1965年のインドネシアでの大量殺戮を、今の世界を構築したものとして捉えなおす力作―『ジャカルタ・メソッド 反共産主義十字軍と世界をつくりかえた虐殺作戦』(ヴィンセント・ベヴィンス/河出書房新社)
1965年10月のインドネシアのクーデターとそれに続くインドネシア共産党(PK1)に対しする殺戮行為については強い興味を持っていたものの、刊行時点では気付かず、やや遅れて入手した。この事件については、倉沢愛子氏の著書『9・30 世界を震撼させた日』『インドネシア大虐殺』で基本的な事実などは把握できる。ただ、本書はこれに加え、中南米のグアテマラ、ブラジル、チリや同じアジアの台湾や韓国、中近東のイラクなど起きた事件などを加えて、戦後社会のなかでアメリカが、諸外国にどのように干渉し、どのように自分たちが望む国家を形成させてきたかを、書名にもなっている「ジャカルタ・メソッド」という言葉を鍵にして描いたものである。
著者は新聞記者としてブラジルやインドネシアに滞在したこともあって、現地の人たちに粘り強い取材を行っている。なかでもインドネシアでは、クーデターについてはいまだにタブー視されていることもあって、通訳を介していては取材が難しいことから自身の会話能力などを磨いて話を聴きとっている。
第二次世界大戦後、多くの植民地は解放され独立した。しかし、アメリカは自身が気に入らない政体を選択しようとした「第三世界」をどれほど苛んできたのか。本書意外にも、その具体例は『アメリカ戦略全史』で描かれているし、政体がひっくり返ったときに、シカゴ学派の影響が強い経済政策を選択させられた場合の状況は『ショック・ドクトリン』を読むと分かる。基本的人権と民主主義を蹂躙され、国や国民の富を「収奪」される。そういった意味では、「絶滅」という言葉が相応しい政策なのかもしれない。
なお、本書では共産主義体制下の虐殺行為についてはほとんど触れられていない。ただ、それは著者の政治的偏向によるものではなく、324ページに書かかれているようにそれらが現代社会を直接構築したものではないからだ。もちろん、歴史を学ぶ場合、そういった事象も忘れてはならないだろう。しかし、現在の世界において「忘れさせられている」「知らされていない」のは「私たちが生きている社会」を「直接構築」したともいえるインドネシアのクーデター後の殺戮行為とそれを「模範」としたCIAやCIAが唆して当事国の軍部などが行った残虐行為なのだ。日本人も含め多くの人が観光に訪れるバリ島こそがその象徴と言えるだろう。
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