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【書評】悩みどころ 逃げどころ①

社会派ブロガーのちきりんさんと、プロ格闘ゲーマーのウメハラさんの対談。

論点が面白く、①学校教育はどうあるべきか、②人生はどうあるべきか、という観点で議論がされている。

ちきりんさんのブログは、もう5年以上前によく読んでおり、好きなブロガーだったが、最近、面白そうな本を矢継ぎ早に出版されており、その前段で過去の書籍でも読んでみようかな、と手に取った。(アマゾンの口コミが高かったのも後押しされたきっかけ)

結論、非常に面白かった。

所謂、学歴社会のエリートを歩んできたが、結局はそのレールから外れたちきりんさんと、学歴社会のレールにはのらず、14歳でゲームの世界チャンピョンとなり、大学に行かずにその道を極めたウメハラさん。

考え方や意見が180度異なる二人の対談は、お互いに忖度することなく、ただ、互いに相手の意見をかみ砕きながら、それぞれの意見を尊重し、ぶつけあうことで、読者が、必ずどちらかの意見に賛同しながら読み進めることが出来る作りになっていた。


個人的には、いわゆる学歴社会でいういいルートを歩んできてはいるものの、「自分のあたまで考えた人生選択」をした経験が極めて少ない自分にとっては、どちらの意見も刺激的だし、納得のいくものばかりであった。

人生の選択に悩んでいる場合には、ぜひ、手に取ってみるといい書籍だと。個人的には思いました。

なお、これは個人的な話ですが、本書を読んで、いわゆるエリートと言われる会社のレールから脱線する人生を選ぶことに対して、踏ん切りがついた。もともと決めてはいましたが、今の会社を辞めて、転職します。


以下、本書の中であったいくつかの議論について簡単に触れたいと思う。

〇学歴社会の厳しい現実

高卒など、学歴社会により差別を受けた経験がある人は、間違いなく、大学にはとりあえず言っておいた方がいいと、アドバイスはする。損はしないので。レジの金が盗まれると、学がないやつが真っ先に疑われる。企業の採用面接にすら進めない。

ただし、「大学さえでておけば」ではなく、「大学くらいは出ていても損はない」程度の話ではある。

ただ、若いころからやりたいことが決まっていて、それに向けて突き進むことを否定するものではない。自己決定しているかどうかが大事。

自己決定するほどの覚悟も意思も努力する力もないのであれば、とりあえず、勉強することは損ではない。


〇思考停止を進める学校

学校では「なぜ勉強をするのか」「なぜ〇〇をするのか」を教えてくれる機会が少ない。それがないがゆえに、嫌いになる場合もあるし、ただ言われていることを言われている通りにやる人間が量産されがち。「質問をする力」が極めて弱いように感じるのも、この学校教育が原因の可能性がある。(アメリカのゲーマーは、実力がなくても、具体性をもって、細かい粒度の質問が出来る場合が多い、とコメントされていた)

何もかもをそつなくこなすことが出来る人を優秀、だと規定すると、効率的な教育かもしれない。

また、「何が評価されるのか」の基準が、学業の点数、と明確であるので、無駄に考える必要がなく、求められていることを、求められている通りにやる能力が身につきやすい。

それはつまり、色々と試行錯誤して、はたして今自分がやっていることに意味があるのか、と疑問をかじるよりも、そんな「無駄?」なことをしている暇があるなら、提示されたわかりやすい目標に向かって、最短で努力をする方が効率的、という結果に落ち着いてしまう。


〇結果が大事か、プロセスが大事か

ウメハラさん:プロセス、ちきりんさん:結果

これは「周囲から何を求められているか」をゴールに考えると面白い。

例えば、ゲームの大会では、試合に勝つことだけを考えてやるのでは、最終的には自分に賞金が入るかもしれないが、しょうもない勝ち方をしても、ゲーム業界全体は盛り上がらないため、意味がない。よって、勝つまでのプロセスや、観客を魅了するためのプレイなど、ただ勝つためだけにやるのではなく、魅了するためのプロセスなども重要となる、とウメハラさん。

ビジネスではとかく、結果が重要視されるし、プロセスを重要視することは、頑張りを評価する事であり、わかりやすいのである。しかし、ここに逃げ込んでいては、得られるものがない、とちきりんさん。

最終的には、「結果」を何と定義するかで、「結果」は「市場で何が求められているか」を把握し、そこに価値を提供するのが、結果であり、単発で見られるものではないのかもしれない。アスリートの言う、「意味のある負けだった」は、まさにこれ。


〇日本全体のレベルを上げるためにやっていること(ゲーム業界も自動車業界も)

アメリカは短期的に賞金の高い大会があり、国内で知見を共有して切磋琢磨するという雰囲気が、ゲーム業界では少ない。

日本は、(というかウメハラさんは)、自分の知見や技をどんどん開示して、自分と切磋琢磨できる仲間を増やすし、団体戦とかも強くなる。

高度経済成長期の自動車産業などの製造業では、上記と同様の戦略でも同じことがあった。

おなじ事情の中で自分の会社が一番になればいいのか、業界全体のレベルを上げるのかで、戦略が異なってくるのと同じ考え方。

高度経済成長期の日本は、欧米においつけおいこせ、なので、日本の国内市場の各企業が、国内で1位争いをしていても(トヨタが日産に勝つためイン・・・など)しょうがなかった。だから、KAIZEN等、自社のもつ技術を他社にも無償で開示しながら、オールジャパンで戦ってきた。

上記、考え方は、これまで製造業などで活用されてきたが、国内需要のみを考えていたサービス業やITの分野では、あまり用いられていなかった。

今後は、上記と同様の考え方で、海外に打って出ることも大事になってくるのではないか。(農業も、ノウハウを開示して、オールジャパンで戦えないかなぁ)


早くいくなら一人で、遠くに行くならみんなで、ってことわざにも近いですね。

〇ネットでは学べないもの

ゲームはオンラインが普及したので、現地のゲーセンに行かなくても効率的に強くなれるけど、そういった人は、勝てはしてもスター選手にはなれない。なぜなら、どうやったら観客が盛り上がらせられるかを、肌で感じていないから。

ゲーム産業はかちゃいいのではなく、観客を熱狂させる必要がある。それが所謂、市場で求められているマーケット価値。

ゲームに限らず、「何が評価されるのか」「どうすれば評価されるのか」という基準は、実は不明確な場合が多い。さらに流動的な場合も多い。

よって求められるのは「今、この市場では何が求められているか」を敏感にかぎ取るスキルが大事で、それを「マーケット感覚」という。(学校では、この基準がいつも明確だったのである意味楽だった)

人気って、ない人からすると、本当にどうしていいかわからないもの。


〇自己決定することが大事

所謂、学歴エリートは、自己基準による意思決定をした機会が少ない。大学は偏差値の高いところ、会社は周囲と比較していいところ、入社後は、人からうらやましがられるポストへ。。。。

この大きな船から降りるのは大変。だって、周りも止めるし、「家族のため、親のため」っていう呪文を唱えると、思考停止を正当化することが出来る。(それが本当に誠実に自分自身と向き合って、突き詰めて考えた結果の「自己決定」であれば、納得感は生まれるのだろうけど)

そもそも、自己決定してきた経験がないから、とにかく怖いのだと思う。

(これは心底納得。自分で考えるよりも、誰かに考えてもらう方が安心だし楽なんだよね)


〇社会的な評価は、いい人生だと思うために必要

必要だけど、それだけが目的になるとつまらん人生に。それを得るためのテクニカルな方法に走っちゃうから。自信を得るうえでは必要だが。励みにはなるけど、ゴールにはならない。


〇小さいときに好きなことができたり、やるべきことができるのは、「解けない呪い」にかけられたようなもの

解けない呪い、だから、損得勘定から考えると合理的ではなくても、続けてしまうし、合理的な理由で辞めてしまった場合には、一生、後悔することになる可能性も。

合理的でなくても続ける意味はある。(成功するかは、不明だが)


自分にとっての、「農業」というフィールドは、この「解けない呪い」に近いものがあるなぁ、と感じた次第でした。



長いので、メモついでに、②に続きます。


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