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書評02_『大学の組織とガバナンス』羽田貴史

    本書は,広島大学や東北大学などで高等教育研究に従事してきた羽田貴史氏の著作である。これまで論文・書籍として発表したり,講演録として活字化されていたりしたものに加筆・修正が加えられ,まとめられている。

   全14章構成で,第1章~第5章は大学の組織に関する論文が収録されている。第4章では大学統合・再編を取り上げ,教員養成大学・学部の統合問題にも言及している。教員養成機関は学校教員の計画養成や研修機能等を担っているため,その統合の可否に関しては財政投入をはじめとする政府の積極的な役割が期待されるべきものである。しかしながら,今日までの施策は具体性に欠き,すべて教員養成機関同士の協議に委ねられてきたとその問題を指摘する。そのデメリットとして著者は「強力な教員養成機関が創出される保障はなく,公教育全体のダメージが危惧される」(p.80)と述べる。

    続く第6章~第9章では,大学の管理運営を論じており,企業的大学経営に関する論考,国立大学法人制度に関する論考で構成されている。独立行政法人化について,その契機や過程,人事及び財務,計画,評価制度を解説し,自由と統制のジレンマを浮き彫りにしている。国立大学法人職員にとっては,自組織を取り巻く制度と課題の理解のためにぜひとも一読いただきたい。

    これらを受け第10章~第14章では,組織を構成する主体に焦点をあて,学長リーダーシップ論や大学職員論を取り上げる。職員の資質能力の向上に関する議論に欠けている視点について「必要なのは,教員と職員を区別した大学職員論ではなく,まず大学管理運営論であり,教員/職員を含めた新しい職員像である。」(p.251)という主張は非常に重要な指摘である。 

    本書には随所に既存の言説への批判的分析が散りばめられている。例を挙げれば,組織論の一般理論を軽視した大学組織論やボトムアップ/トップダウンの二項対立でしか語られないガバナンス論,機関の規模・伝統・文化も関係なく学長に権限と責任を集中しさえすれば組織課題を克服できると考える学長リーダーシップ論…などである。それらは今後,さらなる研究・検証が望まれる領域であり,著者は議論のきっかけを提供しているとともに,高等教育研究者への皮肉と戒めも込めたのかもしれない。
    最後に,「じゃあ,我々はどうしたらよいのか?」という読者の問いに答えるためにも,具体のマネジメント手法に関して,次の著書でさらに論じてもらいたい。

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