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鮭おにぎりと海

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連載短編小説『鮭おにぎりと海』のエピソードをまとめたマガジンです。
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記事一覧

鮭おにぎりと海 #1

ふと、空を眺めてみた。 まごうことなくどこも欠けていない、完璧な月が中空に鎮座していた。…

鮭おにぎりと海 #2

<前回のストーリー> ある日、いつも無口な三角家の店主・欽(きん)さんが、こう言った。 …

鮭おにぎりと海 #3

<前回のストーリー> 文字を書いていたシャープペンシルの芯がポキッ、と弱々しい音を立てて…

鮭おにぎりと海 #4

<前回のストーリー> 大学に入学してから早くも9ヶ月程度経ち、なんとなく新しい環境にもす…

鮭おにぎりと海 #5

<前回のストーリー> いつの間にか、季節は夏から秋に変わり金木犀の香りがわたしの鼻腔を…

鮭おにぎりと海 #6

<前回のストーリー> 「キミ、ネッシーってこの世に実在すると思うかね?」 突然目の前に現…

鮭おにぎりと海 #7

<前回のストーリー> 気がつけば、俺の周りはみんな下ろし立ての黒い画一的なスーツに袖を通し、輝かしい将来を掴むために必死に動き回っていた。その姿は、側から見たら均一的で無機質に感じてひどく滑稽なように思えたし、一方で自力で新しい日常を手に入れようとしていることに対して焦りももちろん覚えた。 自分の中でぐらりと価値観が変わってしまったのは、間違いなく昨年の夏だった。今も時々顔を出す、三角家というラーメン屋。そこの店長であった欽さん、彼は普段は本当に店のマスコットのように黙々

鮭おにぎりと海 #8

<前回のストーリー> 一種独特の匂いが、鼻をつく。どこか据えた匂い。あたりは砂埃が舞って…

鮭おにぎりと海 #9

<前回のストーリー> 蒸し暑さの中でも、流す汗は不思議と気持ち悪さを感じなかった。 俺が…

鮭おにぎりと海 #10

<前回のストーリー> 大学生になって、それまでよりも行動範囲がぐんと広がって、自分がどこ…

鮭おにぎりと海 #11

<前回のストーリー> 平日の夜は、割と同じような光景が見られる。くたびれたサラリーマンや…

鮭おにぎりと海 #12

<前回のストーリー> 大学2年の春、アルバイトではあるけれども塾講師として本格的なデビュ…

鮭おにぎりと海 #13

<前回のストーリー> 「あ、試食の人。」 思わず、という感じで私は無意識下に彼のことをそ…

鮭おにぎりと海 #14

<前回のストーリー> 外はしとしとと雨が降っていた。周りを見渡せば、みんな思い思いの傘をさして歩いている。男の子は、その大半が安っぽいビニール傘を持って歩いていた。校舎の脇には紫色の小さな花をいくつも連ねた紫陽花が咲いている。 いつもであれば、大学入学した時に仲の良くなった楓と一緒にお昼ご飯を食べているのだが、その日は彼女は私用があるということで学校に来ていなかった。他の女の子を誘っても良かったのだが、たまには学食でひとりご飯を食べながら空き時間で本を読むのも良いかと思い