「ほな、さいなら」感想。

「ほな、さいならって最期。あれなんや。親子の別れで、あれだけ言われて、俺どうしたらえぇ」


良い台本だったな、で済ませたくない、良い台本だった。
観終わった今でも、頭の中で野村さんの「ほんだらそろそろ去ぬわ」の歌声が響いてる。

最後の最後、幼馴染も、姉も居なくなって、お母ちゃん(雍子ちゃん)と二人になれて、抜け駆けして一番乗りで甘えだす末っ子な雄二が愛らしい。今日一日、ここまで頑張ってたもんなぁ。
「聞いてやお母ちゃん。俺な、ずっとなぁ、聞いてほしかってん」
野村さんの歌うブルースに紛れて、でもしっかり聞こえた声は、雄二の抱えていた、もうどこも吐き出せないと思っていた気持ちなのかもしれない。お母ちゃんの言う「雄二は責任感の強い子だから」って言葉から想像するに、責任感が強いからこそ、なんとか自分も悲しい中で、一生懸命場を整えようとしてたんだろう。悲しい、悔しい、淋しい、腹が立つ、行き場のないやり場のない沢山の感情を抱えて、それでも自分しかやる人がいないから。だから必死に自分を誤魔化して喪主を務めてたのに、お母ちゃんにそっくりな雍子が来たからその感情が爆発してしまった。

野村さんの書く物語が好きだ。漫才が好きだ。文章が、言葉選びが好きだ。

亥の一番に雍子をお母ちゃんに見立てて感情を吐露した博信も、昭徳も、正見も、みんながみんなお母ちゃんが大好きだった。シャバシャバのカレーに具が少なくても、お金が勿体ないからって自分の店に来てくれなくても、無責任に人の人生応援してても、碌に息子が話聞いてくれなくても、いつだって正しいことしか言わなくても、それでも大好きだった。
自分によく似てて、喧嘩別れして家を飛び出していった娘の部屋を何も言わず、きっと帰ってこないけど、それでもいつ帰ってきてもいいように部屋を掃除しておいてくれたり、写真を撮られるのが恥ずかしいところも、今際の際でも恥ずかしがって有難うが言えないのも、全部愛情と優しさと可愛らしさに満ち溢れてた。
そんなお母ちゃんの話を全部聞いてたから雍子はあんなに個人個人にぴったりの言葉を投げかけられたんだな。また食べに来て欲しいなぁ、奥さん大事にしてくれたらえぇけど、よう頑張ったわ。袈裟も似合うてんねやろなぁ、私が死んでも悲しまんで欲しいねやんか。あの子やったら大丈夫やから、也寿子には酷いこと言うてもうてホンマにすまんかったと思うてんねん、なんて全部雍子に伝えてたのかもしれない。家族の話も、息子の友達の話も、全部全部聞いてもらってたのかもしれない。友達の最後の言葉を、遺言を果たしにやって来た雍子も、きっとお母ちゃんが大好きだったんだろうな。
雍子がお母ちゃんの気持ちを代弁して語る最後の場面もお母ちゃんと沢山練習したんだろうなぁ。イントネーション合ってますか、こんな言葉でいいですか、ちゃんと私にできますかね、って沢山。
お母ちゃんの愛はちゃんと伝わってて、抜けてて優しいコウイチ兄ちゃんも帰ってきて、最後に子供たち全員が揃ったのが何よりの証だと思う。

気ぃ遣いの雄二が雍子を座布団の上に促して自分は直に座るところも、雍子の「どないしてん」を聞いて張ってた糸が切れて小さな子供みたいに途切れ途切れに話切り出すところも、全部登場人物が生きてて最後まで感情を揺さぶり続けられた。
お葬式をシリアスにコミカルに演じる舞台は過去に何作もあるし、題材こそありきたりかもしれないけど、行定監督も仰っていたけど、このメンバーにしかない一つの空気が出ていて本当に本当に素晴らしかった。

「アンタら残して先に逝く。こっちの身にもなってな。ほんでもこれは順番や。ほんでもう、今日は、ありがとうな。ほんだらそろそろ去ぬわ」
「飯食ったか、歯磨いたか、風呂入れ布団は入れたか。それが出来たら上等や。人はそれが出来たらもうえぇねや。ほんだらそろそろ去ぬわ」

耳で聞いただけで一部歌詞は違うと思うけど、みんなから愛されてたお母ちゃんの姿が想像出来る良い歌詞。恥ずかしがりで、逞しくて、心強くて、格好良くて優しい、どこにでもいる立派なお母ちゃん。
確かに標準語は凛として涼しく聞こえるかもしれないけど、関西弁は人情味があって温かい良い言葉遣いだよなぁ。だから小さい頃から関西弁が好きなのかもしれない。
勿論、標準語が冷たいって訳じゃないけど、関西弁も地元の沖縄訛りと似て温度が感じられるから。かもしれない。
それにしても本当に素敵な良い作品だった。東京でやる予定だった三日間。休みズラして、有給申請して、滅多にない機会だから一日一公演ずつ観ようと楽しみにしてただけに中止は残念だったけど、こんなに素敵な世界を造る人たちの身に万が一があっちゃいけない。生きていれば何度でもまた観るチャンスはある。楽しみが先延ばしになったと思えばいいだけの話だ。
ほな、さいなら。……で締めたいけど、そんなことしたらきっと雄二たちに「スベッてるわぁ」って笑われそうだからやめておこ。
いつかちゃんと、舞台の上で動いている皆さんを目の前で観れますように。

野村さんの書く文章が本当に好きなので、野ーto.の更新、期待せずにのんびり待っていよ。

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