自称「投資のプロ」に要注意
YouTubeやXなどで個人投資家向けに投資の情報発信をしている人はたくさんいます。例えば〇〇投資顧問の〇〇さん。投資顧問会社と聞くと「投資のプロ」という印象があるかと思いますが、会社によって行っている業務やサービスの質には大きなばらつきがあります。
投資顧問会社の「ライセンス」
金融商品取引業の中でも「投資運用業」または「投資助言・代理業」、あるいはその両方を行っている会社を「投資顧問会社」と呼びます。投資顧問会社は金融商品取引業者としての「登録」を行い、日本投資顧問業協会に加入する義務があります。
上記のウェブサイトには同協会の会員数の推移が載っています。顧客から資産の受託を受けて一任運用を行う「投資運用会員」は345社、資産の受託は行わず投資助言(情報提供)だけを行う(情報に従った投資をするかは顧客の任意)「投資助言・代理会員」は832社もあります。「投資運用会員」は顧客から資産を一任されて運用するため登録する際の条件が厳しいですが、「投資助言・代理」の方はややハードルが低くなっています。そのため極端な場合「社長一人」(他の構成員は家族等)の会社でも登録できてしまいます。投資一任がなく「投資助言・代理」だけの会社は、大手金融機関が証券業などの傍らこのライセンスを持っているようなケースから、個人商店のようなケースまで、大きな開きがあるのです。
投資運用と投資助言の違い
投資運用業者の場合、その主な顧客は生保や年金など機関投資家である場合がほとんどです。例外としては証券会社が兼営する「ラップ業務」で、これは一般個人顧客をターゲットにしています。顧客から資産を受託して一定期間(1年から5年、長ければそれ以上)運用を任せられる立場ですから、会社としてガバナンスやコンプライアンスがしっかりしていることが求められます。また顧客資産を運用するファンド・マネジャーも学歴や職歴、保有資格などを顧客に公開するのが普通です。最も大事なのが会社としての運用実績(パフォーマンス)であり、目安となるベンチマーク(市場インデックス)と比べて長期の運用実績がどの程度優れているか、を一定の法則にしたがって顧客に開示しています。
一方の投資助言業者も、しっかりした態勢の会社であれば投資運用業者同様のガバナンスを持ち、顧客にも過去の投資助言を実行した場合の運用実績をつまびらかにして勧誘をします。しかし数が多いだけにそのサービスの質はピンからキリまであるのが現状です。投資運用業を兼営しない投資助言だけの会社の場合、ニュースレターを商品として販売するケースがあります。一般の個人投資家の眼に触れやすいのはYouTubeなどで個人向けの動画配信をしている投資顧問会社のニュースレターサービスです。こうした個人向けニュースレターの中には、もっともらしい株式相場やFXの予想などを載せてさも正確に「予想を当てられる」ような雰囲気で個人を巧妙に引き付けるケースもあります。
ニュースレター業者は、ちょっと・・・
個人顧客のみを相手にニュースレターの配信やレクチャーだけをやっている投資顧問会社で、自社の投資助言に従って運用した場合の運用成績を公表していない会社は、軽々に信じていい業者ではないと思っています。というのも、本当に再現性のある投資戦略を有しているのであれば、投資運用業者として機関投資家からの受託実績があるはずだからです。ニュースレターしかやっていない場合でも機関投資家が購入するようなものであれば付加価値はあるでしょうが、プロに相手にされないので個人を相手に商売をしている業者は、正直・・・と言う感じです。
ウェブサイトに掲載されているニュースレターのサンプルを見ると、株価チャートなど、昭和っぽいテイストだったりします。これではプロには相手にされないでしょう。
AIJ投資顧問事件
だからといって「投資運用業者として一任資産を持っていれば信頼できる」と必ずしも言えないのは、2011年に明らかになったAIJ投資顧問の事案があるからです。AIJ投資顧問は、証券会社の営業マンであった人物が創業し社長を務めた会社で、主に旧厚生年金基金を顧客として多額の一任資産を集めていました。同社が得意とする投資戦略は日本株インデックスのオプションを売買して付加価値を積み重ねるというものでしたが、同業他社や業界メディアである「年金情報」は早くから「そんな戦略でこの運用成績は出ない」そして「この会社は怪しい」と見抜いていました。
しかし顧客に対して報告された運用成績が優れていたため、年金財政を改善したいと悩む年金基金の担当者はこぞって同社に運用を委託したのです。リーマンショックの後に、現金化をしたいと申し出た顧客がおり、そこから同社の「うそ」が露呈したのです。同社は当局検査の後、解散しましたが、顧客は多大な損失をこうむりました。
この事件を教訓に、年金関連の法令が改正され、運用知識が必ずしも豊富とは言えない厚生年金基金は国に「代行返上」を行って公的年金の代行運用部分を返還し、解散するケースが相次ぎました。いまでは厚生年金基金で存続している基金はわずかとなっています。また金融商品取引法も改正され、AIJ投資顧問のような詐欺的「運用」は行いづらくなりました。
投資顧問会社への検査・モニタリング
こういう状況になってしまった背景の一つが、投資顧問会社への当局検査がめったに行われないことです。AIJ事件の後こそ投資一任業者にはいっせい検査が行われたものの、投資運用業者や助言・代理業者への証券取引等監視委員会(SESC)の検査は、10年に一度あればいい方です。投資信託の運用を兼営している会社であれば、投資信託協会の検査が追加でありますが、投資顧問業協会は会員の立ち入り検査を行わず、年一回のオフサイトモニタリング調査を行うだけなので、筋の悪い業者をあぶりだすのは至難の業です。そのため、投資家自身がが目を光らせて自衛をする必要があると言えます。
投資顧問業者が開業の際に「登録」する場合、代表者のこれまでの職歴などを当局に提出する必要はありますが、AIJ投資顧問の例に見られるように、これまで一切運用経験のない人物が代表者・運用責任者であっても登録はできてしまいます。現在登録している投資顧問業者の代表者の履歴を見ても、投資運用経験について全く言及していないものがちらほらあります。
怪しいと思ったら通報を
つまり、金融庁や関東財務局に業者としての「登録」があることは、投資顧問会社のサービスの質の保証にはならないということです。無登録の業者は論外ですが「登録」すなわち「優れたサービス」の証ではないのです。個人投資家が投資顧問会社のサービスを利用する場合は、運用実績や代表者・運用責任者の履歴などを十分精査し、機関投資家も買っているサービスなのか、そうでなければどこが具体的に優れているのかを慎重に検討しましょう。
個人投資家の皆さんは、YouTubeなどで「自称投資顧問」の動画を見る機会があると思います。もし動画や購読したニュースレターに、投機的な取引を示唆するもの、早耳情報による投資を呼びかけるもの、相場操縦のような不公正取引を示唆するもの、特定の金融商品のみを継続して薦める(どこかとタイアップしている?)など、怪しいと思う点があれば、ぜひSESCに通報をしてください。通報は以下の窓口から簡単にできます。
(終わり)