そうだ、マンガ雑誌を読もう―読書月記8

『性からよむ江戸時代』を読んでいたら、千葉理安という一関藩に住んでいた医師の話が出てきた。そこで思い出したのが、同じ一関藩の藩医・建部清庵。ただ建部清庵と名乗ったのは5人ほどいて、この場合は由正(1712~1782)のこと。『民間備荒録』や杉田玄白との往復書簡『和蘭医事問答』などで知られており、清庵の子・由甫は杉田家の養嗣子となり伯元を名乗っている。また、大槻玄沢の師でもある。
一関には縁故もなく、医師でも医学史の研究者でもない私が建部清庵について知ることになったのは、みなもと太郎氏のマンガ『風雲児たち』のおかげである。
同作は1980年から「コミックトム」で連載が始まり、紆余曲折があったものの、現在では「コミック乱」で『風雲児たち 幕末編』として連載されている。本来は幕末を描くべく始められたが、著者は幕末の薩長と幕府の対立の「根」は関ヶ原の戦いにあったとして、そこからスタート。会津藩と保科正之までは潮出版社のコミックで第4巻までだが、18世紀後半の田沼時代と蘭学勃興期を描いた第5巻あたりからどんどん描かれるエピソードが増えて、連載期間と巻数が増えていった。
個人的には、この第5巻の蘭学勃興期あたりに最も惹かれている。戦国時代と幕末以外には興味がなかったのに、18世紀後半から19世紀前半という時代に、また蘭学と江戸の出版に強い興味を持つようになったのは、この作品との出会いを抜きにしては考えられない。建部清庵にしても最上徳内にしても、『解体新書』『三国通覧図説』『民間備荒録』『大疑録』などを刊行した書肆・須原屋市兵衛を知ったのもこの作品の存在があったからだ。

なお、この作品を知ったのは「コミックトム」だが、もともとはほかの作品を読むために買っていた。星野之宣氏の『ヤマタイカ』である。こういったケースはちょこちょこある。成田美名子氏の『あいつ』を読むために買っていた「LaLa」で出会ったのが森川久美氏の作品だし、『ぼくたちの疾走』を読むために買い始めた「漫画アクション」を同作が終了した後も買い続けていたら『坊っちゃんの時代』が始まった。やはり星野氏の作品を読むために買っていた「ビッグコミック」では、高瀬理恵氏の『江戸の検屍官』に出会った。
今はマンガ雑誌を読まなくなってしまった人が増えているようだが、このような出会いを求めるのなら一つでも二つでもマンガ雑誌を買った方がいい。どこに自分にとって大事な作家や大事な作品があるのかなんて、分かっている人なんていないのだから。

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