大学の将来と若手研究者の未来

日本の大学は潰れる運命にある?

大学ジャーナルONLINEに以下の記事が出た。

国立との統合含め私立大学の再編提言、経済財政諮問会議

政府の経済財政諮問会議で、東京23区での大学増設抑制問題が取り上げられ、民間議員から国立大学との統合や大学運営からの撤退を促す制度作りを求める提言が出た。(記事より。強調筆者)

早い話が「たぶんダメだと思う大学は自分から早めにギブアップすべし」ということである。東京23区内の話かと思ったら、旧帝大以外の国立大はすべて県立大にすべしという意見も出たようなので、日本全国の大学に対する提言なのだろう。

別の記事では次の指摘もある。

大学増設を東京23区で認めず、政府有識者会議が骨子案

東京都の大学進学者収容率は既に約200%と他の道府県より突出して高いうえ、東京23区の大学生は増加傾向が続いていることを挙げ、このままでは地方大学の経営悪化や大学撤退を招きかねないとした。(記事より)

一つ目の記事では「撤退を促す」とあるのに対し、二つ目の記事では地方大学を守ろうとする意図もあるように思える。どういうことだろうか?

結局これは、「東京の大学には放っておいても学生が集まってくる。今後少子化の影響の直撃を受けるのは地方の大学。そうなると大学を潰すしかないから、いっそ早めに潰してしまえ」ということなのだと思う。

※本記事は投げ銭形式です。

少子化によって「消える」大学

ここで立ち止まって考えたいのは、なぜ少子化だと大学が潰れるのか?ということだ。もちろん「昔と比べて小学校のクラス数も減ったみたいだし、大学もそうなんだろう」と、漠然とイメージすることは容易いと思う。

しかし具体的な数字を見たことがある人は、大学教員であっても少数派ではないだろうか。まして院生や若手研究者は知らない人がほとんどだろう。

次の記事を見てみよう。

いよいよ、本格的な大学の淘汰時代が始まる

2015年の120万人が、10年後の2025年には109万人(11万人減)、16年後の2031年には99万人(21万人減)まで減少する予測だ。(中略)2025年までに11万人(大学進学者数5.5万人)18歳人口が減少すると、入学定員400人以下の大学が全国に287校あり、そのほとんどの入学定員分が消滅するというインパクトがある。2031年には、21万人(大学進学者10.5万人)減少するので、入学定員600人未満の大学378校の入学定員数に匹敵する大学進学者が消滅する計算となる。

この記事は、2015年の18歳人口は120万人であり、大学進学率が今後も約50%で推移するということを下敷きとしている。つまり2015年の大学進学者数は60万人である。

2031年には18歳人口が99万人になるが、大学進学率を50%とすると、進学者数は49.5万人となる。これは、2015年大学進学者数よりも10.5万人少ない数字だ。

この記事によると日本には576校の大学があるが、この10.5万人という数字は、そのうちの378校分の入学定員数になるというのだ。言い換えるなら、入学定員の多い大規模校から順番に大学進学者を椅子に座らせていった場合、378校分の椅子に座る人がいないということである。そうなると、この378校は潰れるしかないのは明白だ。少子化によって大学が「消える」とは、こういうことなのである。

もちろん、大学進学率を上げれば、こうした問題は少しはマシになるかもしれない。しかし大学進学率を上げるのは、相当難しいだろう。というのも、学費の高止まりや、奨学金問題など、お金にまつわる問題と密接に関わっているからである。それゆえ、おそらく大学進学率がこれから大きく上向くとは考えにくい。

生き残る大学はどこか?

正直なところ、こうした未来予想がはっきりとしているにも関わらず、危機感を持っている大学教員は圧倒的に少ない。民間の会社だったらあり得ない動きの遅さだ。

14年後には自動車購買者数が10万人以上減る、とか、14年後には海外旅行者数が10万人減る、とか、そういうのがわかってるのに、対策を講じない業界はないんじゃないかと思う。ところが大学だけはとにかく遅いのだ。

問題は、どの大学が生き残るか?ということだ。私が考える生き残る大学を独断と偏見でリストアップしてみた。

【国公立】

北大、国際教養大?、東北大、筑波、東大、東工大、東外大?、首都大?、千葉大、一橋、横浜市(国)大?、名大、名市大?、金沢大?、京大、阪大、阪市大?、神大、広大?、九大、他医科大

【私立】

東北学院大?、早稲田、慶応、上智、ICU?、明治、法政、青学、学習院、立教、中央、日大、駒大、南山、名城?、金工大?、同志社、立命、関大?、関学?、近大?、龍谷、甲南?、西南?、福岡大?、他医薬系の一部

もちろん、これに含まれない大学で生き残り率が高い大学もある。それは間違いない。なぜここにあがっていないかというと、私の中ですぐに名前が出てこなかったからである。(つまりネームブランド力がないかな、と判断した)そして、ここに含まれているが実際は潰れてしまう大学もあると思う。

結局私立大学は、ほとんど大都市圏の有名大学しか残らないと考えている。もちろん地元で有力な私大などもあると思うが、少子化による18歳人口減には太刀打ちできないだろう。

「いま現在、大学改革を実施しているところはたくさんある。生き残るか否かをネームブランドだけで判断するのはいかがなものか?」という反論も聞こえてきそうである。もちろん、各大学が進める改革の内容は魅力的なものも多く、それらが成功した時のインパクトは小さくない。

しかしそれでも自分は、上記した大学以外の多くは残念ながら淘汰される運命にあると思っている。なぜなら、改革に着手するのがあまりにも遅く、かつ改革スピードもあまりにも遅いからである。少子化と18歳人口都市圏流出のダメージが地方私大を崩壊させるスピードは、大学改革のスピードよりもずっと早い。

引用した記事にも書いてあるが、大学改革の結果が出るのは早くても10年かかる。さらに、大学改革が表に出る前に内部で構想を検討する時間も含めると、早くても15年はかかる。

たとえば、2025年に何らかの構想をスタートさせようと思った場合、前年の2024年に入試広報を打たなければならない。すると、2023年度中には文科省から承認を得ないといけない。2023年度に文科省に書類を提出するのだから、2022年度中には書類が完成していないといけない。すると、2021年度には関係部署で協議を進め、部署再編などを含めた書類を書ける段階にないといけない。すると、2020年度までに市場調査などを経て、構想内容を固めておかなければならない。

もちろんこれは理想的な動きであるが、おおむね進め方としては間違っていない。大学は、各種会議は基本的に月1回、夏休みと春休みは教授会が機能しない、運営に関する会議が機能しない、という弱点があるので、どうしても進度が遅くなりがちである。それゆえ、ワンマン経営大学でない限り、どうしても改革準備に時間がかかる。

加えて、2025年度入学生が卒業するのは、2030年3月である。そこから社会人としての評価を受けることになり、ようやく社会から「大学改革は成功か否か(卒業生は使えるか使えないか)」の判定を受ける土俵に乗るのである。1年で社会人の評価が定まるわけではないので、やはり現実的なところではプラス5年は見ておきたい(2035年)。すると、やはりどう頑張っても構想から15年はかかってしまうのだ。

15年もたてば社会は大きく変化し、かつてのニーズが生き残っているとは到底考えられない。普遍的価値を追求する改革なら可能性はなくはないが、現在の改革の多くは短期的なニーズに基づくものが圧倒的に多い。それゆえ、どうしても改革内容の賞味期限は短い。常に改革をし続けられれば良いが、そんな体力がある大学はほんの一握りであろう。結果としてネームバリューのある大学に人が流れ続けることになると思う。

若手研究者の未来

若手研究者は、あと十数年で就職先が激減するという危機感を持つ必要があるだろう。もちろん、リストに出てこなかった大学に在籍する教員も、運が悪ければ大学倒産→失業の憂き目にあうことを覚悟しなければならない。

したがって、院生やポスドクなどの若手研究者は、上述した大学に就職することを目指すのがいいだろう。目指すのがいいというか、目指す以外に道はないと言った方が適切かもしれない。最低でも、日東駒専、愛愛名中、産近甲龍クラスには就職したい。他の大学でも就職後すぐに潰れるということはないと思うが、定年までの約30年の長きにわたって雇用されるかどうか、退職時の退職金を満額もらえるかどうか、研究費が十分にあるかどうか、などを考えると、このクラスに入っておく必要がある。

生き残る(と思う)国公立大および私大のポストは、絶対に取るという気持ちで公募に挑んでほしい。しかし、現実的な問題として、基本的にポストが空かないと公募が出ない。つまり、教員が退職するか亡くなるかしない限り、ポスト獲得競争がはじまることさえないのである。

今はとても良い時期で、団塊の世代の教員が次々に定年を迎えている。空いたポストには、若い新任の教員が次々に入ってきている。平均年齢はグッと若返り、とても活気がでてきている。逆に言うと、団塊世代の退職が落ち着くと、公募の数は格段に減ってしまう。おそらく今後10数年以上、公募が出ない学部も出てくるだろう。特に、定年退職しても補充人事を出せず、ほかの領域に人事枠を回すことが予想される学部学科(たとえば美学、数学など?)は、20年近く公募がでないことも十分あり得る。つまり、一定レベル以上の大学のポストが空き、そこを獲得することができない限り、若手研究者に安定した未来はないのだ。それゆえ、いま公募に出せる人は絶対にポストをつかみ取ってほしい。ポストを手に入れるチャンスは、大学数激減と団塊次世代のポスト占有率上昇に伴って、今後確実に少なくなっていく

さいごに

現存する大学がすべて残る未来は考えられない。このままだと、少なくとも半分以上の大学が確実になくなる。本当であれば、生き残るための改革を打ち出しさえすれば良いのだが、実際の大学改革は動きも遅く時間もかかりすぎる。それゆえ、若手研究者は最初から生き残るのが確実な大学に職を求めた方が無難である。

では、そのために何をすればいいか?

手前みそだが、ぜひ私の記事を参考にしてもらいたい。大学公募シリーズの1,2,3もいいが、院生や若手には次の記事を特に読んでもらいたい。

どちらも就職に直結する内容になっているが、特にこれから活動を本格化させたいと思っている若手にこそ読んでもらいたい。また、『5:学会参加の仕方編』は、今年公募に出す予定の人にとっても重要かもしれない。

大学教員になるのは、いまは本当に難しい時代になってしまった。ただ大学教員になるだけでなく、将来も安定した大学教員の座に就こうと思ったら、ほとんど雲をつかむような話かもしれない。

しかしこれが「公募」である以上、戦略は必ずある。積極的に情報を集め、先輩や知り合いの先生に積極的にアプローチし、多角的で長期的な視点を持ちながら、一心不乱に勉強をし、最後に必ずアカポスを勝ち取ってほしい。

追記

ちなみに、どんな策をもっても学生の東京一極集中は避けられないと思う。というか、この諮問会議が本気で一極集中を回避しようとしているとは思えない。結局、一極集中を避ける議論を隠れ蓑に、大学の再編淘汰を進めようとしているのだと思う。

もし東京一極集中を解消したければ、話は単純で、東京から大学を無くせば良いのだ。早稲田は島根、慶応は青森、上智は秋田、明治は山梨、という風にすればすぐに解決する。

それが極端だというなら、大学の授業はすべてオンライン型として、キャンパスに通うという既存のシステムを原則廃止すればよい。アメリカではすでにこうした形態の大学が高い評価と優れた結果を生みはじめている。

もちろんそれに伴う問題は大きいが。





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