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晴読雨読

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晴レノ日モ雨ノ日モ、私ハ本ヲ読ム
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2021年1月の記事一覧

読後感想文:『消滅世界』

正常ほど不気味な発狂はない。だって、狂っているのに、こんなにも正しいのだから。(河出文庫・p.248)  今わたしが生きているこの瞬間は、何か意味があるのだろうか、そしてこの先何が待ち受けているのだろうかと思うことがある。その延長線上の思考の中に、わたしがわたし自身たりうるその存在を築き上げているのは、いったい何なのだろうかとよくわからなくなってしまう。  昔何かの紹介番組の中で、村田沙耶香さんの『殺人出産』という本の特集を見た。その時に一度読んでみたいと思ったまま、その

劇的でないながらも、じわりと滲み出る空気感。

映画で特別な盛り上がりを見せる場面がないと、ややもするとどこか退屈しきった展開になりがちだ。その点、小説だと得に大きな転換期がなかったとしてもなんとなく物語の中に誘われてしまう、そんな作品がある。 先日書いた記事の中で、音楽繋がりということで『羊と鋼の森』という調律師に関する作品について触れたのだが、それ以外にもどこか淡々としながらも主人公の人柄のようなものが滲み出ていて、どこかその人の人生を一緒に生きているような世界観がじわりと感じ取れる作品がいくつもあったということを思

さくら

ああ神様はまた、ぼくらに悪送球をしかけてきた。 ★ 西加奈子さんの『さくら』を、久しぶりに読みました。 昔読んだ時も、なんて瑞々しい描写なんだろう!と思っていて、ずっと心の中に残っていた作品の1つです。元々は本屋大賞に選ばれた『サラバ!』という本を読んで衝撃を受け、その後別の作品を読むようになり、最終的にたどり着いたのが『さくら』。 最初読んだときには、とにかく主人公の兄ちゃんのエピソードが強烈で、それがずっと心の奥底に燻っていました。タイトルの由来となっている、犬の