私の男 20220912

『私の香り』だと思った。
揺れて擦れた葉、
蜜蜂が体中に纏った花粉、
太陽に温められて土から蒸発する水分……
濃厚な匂いに混ざって、私へ届いた微かな香り。

香りを頼りに行き着いたのは、一人の男の人。大きな木々が作る涼しげな日陰で、とても気持ち良さそうに本を読んでいる。
紙をめくるほっそりとした指。
眉間に寄せられた微かな皺。
本に集中するあまりに、その大きな体はとても無防備に見えた。
揺れる木漏れ日を受けながら本を読み続ける、少年と大人が入り交じったような男の人。

私は『私の香り』ではなく、
『私の男』に出会ってしまった。

彼の作り出す景色を壊すことなく、
私も景色の一部になりたいと思って、
足音を立てずにそっと近づき、
ベンチの端に座った。

木々の間から溢れる光が、足元で揺れている。
ここ、こんなに気持ち良かったんだ。

隣の彼と同じように、私も鞄から本を出して読み始めた。

どのくらいそうしていたのだろう。
彼が作り出す景色を壊したのは、雨だった。
ポツリポツリと振りだした雨は、やがて本降りとなった。
『雨宿りに行きましょう』
と彼が言った。
昔からの友人に話すように、自然に。
私の生活も人生も掻き乱して変えてしまう男と私は、こんな風に穏やかに、始まった。


キムナムジュンの誕生日によせて

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