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ラルの星

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異星人ラルの不思議な不思議な星の物語。
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記事一覧

ラルの星 8月333日

ラルは音楽を聴いていた。
お気に入りは、
最近、売れっ子の惑星アイドルバンドグループ
「ネビュラ星雲エクスプレス伝説」だ。

ボーカルの絶対神(ゼウス)
ギターの海神(ポセイドン)
ベースの冥府の神(ハーデス)
ドラムの女神(アテナ)

彼らの奏でる惑星音楽波動は破壊力が凄まじい。
新曲「浮遊力100億Gで今日もハッキング」は
リリースと同時に、絶滅危惧種が1種類減った。

ラルもこの曲で心の一つ

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ラルの星 8月2日

ある朝、ラルが目を覚ますと、発熱と共に
体中から羽が生えていた。

母親と一緒に少年少女内科に行くと、
お医者さんから病名を告げられた。

「これは典型的な『羽毛熱(うもうねつ)』だね。
子供がよくかかる。一度かかると2度とかから
ない病気だ。
家でゆっくり治療をすれば治るよ。薬を出して
おくから、しんどくなったら飲みなさい」

羽毛熱は、体の水分を養分にして、体中から
羽を増やすウイルス性の病気

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ラルの星 7月日日

ラルは、ドリンクショップで「ふわふわドリンク」を
買った。
ラルの好きな飲み物だ。

ひとくち飲むと腕がふわふわ。
ふたくち飲むと体がふわふわ。
ゴクゴク飲むと全体がふわー・・・っとなる。

実際に体は宙に浮かない。ただ、ふわっとするだけ。
一気に飲みすぎると、炭酸飲料のように、口から
大量の空気が放出される。そしてその後、めまいが
襲ってくるので注意が必要だ。

ドリンクショップにはいろいろな飲

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ラルの星 7月5A日

友達のエモルが、ラルの家に遊びの誘いに来た。

エモルとは、今ではお互いの家を行き来する程の
仲の良い友達だが、最初、友達になるのは大変だった。

最初、エモルに声を掛けた時、ラルは本気で食べられ
そうになったからだ。
ラルは何度も「あなたと友達になりたい」と言った。
エモルの鋭いキバが、ラルの喉元に食い込む寸前まで
何度も叫び続けた。
そしてラルの叫びはエモルの耳に届き、なんとか
二人は友達にな

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ラルの星 6月20日

ラルたちは雲の上に家や道路、建物などの
文明を築いて住んでいる。

雲は土台を作るのに、硬すぎず、柔らかすぎず
丁度よい。

そのはるか上空に、さらに雲が浮かんでいる。
風の影響を受けながら、ゆっくり、ゆっくりと
進む雲の上の雲。

そのラルたちの住む雲のはるか下には、大地と
いう、一度落ちたら這い上がれない硬い土地と、
海という塩が交じっている水の塊が存在する。

ラルは雲の切れ目から、下の世界

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ラルの星 6月1.5日

「黄色いちゃん、またね!」

ラルは電話を切り、受話器を頭に戻した。
黄色いちゃんは、バックアップ友達だ。

2年前、黄色いちゃんは事故で自分を失った。
ただ、魂だけはバックアップを取っていたので
バックアップを使って、現在もロビロ・センター
で生きている。

裕福な家庭は、そのバックアップをロボットに
インストールして、姿かたちは変われど、普段の
生活を送れるようになる。もちろん、バックアップ

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ラルの星 6月1日

ラルは、他の人が見えない物が見える。

ラルが宝物にしているパチンコ玉ぐらいの
小さな銀色の石がそうだ。

昨年の秋、早朝カーニバルでのお店で、
父親に買ってもらった物だ。

見えないにもかかわらず、父親は値段の
付いている透明な物にお金を払い、娘に
プレゼントした。

見えないにもかかわらず、店員も値段を
付け、カーニバルに来ていた父娘にその
透明な石を売り渡した。

ラルは喜び、友達に見せびら

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ラルの星 5月1日

空が真っ赤な朝、ラルは目を覚ました。
目の前には、明るい扉、黄昏扉、いつもの扉がある。
洗面所へ行くため、いつもの扉をラルは通り、自分の部屋を出た。

扉を通ると、自分の部屋に着く。そこには、また扉が3つある。ラルは、いつもの扉をまた通る。通った先には、また自分の部屋。
自分の部屋は何も変わりがない。先ほどまでラルが寝ていたベッド、勉強机、不規則に置かれた書籍の数々。
ラルはまた、いつもの扉を通る

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ラルの星

ラルは頭の上に置いていた電話を取り、
黄色い友達に連絡した。

「黄色いちゃん、いま、なにしてるの?」
「家でテレビ食べてたよ」
「…あぁ、テレビね。あれ、最近、つまんなく
なってない?」
「そだね。チャンネル変えても、全然
美味しくない」
「ラルは?」
「丸いパララで遊んでたよ」
「いいね。また遊ぼうね」
「うん、またね」

電話が切れ、ラルは受話器をそっと
自分の頭に戻した。