サックスのリード問題
サックスは、リードという葦でできた薄い木のへらみたいなものをマウスピースにつけて、そこに息を吹き込んで演奏する。草笛を鳴らすのと同じ原理である、
このリードだが、植物でできているので、永久に使えるわけではなくて消耗品である。割れちゃったり、使っているうちに繊維がダメになってならなくなってしまったりする。
というわけで、結構な頻度でリードは交換するし、なくなってしまえば新しいのを購入することになる。
ところが、このリードというものは、おそらくみなさんが思っているよりも結構高い。
バリトンサックスのリードは特に他のサックスのものよりも群を抜いて高い。おそらく、そもそも使う人の数が少ないのに加えて、リードそのものが大きいからだと思う。
いくらくらいするかというと、このバリトンサックスのリードは、だいたい5枚入りで5000円から7000円くらいである。
つまり、この1枚で1000〜1400円くらいするのだ(アルトサックスだと大体400〜500円くらいのイメージ)。
さらに、リードというのは、なかなかこういうプロダクツも珍しいと思うのだが、せっかく大枚叩いて買ったこの5枚が全部使えるとは限らないのである。
つまり、せっかく買っても「使えない」ものが混じっているのが普通で、人によっては「5枚のほとんどが使えない」という人もいる。
どういうことかというと、これは別に粗悪品が横行しているわけではなくて、サックスを吹くときの身体のもろもろの構造というのは大変にセンシティブなものであるらしく、ほんの微妙な削り方や厚みが違うと、とたんにうまく吹けなくなってしまうのだ。
そしてそれは人によってポイントが異なっており、そのため同じ箱のリードの中でも合うものと合わないものが出てきてしまうのである。
いちおう、リードには番手と呼ばれる厚さ・硬さを表すグレードがあって、だいたい5段階くらいから自分に合った硬さを選べる。柔らかいのが好きだとか、硬い方がいいなどこれは個人差がある。なので、おおまかには自分に合ったものを選択するわけだが、その同じ硬さの番手の同じ箱の中でもこのように個体差があるわけだ。
また、メーカーや銘柄もいろいろあって、これはこれでそれぞれに非常に特徴があるので、多くのサックスプレイヤーは、長年の経験と少なくない投資の積み重ねでもって、自分に合ったリードというものを探し求めていくわけである。
自分も、これまで何十年と演奏する中で、さまざまな失敗を繰り返して、自分に合ったリードを探し求め、最終的にLa Vozというメーカーのリードを長年愛用してきた。
ところが、これまた困ったことに、最近このLa Vozのリードの質が変わってきてしまった。以前と同じような音で吹けないのである。
同じLa Vozのユーザーに聞いても「最近全然ダメだ」というので、やはり変わってきてしまったのは間違いないように思う。
これも、でも植物のことなので、30年も経つとそりゃ変わるよなという気もする。決してメーカーが手を抜いて粗悪品を作るようになったというわけではなく、同じ作り方をしていても、さっき書いたようにサックスの演奏というのは非常に微妙なので、ちょっとしたことでプレイヤーには変わったように感じる何かが出てきてしまうのだと思う。今のが悪いというか、昔のリードにあった吹き方で練習してきてしまったので、プレイヤーの方が新しいのに追いつけないのだ。
(たぶん、「ビンテージ楽器の方がいい」みたいなのもおんなじような理屈なんだと思う)
とはいえ、それでは困るので新たにまたリードを探すことになるのだが、これがまたなかなか簡単ではなく、もうこの数年ひたすら合うリードを探して、5000円以上するジャケ買いみたいなギャンブルを繰り返しては敗退している。
だって、何しろ木なので一回吹いて水分を吸ってしまうともう元には戻らないから試奏することもできないし、もう雰囲気で買って試してみる以外にやりようがないわけである。
しかもバリトンサックスのリードは高いだけではなく、他のサックスに比べると明らかに店に置いてある種類も少ないし、メーカーも少ない。
今日も楽器屋を巡ったが、本当に欲しいメーカーや番手がことごとく置いていず(変な番手が売れ残っていたので、おそらくバリトンのリードなんか誰も買いに来ないから補充もしないのだと思う)、脱力してとぼとぼと帰ることになった。
マイナー楽器のつらいところである。もうこの不毛な無限ループをはやく終わらせて、自分にしっくりくるリードにふたたびめぐりあいたいとせつに思っている。