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悪魔のような下水管の詰まりに大勝利した話

 長いこと同じ家に住んでいると宿命のように訪れるのが、水回りのトラブルである。こればかりはどうにもなかなか避けることができず、また大体の場合、今すぐに直さないと生活に支障が出るという点が厄介だ。

 うちもかなり長いこと今の家に住んでいるので、これまでの間に数々の水まわりトラブルに見舞われ、対処してきた。やれトイレが詰まっただの、蛇口が壊れただの、排水溝が詰まっただのといったことである。
 そしてそのほとんどは業者に頼まずになんとか自力で解決してきた。
 しんどかったのは、キッチンシンクの蛇口のレバーが折れて一切使えなくなってしまい、蛇口一式を自分で買ってきて付け替えた時と、これはトラブルではないが、トイレのウォシュレットを付け替えた時である。
 特に蛇口の付け替えは困難を極めた。あれは上からと、シンクの下側からの作業が必要だが、シンクの下に仰向けになって入り込んで暗い中で作業をするのは体勢的にもきついし、なんというか「押さえておいてネジを閉める」みたいな普通のことが全然仰向けだとできなくて本当にイライラしたのを覚えている。

 でもまぁ、大抵のことは工夫すればなんとかなるものである。一軒家で一家の長になると、ある日突然否応無しにこうした自分で対処しないといけない課題というのは降ってきて、誰にも頼れず工夫して解決し、生き延びていく。昔の人もそうだったんだと思う。

 さて、今日窓を開けると庭からとんでもない異臭がする。これは覚えのある悪臭だ。間違いない。下水管が詰まってあふれてしまっているのだ。
 これは一軒家だとあるあるかもしれないが、キッチンからの油なんかが固まって下水管を塞いでしまい、下水が下水管の蓋から外に溢れてしまうという現象が、もうどうしようもなく定期的に起きてしまうのである。
 実はこれにはやや苦い思い出がある。
 数年前も同じように悪臭がして、ついにシンクから水が流れなくなってしまったことがあった。
 このときはもう夜になってしまっていたこともあり急を要したので、ありがちなマグネットの広告の水道屋さんを呼んで直してもらった。そしたらあっという間に詰まりは解消できて、下水管をふさいでいたレンガブロックくらいの油の塊を取ってもらった。
 それはよかったのだが、高圧洗浄代かなんかで料金を追加追加、確か最終的に7万円くらい取られてしまった。もちろん、広告にはもっと安い値段が書かれていたという、もう典型的によくあるやつである。もう、次に水道屋を呼ぶときにはちゃんとクラシアンとか大きなところに頼もう、マグネット広告は絶対位信用しないようにしようと心に誓った夜であった。

 今庭から漂っている悪臭はその時のものと全く同じである。間違いない。
 さっそく庭に出てみると、一箇所水が溢れている下水管の蓋を発見した。蓋を開けてみると、もう明らかにここが現場である。この場所が詰まっていて、水が溢れてしまっているのだ。
 これはまずい。一刻も早く直さねば。
 うちも大変だが、何しろこんな悪臭を放置していてはシンプルに近所迷惑である。
 一瞬心に決めたクラシアンがよぎったが、でもまだ朝方だし、ちょっとできるところまで自分でやってみようとチャレンジしてみることにした。

 何箇所かの下水溝の蓋を開けて、まずは詰まっている下流側からホースを奥までつっこんで水を流してみる。
 だが、思いのほかしっかり詰まってしまっているらしく、それだけでは事態はあまり解決しなかった。
 そこで、やっぱりこういう機会があるので家に備えてあった、詰まり解消グッズのこういうの↓を今度は詰まって溢れている箇所からあちこち差し込んでみる。これは、この写真の状態は伸び切った状態で、緑のレバーを手前に引っ張ると右側の蛇腹風のワイヤーが左の管の中に収納され、押し込むと勢いよく射出することができるという、もともとはトイレ詰まり解消用の器具である。

 これを見えない下水管の中に突っ込み、手探りであちこちレバーをジャコンジャコンと出し入れして探っていく。下水管は深く、なかなか核心のところには辿り着かなかい。手強い。
 しかしある箇所でレバーを押し込んだ瞬間、明らかにサクッと「ここは秘孔を突いた」という手応えがあった。
 と同時に、ボコっとワイヤーが何かを突き破って奥まで到達する感触があり、その瞬間、一気に詰まってあふれていた水が流れていった。
 と思ったら、続いてドゴウという轟音と共に、奥からもう考えられないような量の濁流が鉄砲水のように押し寄せてきて、数十秒の間途切れることなく流れ続けた。おそらく、この箇所が詰まっていたために、その奥の下水管にずっと溜まっていたのだろう。これほど大量の水が溜まっていたのか。ていうかそもそもこんなに溜まることができるのか。ほんとうに下水溝は驚異の異世界である。
 いやしかし、この詰まり解消の瞬間とその大量の水が流れる光景というのは、なかなか人生の中でも得難いくらいに本当に文字通りのスッキリする体験であった。
 こんなにも、どうにもなにかが詰まってしまってトラブルが解消できない状況で、一箇所の乾坤一擲で全てが派手なエフェクトと共に夢のように解消することなんて、そうそうない。まさにバトル漫画の主人公ピンチから大逆転でラスボス戦勝利の世界、本当に大偉業を成し遂げたような、達成感アンド満足感である。

 凱旋。激戦の汚れを落とすために風呂に浸かり、天井を見上げる。至福。下水管の詰まりまで克服してしまった自分に、もはや死角はない。勝利。しかし敵はまた知らぬ間に増殖し、いずれまた悪夢のようにその姿を表すことだろう。その日まで、我が家の民よ、近隣の住民よ、束の間の平和を満喫するがいい。この手で、何度だって守りぬいてみせる。

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