に設置されているだれかさんの庭。見られている気がする。幻覚。ゴミ1つないきれいすぎる物のない家。万引き。物乞いをするホームレス。猫の幻覚。新興宗教団体がバックにいるボランティア活動。幻覚。ダルいカップル。こんなに嫌な街なのに何食わぬ顔で過ごすひとびと。ひそひそ声。噂。老人。友達の友達。友達と仲がよさそうな知らない人。


これだけ現実世界における"""嫌"""が過剰描写されると、プレイヤーは夢世界にやすらぎを覚える。そして、このやすらぎは作中で主人公が抱いている感情と同義で、ホワイトスペース・夢世界に引きこもる主人公の感情が理解出来るのではないだろうか。

夢世界にホームレスはいない。変な宗教もない。ただただ心地いい空間とドキドキの冒険とお友達がいる。ケガしてもお菓子を食べれば治っちゃう。ヤンキーに絡まれて負けることなんてない。ナードなんて言われない。ナイフだってあるんだし。

現実世界での"嫌"によって、プレイヤーは主人公と同じ感情を抱くことができる。夢世界に縋り、ひきこもる主人公に限りなく近づいていく。凶悪なまでの没入感を獲得する。




"嫌"の話は以上として、あとはすきな描写の話しちゃお

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全部かわいいかもな

OMORI、感情を操作して意図的に弱点をついたりする。ぷっつんのオモリの表情、良すぎない!?好きすぎる。
あと、このゲームは戦闘不能になるとトーストになってしまう。"ヨミジャム"を使うと復活する。作中でトーストがわんさか登場する場所があって、そこに来たとき夢世界なのに嫌で嫌で仕方なかった。つまり死体ってことだから

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現実世界ではオーブリーと戦闘になる。このとき、ナイフで攻撃するとこうなじられる。
わたしとしては「キッチンにナイフある!装備装備!!」と動いたわけなのですが、現実世界のルールに当てはめると、ただのナイフを持ち歩いているひきこもりのサイコパスでゾゾ…となりました。現実世界でナイフ持った青年居たらそれは怖いしこうなるよね。

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夢世界にゲームのキャラ(スペース船長とか苗モグラとか)が登場したりとサニーくんはゲーム好きらしい。ダイスケくんもゲーム好き!
空想癖もあるらしい。かわいい。現実世界パートではたくさんのミニゲームで遊ぶことが出来るよ。たまごっちみたいなやつとか…

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オモリのスキルが全部根暗陰湿あくタイプなの、やっぱり現実世界で発露できないサニーくんの暗い部分、ペルソナみたいなものなのかな…と感じてしまう。夢って抑圧された色々が反映されるらしいし。
感情操作したときの顔も生々しいというか、獣のようでちょっとサイコパスみがある。社会性を必要としない夢世界だし、超自我が必要ないから直接的な発現になっているのかな。

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わたしのプレーを見ていてくれた友人が、プレゼントについての指摘を教えてくれておお~…となった。やっぱり心のどこかではバイオリンやりたくなかったとか?感情って一言で言い表わせないよね。真相はプレイしてから確かめてね。

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^^

主人公は眠っていないのではないかと薄ら思う。「ときどきほんとうに寝たい」目を閉じても夢世界で活動していることから、眠りが浅いのだろうと推測できる。サニーはハッピーエンドのあと、ほんとうのねむりに到達できたのだろうか。

シオランは不眠を一種の目覚めだと説いた。不眠を経験した人間は変わってしまうのだという。寝れない夜のあとの街は全てが泥のようで、ひとびとは機械のようで気持ち悪くて、思考が不断になる。我が身を粉砕するだけの明晰が続く。眠るまで終わることのない永遠の苦しみ。不眠の苦痛がただただ生々しかった。

今はED3種見た(bo enのマジで良い曲ことmy timeも聞けた)ので、ひきこもりルートをやっていく予定です。まだまだお友達と冒険したい。

根幹にかかわるネタバレは避けたつもりです。気になったらぜひプレーしてみてね。プレーが怖かったら、OSTだけでも聞いてみてね。

これは蛇足なのですが、

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久々にドツボで一生忘れないようなゲームだったので、勢いで海外通販をするなどしています。届くの2か月後らしいです。Tシャツのデザインカッコ良すぎるっピ。


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