新刊書は発売日に買いたい―読書月記22

(敬称略)

本をいつ買うのか。
やや奇妙な問いだが、好きな作家の新刊、好きなシリーズ作品の最新刊であれば、発売日当日に買いたいと思っている人は多いのではないだろうか。例えば、村上春樹の新作や『鬼滅の刃』の最終巻がその典型と言える。
もちろん、発売日に買うといっても、日本全国津々浦々どこでも可能なわけではない。本や雑誌の発売日・刊行日には地域差がある。例えば、11月10日(水)発売となっている書籍、コミックス、雑誌の場合、東京で10日に買うことは可能だが、九州や北海道では難しい。全国一斉に発売日を揃えるためには、地方に商品を届けるために1~3日程度の輸送日が必要になるが、そうなると、発売日よりも早い段階で取次に商品を入れなければならない。ところが、それを東京などの書店に送れば、「発売日」よりも数日早く店頭に並ぶことがある。以前、月曜日発売の「少年ジャンプ」が前週末に売られていたことがあったが、こういったケースだった。
しかし、東京の書店でも「発売日」に本が店頭にない場合がある。今はどうか分からないが、1990年代、当時都内に住んでいた私は、書店の店頭でその日が発売日である本を探し、見つけられなかったことが幾度となくあった。発売日通りに並ぶ本もあったので、その書店に本が入ってくるのが遅いというわけではなかった。というのも「発売日」というのが曲者なのだ。ある出版社(営業部)に尋ねたことがあるのだが、その出版社は取次への納入日を「発売日」としていた。その出版社のPR誌に記載されていた「発売日」とはそういうことだったらしい。そして「発売日」に取次に納入されたとしても、その時間帯などによっては東京都内といえども、その日に書店の店頭には並ばないこともある。一方で、違う出版社の場合、様々なお知らせに記載された「発売日」よりも早く店頭に並ぶこともある。これは単純に、納入が早かったからだ。

当時、「発売日」を気にして早く本を入手したがっているのは自分を含めそれほどいるはずがないと思っていた。しかし、上に書いたように、そういった人は意外に少なくない。Amazonや楽天で、発売日前の本を予約すると、東京からそう遠くないところだと、発売日かその翌日につく。以前からこの状況が続いており、それが堅持されているのを見ると、需要がそれなりにあるのだろう。
ただ、今は分からないが、こういった人が一定数いることを理解できてない出版関係者が少なくなかったことだ。内容がすぐれた本、面白い本を作れば、それでいいはず。地方の人が入手できるのが数日遅くなるからって何が問題なのか、と声に出しては言わないけど、そんな風に考える出版関係者は今でもいるだろう。そこまで思わなくても、「発売日」とか読者が入手できる日のことをちゃんと考えている人が圧倒的に多くなったとは思えない。ところが、ネット書店は「発売日」もしくはその日か間をおかずに届けることだけではなく、注文から本が届くまでの時間もできるだけ短くしようとしている。考えてみれば、新刊書だけではなく、書店に注文した本が2週間ぐらいたたないと届かない、といった不満はネット書店ができる前から根強くあって、そのことに対する不満も、いち早く本を届けるネット書店の隆盛にも繋がっている。
一方で、コミックスなどは初動、特に発売日から1週間程度の売り上げが増刷に強く影響しているらしい。これはツイッターに流れてくるマンガ家が編集者から聞いたこととしてツイートしている。
まあ、現場では肌感覚で感じているというか直面していることが、会社組織全体の中に反映されないのは珍しいことではないので、こういった矛盾があるのも仕方ないのかもしれない。

以前「「本が売れない」ことについて、一消費者として考えてみた」や「販促と転売ヤー」にも書いたけど、出版関係者が地方の読者が置かれた状況について、極めて理解できてないというのが私の考えだ。
発売日に入手したとして、その本をその日に必ず読むとは限らない。しかし、それでも発売日もしくは日を経ずに入手したいという読者が地方にいることも忘れてもらいたくない。
書籍の市場規模として考えたとき、都市部、特に大都市部と比較して地方の割合は低い。学術書や社会科学・人文科学などのいわゆる硬派の本は、人口比以上に東京で購入されることが圧倒的に多いことも想像がつく。それでも地方を忘れてもらいたくない。
これも幾度となく書いてきたが、電子書籍はその不満を払拭してくれる。何もかもを電子書籍で読む気にはならないが、とにかく早く読み始めたいので電子書籍に手を伸ばしている場合があることも、出版人は頭の隅にでもいいから留めておいて欲しい。

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